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2章 デビル

2章 デビル


睡眠中の夢を見る時、それが夢だと気付かない人と気付く人の2種類がいるが神保聡介は後者だった。

(ああ……これ……夢の中だ……)

今自分が見ている映像が過去の出来事だと途中で気付いてしまったのだ。

それは冬の寒い日。

神保は都内の小学校に通う女子生徒たちが相次いで意識不明になり原因不明の昏睡状態に陥るという事件の調査をしていた。

同じ学校に通う生徒達、学校周辺に住む人達に聞き込み調査を行ったものの少女達の昏睡に繋がる手がかりはまったくと言っていいほど集まらず、神保は自分のデスクで深く嘆息する。

(そう……確かこの後彼女が出てきて……俺の知っている常識は壊れていったんだ)

 今度は少女達の住む家の周辺に聞き込みをしようと時葉警察署から出てきた時、夕暮れの中、門の前でツインテールの髪型をした少女が一人で立っているのを神保は見つけた。

「あの子は……」

 その少女は昏睡状態の少女達の友人で、同じ小学校に通う遠藤佳代子だった。

ランドセルを背負っているところを見ると学校帰りなのだろうか。

「やぁ、佳代子ちゃん。どうしたの?」

夢の中の神保はすぐさま佳代子に駆け寄り、出来るだけ明るい声挨拶した。

意識を失った3人は同じ学校で同じクラスだ。

玉城香澄。

大島裕子。

木村絵里の3人は学校でいつも固まって行動していたという。

そこで神保達警察はクラスの生徒から3人についての聞き取り調査を行ったのだがその中にはこの遠藤佳代子も含まれている。

聞き取り中、生徒達は3人の普段の学校での過ごし方や事件直前の様子などを話してくれたが佳代子だけはどこか怯えた様子でこちらの質問には一切答える事は無かった。

「刑事のお兄さん……私……」

「何か話す気になってくれたのかい?」

 見えない何かに怯えるように佳代子は体を小刻みに震わせている。

聞き取りに答えてくれた生徒のほとんどが倒れた3人はいつも佳代子を入れて4人で遊んでいるのだと話していた。

そんな佳代子が今、自分の意思で警察署まで来て何かを伝えようとしている。

神保はようやく原因の解明に一歩前進できるのかと安堵しながら佳代子の次の言葉を待った。

「私達、ただ遊んでただけだったの」

「……遊んでた?」

 声を震わせながら出てきた言葉に神保は首を傾げる。

「ルールがちゃんとあって、それを守らなきゃいけなかったのに香澄ちゃんが途中で怖がって指を10円玉から離しちゃったの……」

 一体何の話なのか神保には解らなかったが重要な手がかりとなるかも知れないため黙って最後まで聞くことにした。

「それで、香澄ちゃんにつられて次は裕子ちゃんが指を離したの、その次が絵里ちゃんで最後が私」

「最初は香澄、その次が裕子、絵里……」

 相変わらず何の話か解らなかったが、今佳代子が挙げて言った名前の順番は3人の昏睡状態に陥った早さの順と合致する。

最初に玉城香澄。

学校の体育の時間中にドッジボールをクラスメイトと楽しんでいる最中突如として意識を失い倒れた。

その1週間後に大島裕子。

ピアノの発表会での演奏中に突然意識を失い倒れる。

更に2週間後には木村絵里。

朝になってもなかなか起きてこない絵里の母親が確認に部屋に入ったところ昏睡状態に陥っている絵里を発見した。

3人とも外傷は無く、病院に寝かされている体は健康体そのものだった。何故この娘達は目を覚まさないのだろうと意思も首を傾げるほど綺麗なままだ。

「最後は私なの。私が襲われるの……!」

「落ち着いて佳代子ちゃん。襲われるって一体誰に……?」

 恐怖に震える佳代子は声を絞り出すように答えを口に出す。

「メリーさん……!」

 その名前は神保も小さい頃に聞いたことがあった。地方によってやり方や呼び方が違うものの基本は文字を書いた紙とコイン、そして複数の人間がいれば出来る簡単な占い遊びだ。

神保が小学生時代の頃流行ったやり方は用意した紙の中心に神社の鳥居を真似たマークと左右には『はい』と『いいえ』を書き、鳥居の上に10円玉を置いて占いに参加するものは全員人差し指でお金を押さえつける。そして『メリーさん、メリーさんいらっしゃいますか?』と尋ねた後『いらっしゃいましたらどうか私達の質問にお答え下さい』と続けて2択で答えられる質問を開始する。すると、全員が人差し指で押えているにも関わらず10円玉が勝手に『はい』か『いいえ』の方へ動き答えてくれるというものだった。

ちなみに遊びを終える時は鳥居の位置に10円を戻して『ありがとうございました』と一礼しなければならない。そうしなければメリーさんが怒らせて呪われてしまうらしいという怪談遊びにありがちな罰則がある。

神保自身がこの遊びをやったことは無かったが、占いに敏感な女子の間では『メリーさん』や『こっくりさん』、『キューピッドさま』などとそれぞれ好きな呼び方で遊んでいた事は覚えている。

「メリーさん……」

「お願い……佳代子まだ死にたくない……」

 普通なら冗談だと笑い飛ばすところだが、目の前の佳代子は体を震わせながら目には涙を浮かべていたのでとても冗談には思えなかった。

 目には見えない存在の呪いによって人間が昏睡状態になる話などにわかには信じられなかったが、他に原因や手がかりが全く見当たらない今の状況で3人の友人である少女の証言は事件の解決の糸口になるのではと考えた神保はまず佳代子を安心させる為に真っ直ぐに目を見て言った。

「大丈夫。君の事は必ず僕が守るよ」

 佳代子の震えが少し収まったのを確認した神保は近くの喫茶店に2人で入り事件当時の

様子を出来るだけ時間をかけて細かく思い出させて話を聞く。

 佳代子の証言によると、放課後にメリーさんをやろうと言い出したのは玉城香澄だったらしい。

占い好きな佳代子、裕子、絵里の3人は二つ返事でOKしたが佳代子だけはメリーさんのやり方を知らなかったので香澄達に教えてもらいながら参加する形となった。 そして放課後。一つの机を4人の女子が囲んで座る。

用意した紙を机に置き、ひらがなを五十音順に書き並べていく。

「ちょっと待って佳代子ちゃん。ひらがなを紙に書いたのか?」

 喫茶店のテーブル席で話を聞いていた神保が疑問の声をあげる。神保の小学生時代に流行ったメリーさんのやり方には紙にひらがなを書く事などしなかったからだ。

「うん。ひらがなを書いた後、余白に鳥居とその左右には『はい』と『いいえ』を書いたよ」

「そのひらがなって何に使うんだい?」

「メリーさんがはいといいえの2択で答えられない質問にはそのひらがなを使って答えてくれるの。香澄ちゃん達と遊んだ時はそれを使ってクラスの好きな人とかを占ってたよ」

 暗い表情のまま答える佳代子。

どうやら時代が進むにつれて昔流行った占い遊びのやり方にも多少の変化があるようだった。

まだ自分の知らない追加ルールがあるのでは無いかと考えた神保は話の続きを聞く前に現代版メリーさんのやり方を佳代子から教わる事にする。

占いを終えるまで10円玉から指を離してはいけない。

質問の内容はメリーさんが30秒以内に答えられるものではないといけない。

占いに使った紙は破いて燃やし、10円玉は3日以内に使いきらなくてはならない。

メリーさんを使った遊びは30分以内に終わらなければならない。

聞くとひらがなを紙に書く以外にも神保が知らないルールが4つも追加されていた。

そしてルールを破った者はメリーさんに呪われてしまい、肉体から魂を抜かれてしまうのだとか。

「魂を抜かれる……」

 確かに肉体的には健康状態な状態で謎の昏睡状態に陥っている香澄、裕子、絵里の3人はまるで魂を抜かれているようだった。

佳代子が異常に怯えているのにも納得できる。

「話を遮って悪かったね。続けてくれ」

 メリーさんの知識を少しだけ深めた神保はコーヒーを一口飲みながら佳代子の話を最後まで聞くことにする。

どうやら香澄達4人は途中まで普通にメリーさんを使った占いを楽しんでいたようだ。 変化が起きたのは恋愛系の占いをしようと絵里が言い出し、最初に香澄が片思いをしている男子に好きな子がいるかという質問をメリーさんに投げかけた時だった。

