切り裂いた拳闘士のフラッシュバック
──肉に鋭い鉤爪が喰いこむ際、戦士は獣の咆哮に似た凄まじい叫び声を上げた。
彼はそのまま床を転がりながら回し蹴りを放った。逆鱗に触れられたドラゴンの爪の、当の持ち主が反撃する。が、魔物の攻撃はむなしく空を切った。威力が減じたうえ予測してもいたので、不利な形勢といえども寸でで避けるのはわけもない。本能に従うまま再度、武器を装着した拳が敵にくりだされた。
祝祭のファンファーレを盛大に奏でるようにわめき、もだえ、のたうちまわる。戦士の軽量丈夫なボディアーマーに真っ赤な血飛沫が散る。直前に味わった快楽の余韻は、倒錯したサディスティックなそれに急変し、巨大な鋼翼竜の鱗で護られてない裸の姿で、涎を垂らし白眼を剥いた。
鋼鉄をも貫く鋭利な爪がうなり、みたび戦士を襲う。素早く身をよじってかわす。そこで、すかさずもう片方の拳を叩きこんだ。
ごっそり怪物の硬い筋肉でおおわれた右肩が抉れ、吹き飛んだ。かたらわの防具ひとつに衝突し砕ける。あおむけに倒れたところにもう一度、全体重をのせてぶつかった。
憎悪と怒りをこめ、心の臓めがけて。
ずぶりと厚い皮膚を深く突き破った感触。断末魔の悲鳴を上げる間もなく、魔物は息を止めた。
あっけない。
ふと、振り返る。たぎった血液と不浄な体液をこの身に浴びながら。
小窓から黒々としたあざやかな闇が覗いていた。