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にょろにょろな日々  作者: 山田まる
2/9

まるとハブ


 蛇を飼い始めたのは今年の春、というまるですが。

 まあ、蛇という生き物自体はまるにとってそう縁遠い存在ではなかったのです。


 何せまるの実家は南国沖縄です。

 田舎の方にいけばなちゅらるに「ハブ注意」の看板が見られますし、実際子どものころにはとんでもない田舎に住んでいたまるにとっては、一番気を付けなければいけない身近な脅威でした。

 

 というわけでここで唐突ですが、我らがハブ先輩のご紹介をしたいと思います。

  

 クサリヘビ科ハブ族もといハブ属。

 毒の種類は出血毒。

 神経毒と違って致死率は低いものの、咬まれるとめちゃくちゃ痛い。

 この出血毒、タンパク質を分解する唾液に含まれる酵素が進化したものらしく。

 その毒にやられたらどうなるかというとまあ、タンパク質が溶けます。

 血管が溶けた結果内出血、酸素が運ばれなくなった結果始まる壊死、重症の場合は筋組織まで溶かすというのだからマジ怖い。

 

 この溶かされた組織は血清で毒が中和されたからといって治るわけでもないため、手足の切断や、麻痺といったような深刻な後遺症が残ることも。

 

 まるが子どもの頃などは、ハブに咬まれて後遺症を抱えるお年寄りがボランティアで学校を訪れ、生徒相手にいかにハブが恐ろしいのかを語り、ハブに対してどのようにして備えるのか、という校内行事があったほどです。

 

 ちなみに、このハブさん。

 日本に住む毒蛇の中では実は毒の強さは第三位。

 一位はマムシ、二位はヤマカガシ。

 

 三位なんだからそんなに怖くないのでは、と思うかもしれませんが。

 まず大きさが違う。

 これまでに見つかったハブの最大全長が250センチ。

 まるよりでかい。

 というか大抵の成人男性より大きい。

 平均的に100~150センチあります。

 

 で。

 マムシというと平均サイズが45~75センチ。

 毒性の強さではマムシに負けているわけですが、そこを量で補うハブ先輩。

 こう、レベルを上げて物理で殴られた感がある。

 

 一方ヤマカガシは70~150センチ、と言われています。

 

 そう来ると、ハブと同じぐらい大きくて、ハブより強い毒をもっているならヤマカガシの方が凶悪なのでは、と思うかもしれませんが。

 ヤマカガシさんは毒牙が口の奥の方にあるので、普通に咬まれただけでは毒を注入されることは滅多にないらしいです。そのせいか、昔は無毒の蛇だと思われていたのだとか。

 

 ちなみにマムシもヤマカガシも基本的には臆病な蛇で、人間の方からちょっかいを出したり、追い詰めてしまったりしない限り咬まれることは少ないそうです。


 それに比べてハブときたらめちゃくちゃ好戦的。びっくりする。

 ガラガラヘビやキングコブラだって威嚇するぞ。

 なんでお前そんなサーチ&デストロイなの。

 こう、結構普通の蛇は人や他の動物が近づいてくると逃げるのです。

 少し距離をとって威嚇して、「俺はここにいるぞ! これ以上近づくと咬むぞ!」とアピールするわけなのですが。

 ハブ先輩ときたら威嚇行為なしにとびかかってきやがります。

 そんなわけなので、ハブの存在に気づかず近づいてしまったところで突然物陰から襲われ、ガブっとやられる、というパターンが多いです。

 どう考えたって人間なんて呑めないサイズなのだから、無用な争いは避けようとかそういう気持ちにならないものなのか。 

 

 さらに主にネズミを餌にしているため、ネズミが出没する民家にも平気で侵入してくる上に、そのついでに寝てる人を咬んでいったりする見境のなさ。

 何故そんなにもアグレッシブなのか。

 

・草むらには不必要に足を踏み入れない

・山に入るときは長袖、ジーンズ、裾は靴下に入れて運動靴を履く

・首にタオルを巻く


 子どものころまるが叩き込まれたお約束です。

 首にタオルを巻くのは、ハブは樹上にもよくいるため、たまに降ってきて咬まれることがあるからです。こわい。

 というか本当木の下を人が通るぐらい許してくれても良くないですか。

 あと、

 

・ハブを見つけたら絶対殺せ。

 殺せないなら絶対に目をそらすな。


 という風に教えられたという同郷の友人もいました。

 自分で殺せない場合は人を呼ぶわけなのですが、そのときに怖いからといって目をそらしてしまったり、背を向けて逃げてしまうと、つまりハブの方も逃がしてしまうわけなので次の被害につながる可能性が高い、というわけです。

 なのでハブから距離をとって自分の安全を確保しつつ、ハブが移動するならどちらに向かって逃げたのかを見届け、報告しろ、ということなのだそう。

 

 4歳から6歳までの三年間、まるは父親の仕事の都合で沖縄の中でもかなり自然の残った「ヤンバル」と呼ばれる地域で暮らしていたもので、そんな恐ろしいハブ先輩がわりと身近にいました。


 飼育小屋に行く度どんどん減っていくウサギ……。

 なんか飼育小屋の片隅でめっちゃツチノコみたいになってるハブ……。

 腹が膨れる前は金網潜り抜けて侵入するわけですが、ウサギを呑んだ後は腹がつっかえて出られなくなり、翌朝ウサギやニワトリの世話をしにきた飼育当番に発見されるわけです。

 

 花壇の手入れをしていたら目の前の石垣の隙間からにょろっと出てきた、というようなこともありました。


 その時まるは小学校一年生。

 突然コンニチハしたハブに呆然と固まることしかできなかったわけなのですが、隣にいた小学校高学年の男の子がごくごく当たり前のように鍬でハブを滅多打ちにした後川にむかって ぶ ん 投 げ た のを未だに覚えています。


 つよい。

 田舎の民つよい。


 あと小学生にとってはウキウキのプール開きの当日、プールのど真ん中をハブが悠々と泳いでいたため速攻プール開き中止、なんてこともありました。


 あいつら泳ぎもめっちゃうまい。

 塩素なんて知ったこっちゃねえ、とばかりに気持良さそうに泳いでおりました。


 咬まれたら大事なので、プールの水を全部抜き、発見されたハブを駆除、その後他にも潜んでいないか総点検が行われ、その後ハブの侵入経路を究明し、その原因を解決するまでプールは閉鎖されておりました。

 まるの小学校のプールは1・2メートルほど運動場より高いところに作られた、周囲をフェンスで囲まれた屋外プールだったのですが……どうやら運動場側に生えていた松の木の枝がプールの敷地内にかかっていたのがその時の敗因でした。

 ハブは松の木を登り、枝を伝ってプールに忍び込んだのです。


 というか運動場にハブがいるのもどうなんだ。

  

 そんなわけなので蛇を見たらハブと思え。

 咬まれたら死ぬと思え。

 

 そんな教育が叩き込まれていたまるなもので、「蛇を飼う」なんていうのはこれまでの人生でちらりとも頭を掠めたことはありませんでした。

 

 蛇とは恐ろしいもの。

 野山で遭遇したら殺るか殺られるか。

 

 そんなイメージでした。

 幸いこう蛇の形が怖いとか、生理的嫌悪感がある、というわけじゃなかったので

「蛇はペットとして飼える」というアイディアにわりとすんなり馴染めたわけなのですが。


 それがなぜ気づいたらにょろにょろ四匹に囲まれていたのか。

 そんなのをのんびり語っていけたらよいなあ、と思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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