答えを聞くことを恐れた香澄が途中で10円玉から人差し指を離してしまったのだ。

最初はそんな香澄の様子を笑っていた佳代子達だったが、すぐに異変に気付き顔色を変える。

自分たちが抑えている10円玉がいつまでも止まらずに動き続けていたからだ。

の、ろ、っ、て、や、る。

10円玉は一文字ずつゆっくりと移動していき4人に一言『呪ってやる』とメッセージを伝えた。

その不気味さに裕子が手を離し、つられて絵里と佳代子も指を離す。

しかし、誰も触っていない10円玉が止まる事は無く独りでに『呪ってやる』の6文字を行き交い続けた。

4人は紙と10円玉を机の上に放置したまま一斉に教室から逃げ出したが翌日学校に来て見ると紙も10円玉もなくなっていたそうだ。

その後も特別何かあるわけでもなく4人は普段の学校生活を過ごす。

しかし、メリーさんで遊んだ3日後の体育の時間。

クラスメイトとのドッジボールを楽しんでいた香澄が突然悲鳴を上げてグラウンドに倒れこむ。

 担任の教師が駆け寄った頃にはもう香澄は意識を無くし、昏睡状態に陥っていた。

病院に運び込まれ検査を受けても原因と解決策は解らず、担当医師は頭を抱える。

「そして、それに続くように裕子と絵里も意識を失っていった……と」

 神保の呟いた言葉に佳代子は小さく頷く。

「こんな馬鹿げた話……信じてもらえないよね?」

「確かに俄かには信じ難い話だけれど、どうして今話す気になったんだい?」

「最初は怖かったの。誰かに話せばメリーさんがもっと怒るんじゃないかって」

 そう話す佳代子は今も小刻みに体を震わせている。

「でも、大人の人や警察の人達に話せば香澄ちゃん達を助ける手がかりになるんじゃないかって思ったの」

 目に涙を浮かべながら震える少女の頭を神保はそっと撫でる。

「君は人のために動ける強い人間なんだね」

この少女を守らなければならない。

警察官として、一人の大人として。

神保はこの時、何としても佳代子を守ることを強く胸の中で誓った。

話を聞き終えた神保は喫茶店を出たところで佳代子と別れる。

「メリーさん……か」

 もしも佳代子の証言通りならば、今回の事件の犯人は人間では無いという事になる。

果たして見ることさえ適わないかもしれない存在を信じてもいいものだろうかと己の胸に問いかけてみる。

もちろん神保も一人の大人だ。佳代子の話を全て鵜呑みにしたわけではない。

しかし、事実として3人の女生徒が同じ遊びをした直後に昏睡状態になっている。それも周りの目があるグラウンドやピアノの発表会、更には自宅でだ。

とても人間の成せる犯行ではない。

どちらかと言えば神保は現実主義者で幽霊や超能力などの類は信じない性格だった。 だが今回は現実主義者だからこそ非現実的な存在を認めなければならない。

同じ学校で同じクラスの女生徒達を同時期に昏睡状態にさせることなど人間には不可能なのだ。そう、人間には。

だが人の常識を超えた存在ならば可能なのかもしれない。

「今は信じるしかないな」

 非常識な事件には常識を当てはめても意味がないと悟った神保は無理矢理に超常的な存在を受け入れる事にする。

「それにしても幽霊が相手とは」

 超常的な存在を信じると決めた神保にはすぐに次の問題が襲ってきた。

現実主義者として今まで生きてきた神保にはそれらに対抗するための知識がまったくと言っていいほど無かったのだ。

「仕方がない……」

 スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、アドレス帳からある人物を選んで電話をかける。

しばらくのコールの後、留守番電話サービスに繋がるが神保は動じない。今まで彼に電話をかけて本人が出たことは一度もないからだ。

「やぁ、久しぶりだね翡翠。実はちょっと相談があって今から君の家に行こうと思うんだ。急ですまないがよろしく頼むよ」

 留守電に一方的な伝言を残し、神保はたまたま通りがかったタクシーを拾って乗り込んだ。

目的地は町外れにある大きな屋敷。

そこには神保の高校時代の級友で、現在は世界的な画家として活躍している蔵島翡翠が住んでいた。

10分ほどでタクシーは目的地の前まで着き、神保は運転手に帰りも乗る旨を伝えて一度下車する。

蔵島翡翠の住む屋敷は高い石階段を上って行かねばならず、神保はここに来る度にいつもため息をつく。

「エスカレーターとか付けてくれないかなぁ」

馬鹿なことを言いながら長い石階段を一歩一歩上っていく。

「この石階段、昔はよく上ってたなぁ。プリントとかを届けに」

 一段上るたびに高校時代の翡翠との思い出が蘇る。

蔵島翡翠という男子はとにかく学校では無口で一人だった。

特に他人からのいじめや嫌がらせなどは無く、翡翠自身が集団行動を嫌って自分から孤立していた。

学業も体育も苦手だったが唯一美術のみずば抜けた好成績を残し、翡翠が授業で画いた絵はいつも何かしらの賞を取り、その才能を活かして現在は画家をやっているらしい。

 階段を上りきり、目の前の大きな和風門を叩く。インターホンも取り付けられているのだが、それで翡翠が出た試しがないので神保はいつも門を何度も叩いて呼び出す手段をとっている。

「来たぞ翡翠! 開けてくれ親友。ひ~す~い~く~ん!」

 門を叩きながら翡翠を呼び続けること2分。

「るっさいわボケナス! 居留守してんだからいい加減に諦めねぇか!」

 怒声と共に内側から勢いよく門が開かれる。

 怒りの形相で現れたのは目つきの悪い三白眼にボサボサ天然パーマの黒髪が特徴的な体の細い青年、蔵島翡翠だった。

「親友が久々に尋ねてきたというのに酷いな君は」

 ジャージに便所スリッパというだらしのない身なりで怒り狂う翡翠に動じることなく笑顔で対応する神保。

「何の用だよ。急に押しかけやがって」

「急ではないだろう。ちゃんと留守電にメッセージを入れておいただろう?」

「アポなしで10分前に『今から行く』なんて言われるのが急じゃないと!? 大体俺が外出してたらどうするつもりだったんだ」

「君が画の出展以外で外出するなんてことはほぼ無いだろう」

失礼な事を断言する神保に翡翠は益々不機嫌になっていく。しかし事実なので何も言い返せなかった。

家に入る前に和風門の下で喧嘩をするのは2人が学生の頃からの一連の流れだ。引き篭もりがちな翡翠を神保が引っ張り出して短い口論が始まる。

学生時代の懐かしを感じた神保が思わず噴出し、そんな様子を見て翡翠も自分ばかり怒るのが馬鹿らしくなって大きなため息をついて気持ちを落ち着かせた。

「で、何しに来たんだよ?」

「ああ、すまない。その事なんだが少し話が長くなりそうなんで良かったら屋敷に上げてもらえないか」

 笑顔のまま近づいてくる神保を翡翠は眉間に皺を寄せながら門の前で大の字になり通すまいとする。

「傷つくなぁ。そんなに嫌がらなくてもいいだろう?」

「お前が俺に『話がある』っていう時は一度の例外なく必ず厄介だったり面倒臭いことを頼みに来るときだ」

「誤解だよ翡翠。そんな事はないさ」

 神保は極めて穏やかに振舞いながら両手を翡翠の肩に置く。

「そ、それにお前を屋敷に上げたが最後。俺が頼みを聞くまで絶対に帰らない」

「嫌だなぁ。人の事を駄々っ子みたいに言わないでくれよ」 

「お、おい。やめろ押すなやめろ……!」

 表情を固定したまま強引に中に入ろうとする神保を何とか押し戻そうとするが、圧倒的な体力と筋力の差に翡翠が太刀打ちできるわけも無く勝敗はすぐに決まった。

「さぁ、屋敷内で話そうじゃないか」

「ちっくしょう。ぜ、絶対話を聞くだけだからな! 絶対だからな!」

 息を全く乱さずに門をくぐった神保とは対照的に肩で息をしながら翡翠が悔しそうに屋敷の玄関を開いた。

中に入った神保は広い廊下を歩き、翡翠の仕事場兼自室に通される。

10畳以上ある広い和室には畳まれた布団とイーゼルに立てられたキャンバス、そして先程まで使っていたのであろう絵の具などの画材だけが有った。

「君の部屋は相変わらずだな……」

 殺風景な部屋の様子に呆れる神保には構わず、翡翠は自室の真ん中に腰を落とす。神保も翡翠の正面に正座した。

「相変わらず画いてるのか……君の〝怪画〟はいつ見ても背筋が寒くなるな」

 部屋の隅に置かれた白いキャンバスには真っ黒な猫が描かれていた。それもただの猫でなく尻尾が2本あり、大きな口で人間を丸呑みしようとしている不気味な猫が。

こんな悪趣味な画を高額で買い取る者が多数いるというのだから神保には美術の世界が全く解らなかった。

「自信作さ。タイトルは〝猫又〟だ」

「猫又?」

「尾が2本ある猫の妖怪のことだ。主に生前酷い死に方をした猫が化けると言われているが〝化け猫〟と違うのは人の形を模倣せずにあくまで猫として人間を襲うところだ」

 自分の絵のことになると途端に饒舌になる翡翠だったが、神保は妖怪についての説明を受けたところであまり理解できずに思わず苦笑いで誤魔化してしまう。

「さて、そろそろ本題を聞かせろよ」

「ああ。実は今回の相談なんだが、君の怪画にも少し関係があるかもしれないんだ」

「ほう?」

 今まで無関心そうだった翡翠の目の色が少しだけ変わる。

「翡翠。君はメリーさんって占い遊びを覚えてるか?」

「メリーさん……主に女子の間で流行ったやつだな。実体が解らないから俺は絵にしたことは無いが」

学生の頃から翡翠はこの不気味な妖怪や幽霊、悪魔や化け物の絵を画き続けている。まるで何かに取り付かれたかのように暇さえあればノートやキャンバスに書き殴っていた。 そんな翡翠のことをクラスメイト達は不気味に思い、距離を取っていたが神保だけは積極的に交流を深めようとしていた。

