燃やし尽くした黒魔術師のフラッシュバック
──生きながら焼かれる最中、始終、獣のごとく裸の痩躯は転げまわった。奇っ怪な文字と図形で魔方陣が描かれた床の上を。
無意味。雄叫びを上げる暇もない。使い手は唱え慣れた呪術の文言を、ひたすら念じるように呟く。怪物の抵抗はまったくの無駄だった。ふいの放火に対処する防御のタイミングも、攻撃に転ずるのに必要なチャンスも、いささかも与えない。無防備なところをつかれ、魔物は聖油を全身に掛けられてすぐさま紅蓮の炎に包まれた。
狭い密閉空間に火の粉が舞う。
魔法使いの口から断続してこぼれる呪文。高熱の火焔で生じた気流によって、彼の身につけていた黒の法衣がはためく。発火もとからは少し距離を置いた場所で。
魔物はもはや気が狂ったように唸るしかない。暴れて四肢をでたらめに振りまわす。細くしなる体躯が激しく波打つ。
が、鎮火するどころか、ますます全身をまわる火の勢いは増した。呪術師の長年使い古した杖はオリーブをたっぷり塗られ、ぱきぱき音を立てて、炎を噴き上げ燃えている。
最後の抵抗を試みようと、火に皮膚が溶けた化け物は必死に焼けながらも手を伸ばしたが、届かなかった。こちらの掌中にある魔法の杖はどうせ、精霊の力を宿した木でつくられていて容易に折ることはできない。だが燃えさかるただの炎ならば、ふつうの木材と変わらず燃焼して炭化してしまう。
せいぜい苦しんで死ぬがいい。呪詛の言葉がもれた。
黒き悪魔よ、きさまも灼熱地獄を死ぬその直前までとくと味わうがいい。そしてその罪業の身にも同じ黒き灰塵へと化すがいい。
魔物がうつぶせで動きを止めた。ごとりと、呪われた未来を暗示するように、翳るクリスタルが転がった。