新月の暗い夜
あたりにたむろする漆黒の闇から、ナニモノかもしれぬ獣がしきりに吼えたてる。
古びた木造家屋の軒先で、吊るされたランプに蛾がたかって気忙しい輪舞曲を踊っている。鉄板のプレートが嵌まる、傾いだ扉を押すのに歩を止めたとき、マントの下に背負ったシルヴァーソードの重みをしたたか意識した。使い古し、使い捨てられ、血を吸って錆びた鈍色を。
月も星もない真っ暗な夜更け。
茫漠とした荒れ野にとり残された町。眠りに支配された家々を進んだ先に、外燈にぼんやり照らされる目的の看板が見えた。うらさびれた町中の、うらさびれた安酒場。ひそかに賞金稼ぎや傭兵が集う亡者たちの棲みか。
獣の咆哮はどこか遠くて近い。
獲物を狙う獣の、闇に光る狂暴な双眸がちらりと映る。しずかに血が騒ぐ。追うものと追われるもの。どちらが、どちらか。血に飢えて殺気立っているのか、仲間を喪って慟哭しているのか。
いずれにせよ、最後には死が待っている。皆殺しという呪われし大団円が。
魔物たちの祝宴、殺戮のパーティは今宵ようやく終焉を迎えるだろう。それまでは、可能なかぎり感情を殺さねばならない。感傷よりも、冷徹な殺意を。さもなくば、命はない。果たせない。
いや、この命と引き換えにしても……。
誰ともしれぬ暗殺者による復讐劇の幕が切って落とされたのも、ちょうどいまと同じ暗色に塗り潰された新月の夜だった。