映画、スポーツ、TV番組、漫画、少しHな話。

男子高校生が好みそうな話題を振っても翡翠には全く相手にされなかったが、唯一オカルト系の話だけは詳しかったのを神保は今でも覚えていた。

「それで、そのメリーさんがどうした?」

小学校の女子生徒が謎の昏睡状態になる事、その原因が占い遊びのこっくりさんにあるかも知れない事など神保は自分が持っている情報を全て出しながら翡翠への状況説明を終える。

「なるほどな。それでオカルトに強そうな俺の所に来たということか」

「そう言うことだ。メリーさんに関することなら何でも良いから情報をくれないか?」

こんな突拍子もない話を笑い飛ばされないだけでも神保は安堵していた。少なくとも翡翠以外の人物だったならとても信じてはもらえない内容なのは自覚していた。

「メリーさん……ねぇ」

 腕を組んで考え込む翡翠の答えを神保はじっと待つ。

「神保。こういう霊的、超常的な事案には専門家に頼むのが一番だ」

「専門家ってインターネットとかで見かける怪しい霊媒師とかか?」

「中には本物もいる。まぁその人は霊媒師じゃなく探偵だが、こういった不思議な事件を専門的に扱っている」

「そんな知り合いがいるのか!?」

 予想外の返答に期待が膨れ上がり思わず身を乗り出す神保。

「ちょ、ちょっと落ち着け」

顔を目一杯近づけて今すぐ紹介しろと言わんばかりの神保をうざったそうに手で払いながら翡翠は続ける。

「その人は今海外にいるんだよ。別の仕事でな」

「海外……そうか」

 解決の力になってくれそうな人物が海外にいる事を知り、神保は肩を落とす。

「どれくらいで帰ってくるんだ?」

「多忙を極めているらしいが……ってそんな落ち込まなくても2ヶ月もすりゃ戻ってくるよ」

「2ヶ月か……」

 探偵の海外滞在期間を聞いた神保が眉根を寄せた。

その様子を見た翡翠が首を傾げる。

「どうした? 2ヶ月なんて長くもないだろう」

「メリーさんの被害者はきっちり1週間周期で増えているんだよ。3人目の被害者木村絵里が意識を失ってからもう4日経っている」

「つまり、あと3日後には新しい被害者が出ているかもしれないと?」

 あえて名前は出さなかったのだろうが、ここで言う被害者というのが佳代子の事を指していることは2人共承知していた。

「そいつには残念だが諦めるしかないな」

しばらくの沈黙を破って翡翠は冷酷な判断を下す。

「少ない数の犠牲が出るのはこの際仕方が無いだろう。そのかわり2ヶ月待てば強力な専門家が帰ってきてメリーさんを倒してくれるだろう」

「そんな馬鹿な! 佳代子ちゃんを見捨てろっていうのか!?」

 神保は当然その意見に食い下がった。

「呪いの元であるメリーさんを倒せばこれ以上の被害はなくなる。ここは専門家に任せるのがベストだろう」

「だけど!」

 神保の理想はメリーさんを倒し、佳代子とあわよくば意識を失っている3人の女子まで救うというものだった。

しかし、元々が現実主義者なだけに口では反論しつつも頭では翡翠が言っている事が正しいのだと理解している。

それでも神保は佳代子に守ると誓ったのだ。簡単には引き下がれなかった。

「俺達には超常的な存在に対する特殊な力が無い。ただの人間だからだ」

「君の知識がある!」

「残念だがメリーさんに関することは俺は何も知らないぞ。俺が詳しいのは自分が絵にしたいと思った怪異的なものだけだ」

 ヒートアップしていく神保を諌めるように翡翠は続ける。

「そもそも超常的な存在に敵対するっていう事の危険性を解ってるのか? 下手を打てば佳代子だけじゃなくお前だって被害に遭うかもしれないんだぞ」

「僕はどうなってもいい!」

 即答だった。しかし即答だっただけにその一言は翡翠を苛つかせた。

「命の危険だってあるんだぞ」

「警察に入った時からこの命は誰かのために使うと決めている!」

 これ以上何を言っても神保は引き下がりそうに無かったので翡翠は大きなため息をついて説得を諦めた。

 無言で立ち上がる翡翠を見て神保はこのまま見捨てられてしまうのではないかと不安に狩られる。

「お前も立て」

 屋敷から出て行けと続けられる思われた次の台詞は意外なものだった。

「お前を諦めさせるより、メリーさんを倒すほうが楽な気がしてきたよ」

 薄く笑いながら翡翠は右手を差し出す。

「翡翠……!」

 翡翠の手を掴み、神保も立ち上がる。

「ありがとう親友!」

「誰が親友だ誰が」

「本当に……ありがとうな」

「……おう」

 照れくさそうに頭を掻きながら部屋を出る翡翠。神保もそれに続いていく。

「それで、これからどうする? 翡翠もメリーさんの事は知らないんだろう」

 廊下を歩きながら神保は尋ねる。

「ああ。俺はな」

どこか含みのある返答をされながら案内されたのは長い廊下の突き当たりにある小さな和室だった。

翡翠の部屋とは違い、こじんまりとした5畳ほどの和室には小さな机や本棚が置かれてあり、人が住んでいるという生活感がある。

「ここは……」

「翠お婆ちゃん……俺の祖母の使っていた部屋だ」

 使っていたという過去形の言い方から、何となく故人なのだろうと察する神保。

 しかし、何故自分がこの部屋に案内されたのかは解らなかった。

おもむろに部屋に入ろうとする神保を翡翠が肩を掴んで止める。

「な、何だ翡翠」

「ちょっと待て。この部屋自体には用が無いんだ」

「どういう事だ」

 投げかけられた問いに翡翠は口では答えなかった。

無言のまま翡翠は5畳の部屋の真ん中に敷き詰められた畳を引っぺがしていく。

 畳の下に現れたのは重厚に閉じられた錆びた鉄の引き戸だった。

「これは……隠し部屋……!?」

「正確には隠し蔵だな」

 重そうに床の引き戸を開くと、長い石階段が地下へと続いていた。

「神保、俺の翡翠という名前の一文字は翠おばあちゃんから取ってるんだ。両親から祖母のような才能溢れる人物になれるようにという願いを込めて」

 階段下の暗い闇を見つめながら、翡翠は話し始める。

それが何の話か解らなかったが、神保は黙って聞くことにした。

「俺の祖母、蔵島翠は数々の超常現象問題を解決してきた最強の霊能力者だった」

「君の祖母が霊能力者……」

 あまりの驚きに神保は目を見開く。

「階段を降りた先にはその祖母が残してきた大量の記録が残っている」

「成程。その知識を借りてメリーさんを倒そうというんだな」

 ようやく話が見えてきた神保が翡翠の話の続きを補足する。

「じゃあ早速――」

「最後の確認だ」

 急いで階段を降りようとする神保を制する翡翠。

「何だ?」

 右手を前に出して神保を止める翡翠はどこか迷っているように見えた。

「この階段を降りればお前の常識が変わる」

 視線を階段から神保の両目に移し、真剣な表情で見つめる。

「世界が一変して見えるようになるだろう。それはお前のこれからの人生を大きく変えてしまうだろう」

 恐らく自分の身を案じてくれているのだということを神保は察し、翡翠とは対照的に軟らかい表情で返す。

「さっきも言ったろ、命をかけるって」

 そう言って神保は階段を一歩降りる。

翡翠は諦めたように苦笑いをして、それ以上は何も言わず携帯のライト機能をオンにして一緒に階段を降りた。

「これは……すごい……」

 長い階段を下り終え、ライトの光りで地下蔵を照らした神保は感嘆の声を上げる。

蔵島翠が自室に隠していた地下蔵は人間を千人は収容できるのでは無いかと思えるほどの巨大な空間に木製の本棚だけが所狭しと並んでいた。

「ぼーっとすんな。探すぞ神保」

 あまりの驚きにその場に立ち尽くす神保に翡翠が後ろから声をかける。

「探すって……この中からか?」

「そうだ。この地下蔵はお祖母ちゃんが個人的に使ってたものだから本屋みたくカテゴリ別に分けられたりしてないんだよ」

 見渡す限りの本。

この中からメリーさんに関して書かれてある一冊を見つけるのはかなり骨が折れそうな作業だ。

「大変だな」

「けど……お前はやるんだろう神保?」

 早速手近な一冊を取ってライトでページを照らしながらメリーさんを探す翡翠。

「無論さ!」

 両の手で自分の頬を叩き、気合を入れた神保も検索を開始した。

そして2人がメリーさんに関する本を探し始めて3時間が経った頃。

「あっ、あったぞ神保」

 今にも死にそうな疲れ果てた声で翡翠が目的の本を見つけた報告をする。

「本当か。でかしたぞ翡翠!!」

 神保も疲れている表情で喜ぶ。

翡翠の祖母が残した本には一体どんな事が書かれているのか?

