日だまりinコーヒー エピローグ
日の光を浴びた透明な液体が、輝きながらマグカップへと落ちる。
磁器の器に入った湯は粒に触れ、顔が映るほど黒い液体になる。その水面から立ち上るコーヒーの香りを吸い込んで、ミキトは微笑んだ。マグカップを持って、誰もいないカウンターの内側に座る。そして口元でマグカップを傾け、温かいコーヒーを口に含んだ。
外の葉の緑が透けて、ミキトの手に儚げな色を投影させる。静かな店内に、木々の揺れる音が通り過ぎた。
ミキトの好きな日だまりも、いつの間にかコーヒーに映り込んでいた。くすりと笑って、マグカップのふちを指先で軽く叩くと、日だまりはぷわぷわと揺れた。
今日は何か良い事がありそうだ。頬杖をついて、ミキトは可愛らしく揺れる日だまりを見つめた。
ふ、と、想った。あの人はどうしているかな。自分のコーヒーを初めて褒めてくれた、あの女性は…。
もしかすると今頃は、初めて店に来たときのように眼鏡をかけて、パソコンの中の活字とにらめっこしているかもしれない。あの人の傍にも、マグカップに入ったコーヒーはあるんだろうか…。
あの人はまた来てくれるだろうか。
ミキトは笑って立ち上がった。そして大きく伸びをする。腰に手を当てて、さて、と気合を入れた。机の拭き掃除をするため、コーヒーの香りの染み込んだ布巾を手に取る。
その時、長い間鳴っていなかったドアベルがカラコロ…と音を立てた。
ミキトは振り返り、
そして笑った。
日だまりは何も言わず、コーヒーの中で揺れた。