神保は翡翠の手で開かれているページを横から覗き見た。


簡易召喚型悪魔【Devil】について。

人間が簡易的な占いをする際に呼び出す悪魔。

日本ではこっくりさん、外国ではキューピッド様など国や地域によって多種多様な名前と呼び出し方があるのが特徴だ。

一般的に悪魔を呼び出すには紙とひらがなやローマ字等の文字、そして彼らを憑依させるための媒介が必要となる。

ここで言う媒介とは様々なものがあり、一般的な10円玉や銀貨などのコイン、鉛筆や針などの棒状の物を用いることもできる。

更に召喚者は悪魔をどのように使用するか自分でルールを決めなくてはならない。

 例えば占い中にくしゃみをしてはいけない。占いが終わった後は使ったコインを買い物に使わなくてはならない等、誰でも出来るような簡単なものでいい。

悪魔はルールを守っている間は大人しいが、一度でもルールを破れば容赦なく人間に呪いをかける。

呪いの形は様々だが、実際に悪魔に命を取られた者もいるという。

しかし恐れる事は無い。

呪いを解く方法は実に簡単だからだ。

その方法とは悪魔にルールを破らせて自滅させるというものだ。

彼らがまじない中に掟を破った人間に好き勝手できるように、悪魔がルールを破れば人間は彼らをまじない中好き放題に出来る。

だが解呪の方法とは逆に悪魔の命を絶つ方法は少し厄介だ。

悪魔は肉体が存在しない為、物理的な攻撃はまず効かない。

なので媒介から姿を現した時に神聖な霊力を放つというのが最もポピュラーなやり方である。

過去に私がデビルと対峙した際は命までは取らず、二度と悪さを働かぬように警告を呼びかけるのみの対応を取った。


「凄く詳細に書いてあるな」

「ああ。実際の呼び出し方や戦術も図面にしてくれている」

 あらかたページを読み終えた2人は蔵島翠の残した経験の結晶であるこの本を見て、ようやくメリーさん改め悪魔に対抗しうる知識を得た。

「なぁ翡翠」

「何だ?」

「この地下蔵って君の祖母が個人的に使っていた物なんだよな」

 疲れていてあまり頭が回っていないせいか翡翠は神保が何を聞きたいのかよく解らずにに首を傾げる。

「それなのになぜこの書物はこんなに説明口調で書かれているんだ?」

 神保には翡翠の祖母が残したこの本がどうにも読者に悪魔との戦い方を伝える為にあるとしか思えなかった。

ようやく神保の疑問を理解出来た翡翠は自分の持っている本を凝視する。

「そんな風に考えた事無かったな。ただのお祖母ちゃんの趣味だと思っていた」

 翡翠は優しい手つきで本を閉じる。

「君の祖母は一体……」

「翠お祖母ちゃんはとても優れた霊能力を持っている人だった。誰にも分け隔てなく優しく接して頼ってくる者の願いを無下にする事は一度も無かった」

 神保は黙って続きを聞く。

「そして周りに利用されるだけ利用されて、最後は過労で逝ってしまった。きっと死ぬ前に自分がいなくなっても困らないようにこの本の数々を残したんだろうな」

 それ以上は何も言わず、翡翠は神保の方をじっと見る。

目と目が合ったが神保は何と声をかけていいものか解らなかった。

「これも運命なのかな」

「どういうことだ?」

「神保、ちょっと俺に着いて来い」

 翡翠はそれだけ言うと地下蔵の奥へと歩を進める。神保は言われるがまま黙ってその背中に着いていく。

地下蔵の隅の本棚の前まで来ると、神保は目の前にある棚にだけ書物以外の物が並べれていることに気付いた。 

8段ある本棚の5段目。そこには他の棚とは違い、書物ではなく小さな木箱だけがひっそりと置かれてあり翡翠が無言のままそれを手に取り神保の前で開けて見せる。

「翠お祖母ちゃんの遺品だ」

 木箱の中には皮のホルスターに収納された拳銃が入っていた。

「これ、本物の銃か?」

「使う者によっては本物にもなるし偽物にもなる。少なくとも実弾は撃てない」

 言っている事の意味は解らなかったが実弾が撃てないという言葉のおかげで銃刀法違反には当てはまらずに済んだ事を神保は安堵する。

「こいつは銀銃。もしもこいつの引き金が引ければ銃口から超常的な存在を撃ち抜く光弾が発射される」

 そんな凄い銃を何故今見せられたのか神保は不思議に思う。

「対超常現象戦でのみ最強の性能を発揮する武器だ。今まで数多の霊能力者や神父や坊主が誰一人としてこの引き金を引けなかった」

「血縁者の君はどうだったんだ?」

 投げかけた質問に翡翠は首を横に振った。

どうやらこの銀銃を使うには霊能力や血縁関係とは違う何かが必要なようだ。

「この銃をお前にやる」

「え……ええっ!?」

 あまりに突然だったので神保は一拍空けて驚きの声を上げる。

「やるったって君……そんなの貰える訳無いだろう!」

 もちろん両手を振って断る神保。

しかし翡翠は差し出した木箱を引っ込めようとはしなかった。

「君の祖母の遺品なんだろう? 貰える訳無いじゃないか」

「別に構わない。遠慮するな」

 本気で拒否する神保の焦る様子を笑いながら翡翠はさらに木箱を前に突き出す。

「大体今までいろんな霊能力者が使えなかった物が僕に使える訳無いだろう!?

「使える使えないじゃない。お前は使わなくてはいけない」

「どういう事だ?」

 今日はよく自分の解らないことに遭遇する日だと神保は内心で肩を落とす。

「知識を得た今、メリーさんから少女を守るだけなら俺でも出来る。だけどそれはただのその場しのぎで悪魔の本体を叩ける訳じゃない」

 木箱を一度床に置き、銃の入ったホルスターを手に取った翡翠が神保の目を見ながら再び手をゆっくりと前に出す。

「神保、お前がもしもこれを撃てたら悪魔の本体を倒せる。つまり問題の根本的解消が出来る訳だ」  

 神保はようやく話を理解する。もしもメリーさんを倒せれば、佳代子達を助けた後でもこれ以上の被害は出ない。

「とりあえず手に取ってみろ。話はそれからだ」

 いつまでも銃を受け取らない神保の腕を取り、無理矢理銀銃を渡すと翡翠は木箱を元の本棚に戻した。

「本当にいいのか?」

「ああ。ここに置いといても埃を被るだけだ」

 軽い冗談のような言葉を口にすると翡翠は元来た石階段を上り始めた。

「対超常現象専用の最強の銃……」

 ホルスターから銃身を出すと。薄暗い地下蔵の中でもはっきり解るくらい拳銃全体が鏡のようにピカピカに磨かれてライトの光を反射していた。

「綺麗なリボルバーだな……シリンダーは一応あるにはあるが弾は入ってないな」

「当たり前だろ。トリガーを引いてみろよ」

 翡翠に言われるまま神保は親指でハンマーを起こし人差し指を引き金にかける。

「あれ? おかしいな……」

 トリガーを引こうとした神保はすぐに疑問の声を上げた。

 容易く起こせたハンマーとは違い、トリガーは指にどれだけ力を入れても何かに固定されたように動かない。

最初は安全装置を外し忘れたかと思ったがよく考えればリボルバータイプの銃にはそもそもセーフティはついていなかった事を思い出す。

外見は新品同然に手入れをされているように見えるがここだけ壊れているのではないかと神保は考え始める。

「別に壊れちゃいないぞ」

 目の前で困惑の表情を浮かべる神保の考えを察した翡翠が意地悪な笑みを浮かべながら言った。

「本当か?」

「以前にお祖母ちゃん以外でその引き金を引けることの出来た人物が一人だけいる」

「それって君がさっき言ってた探偵のことか?」

 翡翠は首を縦に振る。

「その銃を欲しがっていた他の霊能力者達は誰一人としてその引き金を引けなかった。銀銃に拒絶されたんだ」

「この銃に意志があるとでも言うのか?」

「俺も試してみたが駄目だった。色々やってみたがその銃を撃つための条件は全く解らなかった」

 蔵島翠の血縁者である翡翠でさえもこのトリガーは引けなかったらしい。

そんな厄介そうな銃を神保は正直扱える気がしなかった。

「お前が撃てなきゃこの世界のどこかでまたメリーさんの被害に遭う奴がでるだけだ」

 どこかプレッシャーをかけるように翡翠は神保の肩を叩く。

「僕がやらなきゃ……か」

 未だに微動だにしないトリガーを握りながら、それでも神保の手には力が入っていた。「さて、渡すものも渡したしそろそろここから出よう」

そう言って翡翠は石階段の方へと歩き出す。神保も銀銃をホルスターに収納した後に地下蔵から出て行った。

「ぷはぁ~っ、空気が美味い!」

 長い石階段を昇り終え、蔵島翠の部屋へと帰ってきた神保が登山家のような台詞を口に出す。

「何だらけてるんだ。勉強も終わったんだからさっさと準備して悪魔退治すんぞ」

 地下蔵の引き戸を閉め、その上に外した畳を再び敷き詰めていく翡翠がだらける神保に言った。  

「え、今からやるのか!?」

スマートフォンの液晶を見ると夜の十一時を過ぎていた。体力に自身のある神保も流石に悲鳴を上げる。

「時間が無いと言ったのはお前のほうだぞ」

「それはそうだが……。というか君は大丈夫なのか?」

 普段引き篭もりがちで体力も常人以下の翡翠がどこか活き活きとしているのに違和感を感じながら尋ねる神保。

その問いに翡翠は腕を組んで大きく頷いた。

「確かに俺は体力に自信が無い。しかし俺は今片付けられる仕事は次の日に持ち越さない主義なんだよ」

「変なところで律儀というか……」

「さっさとお前から開放されたいだけだ。ここは少し狭いから居間へいこう」

「居間で何をするんだ?」

 そう聞かれ、翡翠は邪悪な笑みを浮かべながらジャージズボンのポケットから10円玉を取り出す。

「決まってるだろう。俺とお前で今からメリーさんをやるんだよ」

「……え?」

 予想外の返答に神保はしばらくその場を動けず、先に祖母の部屋から出て行く翡翠の背中を呆然と見つめた。

その後、翡翠の自室横にある広い居間に入った2人は部屋の明かりを点けてさっそくメリーさんの準備に取り掛かる。

「えーっと、確か現代版メリーさんを始めるにはまず紙に五十音順のひらがなと『はい』と『いいえ』の文字に神社の鳥居のマークも書くんだったな」

 佳代子からあらかじめメリーさんのやり方を聞いていた神保はまず部屋の真ん中に置かれたテーブルに乗せるための白紙を探す。

「紙とペンならお前がこの部屋入る前に俺が自室から持ってきといたぞ」

 振り向くと翡翠の手には青色の画用紙と黒のマジック、更に画用紙と同じ青色のボールペンが握られていた。

「準備しててくれたのか。明かりを付けるまで君が何か持っていることに気付かなかったよ」

神保は画用紙とペンを受け取ろうと両手を出したが翡翠は「いや、必要な文字は俺が書こう」と言って差し出された手をスルーして持っていた青い画用紙を机の上に置く。

「なぁ翡翠。本当にやるのか?」

 手際よく黒のマジックで平仮名の『あ』から順に画用紙に書いていく翡翠の背中に神保が問いかける。

「何だよ、今更怖気づいたのか?」

 目線は自分の手元に向けたまま翡翠が聞き返すと神保は首を横に振った。

「僕の事じゃない。ここには最初、メリーさんに関する知識だけを教えて貰おうと思って尋ねたんだ……」

「だから俺までメリーさんの占いをやって危険な目に遭わなくても良いんじゃないかって言いたいのか」

 欠伸をしながら緊張感の欠片も無い翡翠とは対照的に神保は深刻な顔で頷く。

「ばーか。俺がお前の面倒事に巻き込まれるのなんていつもの事だろうが」

 自分の天パ頭を右手で掻きながら、画用紙に達筆な字を並べていく翡翠が笑い飛ばす。

「それにこの件に関わる事は俺にもメリットがある。生で悪魔を見れる機会なんて滅多にないからな」

 一度も振り向くことなく軽口を叩き続ける翡翠の背中が神保にはどこか照れ隠しをしているように見えた。

「安心しろよ神保。メリーさんは俺に手も足も出せねーから」

 画用紙に平仮名と『はい』と『いいえ』の文字、更に神社の鳥居を書き終えて振り向いた翡翠が自信満々に言ったので神保も「わかった」とだけ返して翡翠の対面に座る。

「で、具体的にはどうするつもりなんだ? 君の祖母の本は確かに悪魔についての詳細が書かれてあったが僕にはいまいち理解出来ない箇所もあってだな」

「確かに今まで霊や妖怪の類を信じてこなかった奴がいきなり悪魔だの簡易召喚だの契約だのと書かれたお祖母ちゃんの本を読んでも混乱するだけだろうな」

 10円玉を神社の鳥居を模したマークの上に置いた翡翠が今度は青いペンのキャップを取り外す。

「まだ何か書くのか。佳代子ちゃんに聞いたメリーさんのやり方ではこれ以上何かを付け加える必要はないはずだが」

 す、な、ぬ、は、ほ、など書くときにペン先が一回転する文字に出来る極めて小さな円の中に翡翠は青いボールペンで何かを書いていく。

「その作業がメリーさんを倒す策なのか」

「今集中しているから静かにしてろ」

 平仮名の『す』の中心部分の小さな円内でペンを走らせる翡翠の左手は一つの震えも起こしてはいないように見えたが、如何せん青い画用紙の上に青いボールペンを使っている為何を書いているのかまでは判別できなかった。

やがて全ての準備が整ったのか翡翠は青いボールペンをテーブルの上に置くと、立ち上がっての居間の豆電球以外の明かりを消す。

「さて、始めるぞ神保。覚悟は良いか?」

「ちょっと待ってくれ。何で部屋の明かりを消したんだ?」

 豆電球特有のオレンジ色の淡い光に照らされた部屋に違和感を感じる神保。

「暗いほうが雰囲気出るだろうが」

翡翠は一言だけで返すと再びテーブル前に腰を落とし画用紙の上に置かれた10円玉に右手の人差し指を置いた。

「ほれ、お前もはやく指を置け」

 声色から明らかにこの状況を楽しみ始めているのが見て取れたが、神保は何も言わずに翡翠の対面に座りなおし右手の人差し指を10円玉の上に置く。

その指は、僅かながらに震えていた。

「確か……悪魔にルールを破らせてその代償を払ってもらうんだよな?」

 神保は緊張に呑まれまいとを始める前に地下蔵で見た書物の内容と佳代子から聞いたルールを冷静に思い出す。

占いを終えるまで10円玉から指を離してはいけない。

質問の内容はメリーさんが30秒以内に答えられるものではないといけない。

占いに使った紙は破いて燃やし、10円玉は3日以内に使いきらなくてはならない。

メリーさんを使った遊びは30分以内に終わらなければならない。

人間側がこの4つの内どれか一つでも破れば占いの参加者全員が呪われてしまうが、逆にメリーさんがルール違反をした場合は人間が悪魔を好きなように出来る。

「そうだ。俺達で悪魔を嵌めるんだよ」

 口の端をつり上げて笑う翡翠の方が神保には悪魔に見えた。

「解った。じゃあ始めようか」

 しかし相手は本物の悪魔なのだ。

甘い事は言っていられない。

翡翠同様に覚悟を決めた神保は翡翠とともにメリーさんを呼び出す口上を読み上げる。「「メリーさん、メリーさん。いらっしゃいますか? いらっしゃいましたらどうか私達の質問にお答え下さい」」

唱えると同時にとてつもない気恥ずかしさが神保を襲った。

大の大人が2人揃って何をやっているのだろうと耳まで真っ赤にするが翡翠は至って真剣な顔だったので神保も折れかけそうになる自らの心に渇を入れる。

と、その時だった。

「なっ、何だ……?」

 小さい悲鳴をあげた神保が空いた左手で自分の懐を弄る。

「どうした神保?」

「銀銃が……!」

 スーツの上から手を当てると、先程地下蔵で翡翠から預かった銀銃がホルスターの中で激しく振動していた。      

「翡翠、これは一体!?」

「恐らくは……おいでなすったのさ」

 焦る神保をよそに2人の指で押さえているはずの10円玉は独りでに動きはじめ、鳥居のマークの左横に書いてある『はい』の上で静止する。

「なぁ君、今指に力を入れてたり」

「するわけないだろ。そしてお前も動かしていないならの正真正銘のメリーさんが来たってことだろ」

「どうして君はそんなに落ち着いているんだ!?」

 今、まさに自分たちが超常現象に巻き込まれているというのに翡翠の態度は冷静そのものだった。逆に神保はどんどん落ち着きを失くしていく。

「本当に10円玉が勝手に動くなんて――」

「神保!」

 見かねた翡翠が声をかける。

「落ち着け。俺に任せろ」

 しかし神保はよほど自分が見ている光景が信じられなかったらしく翡翠の声は全く届いてはいなかった。

独りでに振動しだす銀銃に力を入れていないのに勝手に紙の上を滑る10円玉。今まで普通の人間社会で生活していた神保を動揺させるには十分すぎるほどの材料だ。

相方のみっともない様子に翡翠は大きなため息を漏らす。

「あ~、メリーさんメリーさん。時葉町の刑事である神保聡介には今お付き合いしている彼女はいますかぁ?」

「んなっ!?」

 10円玉は『はい』の位置から真横に滑り『いいえ』の上で止まる。

「はははははっ!」

 その結果に翡翠は大笑いする。

「酷いじゃないか! プライバシーの侵害だ!」

「まぁいいじゃねーか。せっかくなんだから少し遊んだってよ」

「それにしたって今の質問は――」

「ちったぁ落ち着いたかよ?」

 その言葉に神保はようやく我に返り、翡翠に気を使わせてしまった自分を恥ずかしく思った。

「すまない」

「最初から悪魔と戦うって解ってたろうが。ちょっとやそっとの常識破りで驚いてたらキリがないぞ」

 翡翠の言う通りだった。

左手で自分の頬を強く叩き、己に喝を入れる神保。

その様子を見た翡翠は無言で頷き、作戦を続行する。

「メリーさん、メリーさん」

 ようやく落ち着きを取り戻せた神保だったが重要なのはここからだった。

メリーさんに如何にしてルールを破らせるのか。この問題を解決しなければならないが神保は翡翠がどのような手段を使うのかまだ知らない。

豆電球で薄暗く照らされた部屋の中、翡翠の次の行動に神保は集中する。

「俺の下の名前を教えて下さい」

「……はい?」

 期待とは裏腹に翡翠はただ先程のようにメリーさんに占いを頼んだだけだった。それも自分の下の名前が知りたいなどというあまりに間抜けな質問だったので神保は思わず肩から崩れそうになった。

「一体何を素っ頓狂な事を言ってるんだ君は!?」

「いいから見てろ」

 質問を受けた10円玉はすぐさま平仮名の『ひ』の位置まで2人の人差し指ごと自分を運び、今度は『す』の位置まで青い画用紙の上を滑って行く。

神保は不思議だった。

こんな質問に一体どんな意味があるというのだろう?

少なくとも『ひすい』というたった3文字で答えられる質問でメリーさんがルール違反をするとは思えなかった。

「こんな簡単な質問で悪魔がルール違反をするわけがない……そう考えたろ」

 見透かしたように翡翠が呟く。

「でもこの質問は絶対に答えられない」

「どういう事だ?」

 そう聞き返した時、神保はある違和感に気付いた。

10円玉が淡い青色に輝く『す』の文字の上から全く動かないのだ。

「10円玉が止まってる……これは?」

 指先で押さえる硬貨を見つめながら神保は考える。

しばらく考え続けてある事を思い出す。それは『す』を含む複数の文字に細工を加えていた事を。

「翡翠、これは何なんだ」

「青の陣だ。平仮名を書くときペン先が一回転するもの全部に青いペンで仕込んどいた」

「青の陣?」

 聞き慣れない単語につい神保はオウム返しをしてしまう。

「青色の塗料で作るまじない陣のことさ。陣の中に入った霊や悪魔の動きを止める効果がある」

 翡翠の台詞通り先程まで活発に画用紙の上を滑っていた10円玉は動きを封じ込められているかのように微動だにしなくなっていた。

「君は魔法が使えるのか?」

 呆然と10円硬貨を見つめる神保からの問いかけに翡翠は首を横に振る。

「こいつは霊力や魔力なんて必要としないお手軽なおまじないみたいなもんさ。もっとも霊能力者とかが使えば拘束時間も延びるだろうが、こいつには30秒稼げれば十分だ」

 2人で会話を続けているうちに気付けば30秒をとうに過ぎている事に神保は今更気付いた。

「占いの質問はメリーさんが30秒以内に答えられるものでなければならない。そして俺達はかなり答えの簡単な質問をした」

「でもメリーさんは30秒以内に答えられなかった。つまり……」

 神保の顔が思わずにやける。

「ルール違反だ。悪魔!」

 翡翠が高らかに叫ぶ。その表情は神保以上に邪悪な笑みを浮かべていた。

呼び出された悪魔がルールを破った場合、呼び出した側は何かしらの代償を悪魔に請求できる。

「悪魔はルールを破った。代償に俺達もルールを一つ破らせてもらう」

10円玉に話しかけるように言った翡翠は硬貨を押えていた人差し指をそっと離す。神保も後に続くように人差し指を離した。

「指を離して大丈夫か? 逃げられるんじゃ……」

「メリーさんの遊びは10円を鳥居に戻し、俺達が一礼するまで終わらない。メリーさんがいくら逃げたくてもこいつの意思ではこの遊びは終われないのさ」

 どこか意地悪く言う翡翠。

「とりあえず僕達の手はこれで自由になったけど、次はどうする?」

「もちろん占いを続けるさ。こいつに盗られた物を返してもらわないとな」

 翡翠の二問目の質問は「古代エジプトの天空の女神の名前を教えて欲しい」というものだった。

先程と違い、2人の指先が上に乗っていないただの10円玉が『す』の位置から左斜め下へと滑っていく。何の変哲もない硬貨が独りでに動いていく不気味な様に神保は小さく身震いする。

「で、その女神の名前って何なんだ」

 神話に疎い神保が尋ねた。

「ヌーだよ。覚えておけ」

 悪魔の動きを止めるというこの作戦は見事に嵌り、10円玉は青の陣が仕込まれた『ぬ』の上まで来るとぴくりとも動かなくなる。

やがて30秒が過ぎ、メリーさんは2度目のルール違反を犯してしまった。

「さて次のペナルティだ」

当前10円玉からの返事は無い。翡翠は構わず自分の要求を口にする。 「

「お前が奪った玉城香澄、大島裕子、木村絵里の意識を元に戻せ。今すぐだ」

「そんな事が出来るのか!?」

 翡翠の口から発されたあまりにもご都合主義な要求に神保が驚きの声を上げる。

その問いに答える前に、紙の上の10円玉から3つの青い玉のような半透明な物体が飛び出してきた。

「悪魔に奪われていた霊魂だな」

3つの霊魂は暫く部屋の天井辺りを浮遊した後、壁をすり抜けてどこかへと飛び去っていく。

「奪うことが出来るのなら元に戻す事だって出来ると考えるのが普通だろう」

「それにしても随分あっさりと返してくれるんだな」

「書物にも書いてあったろ。こいつら召喚悪魔が何よりも大事にしている物はルールや掟といった約束事でありそれを守ることを自らの存在意義としているんだよ」

 目の前で起きた出来事と翡翠の返事に神保は自分のいるこの空間には今まで培ってきた常識など何の役にも立たないのだと愕然とした。

非常識やご都合主義、何でもありなのだ。

そして悪魔を相手取った時、その何でもありな空間を上手く使った方が上に立てるのだと本能的に理解する。

現在は深夜なので病院に確認する事も出来ないが、してやったりといった翡翠の表情から察するにきっと今頃3人の女子生徒達はベッドの上で目を覚ましているのだろう。

「神保。とりあえず盗られたものは取り返せたと思うぜ」

「ああ。やったな!」

神保が悦びの声を上げたのも束の間、スーツのポケットに入れていたスマートフォンが突如鳴り始める。

あまりにも突然だったので神保は思わず両肩を跳ねさせて驚く。

ポケットから携帯を取り出すと画面には非通知の文字が表示されていた。

恐る恐る通話のボタンをタッチして耳に当てる。

「ワタシ、メリーさん。今この家の玄関にいるの」

「うわぁあっ!!」

 何故か音量が最大まで上げられた通話口から聞こえる渇いた老婆の不気味な声に耐えられず、神保は持っていたスマホを投げ捨てる。

「ワタシ、メリーさん。今廊下ヲ歩いているの」

 尚もスマートフォンからは不気味な声が流れ続け、屋敷の廊下からはバタバタと何かが近づいてくる音がこの部屋まで迫ってきていた。

「ワタシ、メリーさん。ワタシ、メリーさん。キャハハハハハハハッ!!」

 廊下を走る足音が消えると今度は2人のいる部屋の窓ガラスが外側から叩かれているような振動音が木霊し、部屋全体が大きく揺れ始める。

「今度は地震か!?」

 あまりの揺れに思わず神保と翡翠は立ち上がり、部屋の壁に寄りかかった。

「このままじゃまずい。一度避難しよう!」

「馬鹿かお前は。そんな事したら悪魔の思うツボだろうが!」

 神保の提案を即否定する翡翠。

「4人の女子がどうして呪われたか忘れたのか? 正しい手順でメリーさんを終えずに途中で逃げ出したからだ」

 今、自分たちが逃げ出せば佳代子達の二の舞となることを翡翠は端的に伝える。

「こいつは俺達を呪う為に脅しをかけてんだよ」

「し、しかし……この揺れは……」

 窓ガラスが割れ、箪笥の上から様々なものが落ちていく。部屋のあちらこちらから軋む音が響く現状は脅しをかけられている等というレベルを遥かに超えているように神保は感じた。

「心配しなくてもこいつは俺達に危害を加えることは出来ない。何せ俺達は何のルール違反も犯していないんだからな!」

 強気に翡翠が叫んだと同時に部屋の電球が割れ、揺れが収まった変わりに辺りは真っ暗になり部屋は静まりかえる。  

「揺れが収まった……?」

 騒がしく声を出し続けていたスマートフォンも今は通話が切れ、ツーツーといった単調な音を出しながら畳に転がっているだけだった。

「所詮は下級の召喚悪魔。長い間好き放題は出来ないのさ」

「なぁ翡翠。ルール違反で何でも命じられるのなら、二度と悪さが出来ないように言えばいいんじゃないのか?」

「いや、この悪魔への命令が有効なのは〝まじない中〟だけだと書いてあった。仮にここでその命令を出してもメリーさんの遊びを終わればそれまでさ」

「そっ、そうか……」

 しかし、翡翠の祖母は過去に二度と悪さをしないようにこの悪魔に呼びかけてたと書物には記されていた。

恐らく蔵島翠は悪魔にも良心があると信じて見逃したのだろう。

そんな祖母の優しさを無視し、また悪事を働いている悪魔を前に翡翠は拳を固く握っていた。

「そして『自らの命を絶て』という命令も出来ない。こいつらには肉体も命も持たないただの〝存在〟だからだ」

 特別な力を持たない人間がその存在を消せる唯一つの手段を託した神保を翡翠は見つめる。

翡翠には解っていたのだ。これから先の展開は神保次第で大きく変わることを。

「……オノレ……!」

 その時、紙の上に置かれた10円玉が禍々しく赤色に光り、部屋に先程の渇いた老婆の声が響く。

「今度は何だ!?」

 未だに超常的な現象に慣れない神保が悲鳴を上げる。

「神保。銀銃を懐から出しておけ」

 翡翠の指示通りに神保は焦りながら懐のホルスターから銀銃を抜き出す。

「タダノニンゲンゴトキガ……ヨクモ……ヨクモォオオオオオッ!!」

怒りの咆哮と共に10円玉から赤黒い光の球体が飛び出し、2人の頭上で見下ろすように停滞した。

球体は徐々にその形を変え、段々と人型へと変化していく。

「これが……悪魔……」

 初めて超常的な存在を目にした神保が驚きの声を漏らす。

2本の角と長い白髪を生やした羊の頭、首から下の赤黒い肌をした女性の体には黒い羽と尻尾が生えている異様な外見。

更に全身はまるでホログラム映像のように半透明で、書物に書かれていた通り肉体は無さそうだった。

「返セ……私ガ奪ッタ魂ヲ返セェ!」

 女子生徒3人の魂を奪い返された事が許せないのか、悪魔は2人を上から睨みつける。

「これが悪魔……ハァッ……ハァッ」

そのおぞましい外見と怒りの迫力に神保は足を奮わせる。落ち着かなくてはと自分に言い聞かせても呼吸は乱れ、異様な圧迫感に襲われているような感覚がますばかりだった。

「残念だがあの霊魂はお前のものじゃない。返してやるわけにはいかない」

「貴様ラ、一体何者ダ」      

「お前がさっき自分で言ってたろ。人間だよ、ただのな」

 翡翠は姿を現してた悪魔に対しても堂々としていた。その姿は少なからず震えていた神保に勇気を与える。

「先に聞いておこう。お前は蔵島翠という女を知っているか」

「蔵島……翠ダト!?」

 翠の名前が出た瞬間、今まで強気に2人を見下ろしていた悪魔の顔が一瞬で引きつり、額からは大量の冷や汗を流し始めた。

「その反応……やはり知っているな俺の祖母を」

 悪魔は召喚者に嘘をつく事はできない。

翡翠の質問に紙の上の10円玉も『はい』と答えた。

「貴様ガ……アノ女ノ孫!?」

空中で少し後ずさる悪魔。

超常的な存在を名前だけでここまで恐れさせる蔵島翠とは、よほどの凄い力を持った人物だったのだろう。

神保はそんな人がかつて使っていた銀銃を見つめ、握り締める。

「ナルホド……小賢シイ手ヲ使ッテ来ル訳ダ」

「お前はお祖母ちゃんの忠告を無視し、また悪事を働いた」

「ソレガドウシタ!?」

「仏の顔も二度までなんだよクズ野郎。お前の〝存在〟を消し去ってやるから覚悟しろ」 翡翠がそう啖呵を切ると空中の悪魔は高笑いで返した。

「ツマラナイ呪い陣シカ使エヌ人間ニ何ガ出切ル!?」

 青の陣に体を縛られた時、その効果が薄かった事で悪魔は翡翠に霊力や魔力といった特殊な力が宿っていない事を既に知っていた。例えメリーさんの最中に好き放題に命令されようと翡翠には自分を完全に倒す手段が無い事を知っていたのだ。

「ズット待ッテイタノダ……アノ女ガ死ニ、私ガ自由トナル日ヲ」

 恨めしそうに翡翠を睨む悪魔の言い分は完全に逆恨みだった。

「貴様ラ人間ハ何デモ知リタガル。何カヲ知ル為ナラバ平気デ危険ヲ省ミズニ私ヲ呼ビ出シ占イニ興ジル愚カナ生キ物ダ」

 明らかに人間を見下した物言いに翡翠は眉間に皺を寄せる。

「ソンナ人間モ魂ダケハ美シイ。ダカラ私ハ占イノ代償ニ魂ヲ頂キ、コレクションシテイルノダ」

「たった……それだけ……?」

 悪魔の自分勝手すぎる話に割り込んだのはそれまで黙っていた神保だった。

「たったそれだけで人を襲うのかお前は!?」

 神保の頭の中で、様々な映像が流れる。

見えない脅威に怯える遠藤佳代子。

病院のベッドで眠り続ける3人の少女の横で涙ぐむその家族達。

大した理由も無くその人達の魂を奪う悪魔の高笑いが神保には許せなかった。

「止せ神保! 感情的になるな」

「答えろ悪魔!」

 制止しようとする翡翠の声も届かぬほどに今の神保は興奮している。

そんな神保を見て悪魔はまた高笑いをした。

「愚カナ人間ヨ。何ノ力モ持タズニ私ニ歯向カオウト言ウノカ?」

「力ならここにある!」

 まるで誇示するかのように神保は銀銃を突き出し、銃口を悪魔に向ける。

仮にも昔、蔵島翠が使っていた武器だ。多少なりとも悪魔は動揺すると思っていた。

「何ダソレハ? 笑ワセルナ」

 悪魔の予想外の反応に神保だけでなく翡翠も驚く。

蔵島翠の名前にはあれだけ怯えていたというのにその人が使っていた武器を知らないなんていう事がありえるのだろうか。

2人にはその疑問について考える時間は無かった。

すぐにでも目の前の悪魔が襲い掛かってきそうな重苦しい雰囲気を纏っていたからだったからだ。

「私ニハ銃ナド効カヌ!」

「張り切るのは勝手だが俺達は何のルール違反もしていない。だからお前は俺達には手出し出来ないぞ」

 大仰な口を叩く悪魔に釘を刺す翡翠。

「ルール違反ヲシテイナイダト?」

 しかし悪魔は鼻で笑いながら神保の頬を尻尾で打ち付ける。突然の攻撃をモロに受けてしまった神保は背後の壁に叩きつけられて、畳の上に倒れこんだ。

「神保ぉ!!」

「コイツハ確カニルールヲ破ッタゾ。私ニ『それだけの理由で人を襲うのか』トイウ質問ヲシタ」

 倒れていた神保は辛うじて気絶する事は無かったが、ダメージは相当なものらしく両足を震わせながら立ち上がる。

「私ガ魂ヲ集メル理由ハ様々ダ。トテモデハナイガ30秒デハ答エラヌ」

 そう言って意地悪な笑みを浮かべる悪魔。

返答に30秒以上かかる質問をメリーさんにしてはいけないというルールを神保が破ったというのが悪魔の言い分だった。

神保は再び銃口を悪魔に向けるも、相手は全く怖がっている様子はなくむしろ撃って来いと言わんばかりに両手を広げ堂々とした態度だ。

試しに引き金を引こうとするが、先程と同じくトリガーはびくともしない。

「駄目だ、逃げろ神保ぉ!」

「私ヲ散々弄ンダ貴様ハ魂ヲ抜カズニ肉体ゴト嬲リ殺シテクレヨウ……」

魂を抜いてもまた翡翠に取り戻されてしまうことを悪魔は理解していたので、先に神保の肉体の破壊をする事に決めた。

「オ前ヲ殺シタ後、私ハモウ一度魂ヲ集め続けるぞ。コレクションノ為ニナァ!」

 勝手な解釈でルール違反とされた神保目掛けて悪魔が笑いながら突っ込んでいく。

「まだ……人を襲う気か」

 自分の命の危機だというのに神保が今考えていたのは名前も知らない赤の他人の事だった。

ここで悪魔を仕留めなければこれから先もメリーさんによる被害は出続けるだろう。

狙いを定め、もう一度引き金を引くがやはり銀銃は何の反応も示さない。

 その隙に悪魔は急接近し、両手で神保の首を締め付ける。

「ぐぅ……かぁっ……はッ……!」

「神保!」

 悪魔がゆっくりと首を絞める両腕を上げ、神保の体が宙に浮かぶ。

必死で抵抗するも悪魔には肉体が無い為、体に触れることすら出来なかった。 

「イイ顔ダ。死ノ恐怖ヲ感ジル人間ノ顔ハ最高ダ」

 恍惚の笑みを浮かべる羊の顔を苦しむ神保に見せつけ、更に恐怖を煽る。首を絞める両手が更に力を増し、神保の意識が途切れかかった時だった。

「銀銃を撃て、神保!! もうそれしかない!!」

 翡翠が叫んだ。

「守ると約束したんだろう。果たして見せろ!」

 首を絞められ、苦しむ神保にはその声が届いているのかは解らなかったが翡翠は必死に呼びかけ続ける。

「無駄ダ。コイツハ死ニ、私ハ忌々シイアノ女ガイナイ世界デ自由ノ身トナル」

 そんな2人の様子を悪魔があざ笑う。

「ソノ後デ、オ前達ガ守リタカッタ者ノ魂ヲ奪ッテヤロウ」

 その一言に、神保は目を見開き悪魔を睨みつける。

「何ダソノ目ハ?」

「……前……ない……」

「何ダト?」

 首を絞められた状態で神保は必死に自分の想いを吐き出す。

「お前なんかに佳代子ちゃんの魂は渡さないって言ったんだ!」

 その瞬間、右手に持っていた銀銃が眩い光に包まれ神保の首に触れていた悪魔の両手が爆発でもするかのように消え去った。

「ゲホッ! うぇっ!」

「ギャァアアアッ!」

 首締めから開放され、再び畳に足を付けた神保が呻き、両の手を吹き飛ばされた悪魔が悲痛な叫びを上げる。

翡翠は慌てて神保の傍に駆け寄った。

「大丈夫か神保!?」

「ゲホッ……ああ大丈夫だ。しかし一体何が起こったんだ?」

 2人は未だに輝き続ける銀銃に視線をやった。

辺りを照らすリボルバー銃を握る神保の体も神々しい光に包まれ、先程悪魔に打たれた左頬の痛みが徐々に消えていく。

触って確かめてみても完全に腫れが引いているのが解った。

「何て銃だ……」

「これがお祖母ちゃんの武器本来の姿なのか……」

 武器所有者の自動治癒。

所有者に触れた悪魔の浄化。

最強の武器と呼ばれる所以をありありと見せ付けられた2人はそれぞれ感嘆の声を漏らした。

「……何故ダッ!」

 感心しているのも束の間、両手を失くした悪魔が苦悶の表情で2人を睨みつける。

「何故ソノ銃ヲ……銀銃ヲ貴様ガ扱エル!?」

 最初にこの銃を見せた時、悪魔はそんな銃は知らないと言っていた。

しかし今はこの銃がかつての蔵島翠の愛銃である事を認識している。

恐らく翠が使っていた時の銀銃は常時光り輝いていたのだろうと翡翠は推測した。

「俺がこいつに持たせたのさ。こいつなら……神保聡介ならば撃てるのではないかと賭けたんだ」

 自らが張った賭けに見事に勝利した翡翠が膝を突く悪魔を見下しながら言った。しかし肝心の何故撃てたのかという事については2人共理由は解らないでいた。

「何で急に輝きだしたのかは僕にも解らない」

 神保は悪魔に対しても正直に話す。

何故急に使えるようになったのかは自分が知りたいくらいだった。

「一つだけ言えるのは僕がどんな状態になろうと、お前がどれだけ痛々しい姿になろうとも、僕はお前を許さないって事だ!」

「ヌゥウ……オノレェ! ヨウヤク自由ニ動キ回レルヨウニナッタノダ!!」

 背中に生えた羽を羽ばたかせ、悪魔は再び宙に浮かび上がる。

そしてそのまま神保と翡翠の2人を忌々しげに見下した。

「貴様ラナンゾニ! 悪魔ノ私ガ……!」

「諦めろ。お前の負けだ」

 翡翠は勝ち誇り、神保は銀銃のトリガーに人差し指をかける。

神保は感覚的に確信した。今ならこのトリガーは容易く引くことが出来ると。

「悪魔ノ私ガ……人間ニ負ケル筈ガ無イノダァアアアアアアッ!!」

 尻尾を振り回し、勢いを付けて悪魔は再び神保の顔面目掛けて鞭のように撓らせた尾を打ちつける。

「無駄だ……」

 小さな声で翡翠が呟く。

悪魔の尾は神保の頬に触れた瞬間に宙で分解し、神保を吹き飛ばすどころか眉根一つ動かす事もできずに消え去った。

「ギェエエエエ! オノレ忌々シイ銃メ!」

 両手と尻尾を失い、何も出来ずに憎憎しげにこちらを睨みつける悪魔が弱ってきている事は誰の目にも明らかだ。

 神保は止めを刺すためにゆっくりと銃口を悪魔に向ける。

「殺シテヤル!! 貴様等ダケハ!!」

「殺されるのは僕達か、それともお前か占ってみたらどうだ?」

「ホザケェエエエエエェッ!!」

 最後の悪あがきか翼を羽ばたかせた悪魔が正面から突っ込んできた。

「守ってみせろ! 銀銃!!」

 神保は叫ぶと同時に銀銃のトリガーを引いた。


              ○


そこで神保は夢から覚め、目を開いて体を起こす。

「何てリアルな夢だ」

 枕元に置かれたスマホを見ると自分が布団に入ってからまだ10分ほどしか経っていなかった。

夢の中ではほぼ丸一日過ごしていたので体が妙な感覚になっているのを感じる神保。

スマホをズボンのポケットに突っ込み暫く呆然としていると、畳の上に置いていたスーツの上着が無くなっている事に気付いたが、翡翠が違う部屋で預かってくれているのだろうとあまり気にも留めなかった。

ふと布団の横に置かれた銀銃を不意に目が捉える。

おもむろにホルスターを手に取り、銃を抜き出すと神保はトリガー部分に右手の人差し指をかけた。

力を入れてみてもやはり引き金はびくともしない。

「何故なんだ……?」

何度も、何度も人差し指に力を込めるが銀銃は反応しなかった。

神保は所有者の言う事を聞かない銀銃に段々と苛立ちを覚える。

「さっき、お前がちゃんと撃てれば……翡翠も危ない目に遭わなかった」

 自分が何も出来なかったグールとの戦闘を思い出し、物言わぬ銃に恨み言を吐く神保。

 鏡のように美しく磨かれた銀銃に険しい自分の表情が写りこむ。

「何がかつて蔵島翠が使っていた武器だ……! 撃てなきゃ誰一人救えないじゃないか」

 グリップを強く握り締めた右手が小刻みに震えた。

「何が最強の武器だ! こんなもの!!」

銀銃を投げ捨てようと振り上げた手が途中で止まる。

それと同時に神保は自分が情けなくなった。

「……銃のせいじゃない」

大きくため息を吐いた神保は再び銀銃を自分の顔の前まで持ってきて、バレルに写りこむ自信の顔をまじまじと眺める。

「解っている。悪いのは僕だ」

 人間と同じ形をしたグール相手に戦う心が挫けてしまった。

被害者の無念を晴らしたい、これ以上の被害を抑えたいと抜かしながらグールに半端な同情心を抱いてしまった。

「情けない……!」

神保はそれ以上自分の顔を見続けることが出来ず、銃を下ろす。

門の前で翡翠が言っていた、今回何故自分が撃てなかったかという理由を神保もようやく理解する。

 自分の心が中途半端だからだ。

 甘さを捨て切れなかった結果、友人を危険な目に遭わせ自身はグールに右腕の肉を齧りとられてしまった。

 頭の中で反省を続けていると神保はある違和感に襲われ左手で右腕の包帯の位置に手を当てる。

「痛くない……」

 何度包帯の上から摩ってみても腕に痛みを感じない。

神保は巻いていた包帯を解き、グールに噛み千切られた箇所を見てみる。

 寝る前まで血が出ていたとは思えない程に神保の腕は完治していた。

「どうして?」

 一体自分の睡眠中に何が起こったのか。

寝ている間に体が回復しているなんてまるで魔法のようだった。

「魔法のような……回復……」

 神保は以前メリーさんと戦った時にそれを経験していた。

再び視線を銀銃へと向ける。

翡翠も自分もただの人間だ。RPGのように回復の魔法等が使える訳ではない。

奇跡的な回復なんて非現実的なことが可能に出来るのは恐らくこの銃だけだと神保は考えたのだ。

「寝ている間に治してくれたのか?」

 物言わぬ銀のリボルバーに尋ねるが当然返事など返ってこない。

それでも神保は少し嬉しかった。

まだ自分はこの銃に見放されてはいない。そんな気がしたからだ。

もう一度、自分の手の中にある銀銃を強く握り両の目を閉じる。

この引き金をまた引く為の覚悟が必要だ。

西園寺知恵はまだまだ先の未来がある筈だった武下紀夫を己の私利私欲のために食い殺した。

来週に紀夫との結婚を予定していた女性は損傷の激しい恋人の亡骸を見ることさえ叶わずに自分の前で泣き崩れた。

こんな悲しみをこれ以上増やしたくない。

「だから僕は……グールを倒す」

 神保が決意を口にした時、自分の心の中からグールに対する情けや容赦といった感情の類は全て消え失せた。

「人に裁けない存在から力を持たない人々を守る為に」

両目を開くと突如手に持った銀銃が震えだした。

知らせているのだ。

超常的な存在が近くに来ていることを。

「グールだ……!」

 今ここに迫ってきているのがグールであるという確証は無かったが、神保は確信していた。

急いで布団から飛び出し、部屋の襖を勢いよく開く。

「翡翠! グールが来てる!!」

 すぐ翡翠に知らせようと屋敷中に響くような大きい声で叫んでみたが翡翠からの返事は返ってこない。

「翡翠! いないのか!?」

 神保が廊下を走り回って探してみてもその姿は見つからなかった。

「くそっ、こんな時にどこへ……?」

 右手に握ったままの銀銃は段々と振動の強さを増していく。

ポケットからスマホを取り出し、左手で翡翠に電話を掛けてみてもいつも通り留守番サービスに繋がるだけだった。

 銀銃の振動が、知恵を目の前にした時と同じ位の強さになり神保は身構える。

体を緊張させ額から汗を流しながら敵襲を待つ。

しかし、いくら待っても知恵の姿は現れない。

それどころか最大接近反応を示していた銀銃の揺れが段々と弱まっていく事に神保は首を傾げた。

「離れて行ってるのか?」

 ほっと胸を撫で下ろす神保。

しかしそれも束の間、新たな疑問が神保を再び悩ませた。

どうしてグールはこの位置が解ったのか?

翡翠が魔除けの香を焚き、自分達の匂いはグールには認識できないはずだ。しかし現に今かなりの距離まで接近されていたのはどういう訳なのか。しかもグールは近寄っただけですぐに離れていったのだ。まるでこの屋敷を通り過ぎるかのように。

「グールの標的となっているのは僕だ。屋敷内で匂いが消えている僕をグールは認識できない。なら今、知恵が追っているものは――」

 何か嫌な予感が神保の脳裏を過ぎる。

 ぶつぶつと呟きながら神保は頭をフル回転させて持っている情報を並べていく。そしてある仮定を口にする。

「僕の匂いの付いた何かを追っている……?」

 自分の匂いが付いたもの、それが何かはすぐに解った。

「スーツの上着……!」

 答えを口に出した瞬間、神保は屋敷を飛び出していた。上着を持ち出したのが誰だかもすぐに暴いたからだ。

「翡翠……!」

 屋敷の門を出て辺りを見渡すが、石階段と遠くに見える時葉町の夜景以外目に入るものは無い。

神保は焦る。翡翠の位置が解らなければ救援にも駆けつけられないからだ。

「翡翠ぃいいいいいっ!!」

全力で友の名を呼ぶ神保の声は虚しく夜の闇に消えていった。



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