鏡再生
鏡を再生するために家へと急ぎます。
そして船が港に着く。
私は着岸することばかりに気を取られていた。
パパの腕を信じられない訳ではない。
でも、水が怖かった。
泳げない事実を思い出したからだっだ。
でもその時には、操舵室からパパの姿は消えていた。
「パパーー!!」
私達は泣きながら船の中を探し回った。
それでもパパの姿は何処にもなかった。
私は操舵室に残されていた合わせ鏡を手に取った。
「パパーー!!」
もう一度思い切り呼んでみた。
でもパパの声は聞こえて来なかった。
私達は泣きながら魔法の鏡を目指した。
手掛かりは合わせ鏡。
その映像の頂点を目指すことだった。
その先にある我が家を目指して。
どうやって海に行ったのかも解らない。
どうやって家に戻ったのかも解らない。
でも三人は戻って来た。
懐かしい我が家に……
あの人と屋根裏部屋を目指す。
必死に目指す。
其処にある筈の出口を目指す。
やっとたどり着いた……
その安堵感に私は震えていた。
目の前の鏡に乙女の鮮血を捧げた。
チビと私の目の前で、鏡が再生していく。
(パパ……これで良いんだよね? パパ早く来てー!)
私はパパを待つつもりだった。
でも、骸骨が迫っていた。
私達は仕方なく、鏡を抜け出す準備をした。
「やるしかない!」
私は二人に声を掛けた。
「解ってる。遣るだけ遣ろう」
私は骸骨が攻めて来られないように、合わせ鏡を魔法の鏡の映像を写す工夫をした。
反射する物なら何でも良かった。
私は鏡から手を出して支えにしていたガラスの小箱を取り、頂点に来るように置いた。
(エイミー姉さん私を許して……。―決してお姉さんを忘れるためなんかじゃない……。パパを助けるために……)
でも、本当は私は解っていた。
自分が助かりたいのだと言う事が……
あの骸骨の襲来から……
自分の身を守る為に……
(十年後……きっとチビは思い出す。パパのことを……。それまで待っていてエイミー姉さん)
私はそう思いながら、合わせ鏡とガラスの小箱をセットしていた。
(大丈夫。チビならきっと……。きっとエイミー姉さんも助け出してくれる)
私はそう自分に言い聞かせた。
私達はやっと家に戻ってきた。
(もしかしたらパパはとっくに家に帰って来ていて……)
そんな思いを抱きながら急いで玄関へと向かった。
でも……
現実の世界に、パパは居なかった。
あの人は再び玄関へは入らず、雅の待つ家へと戻って行った。
結局……
何のために彼処に居たのかも聞けず終いだった。
それでも、私の心の中には深く思い出として刻まれることになったのだ。
私はあの時、ヒロインだった。
でもそれは本当はエイミー姉さんで、私にとってはあの人こそがヒーローだったのだ。
雅が最近フェンシングにハマって、応援に良く駆り出されていた。
(何処かで見た)
確かにそう思った。
それをやっと思い出せた。
記憶の中に埋もれていたパパとあの人を……
胸がキューンとした。
そして……
又恋が始まる予感に震えた。
再び戻った屋根裏部屋の中にも……、パパの姿はなかった。
あの激しい戦いは何だったんだ!
私は床に突っ伏して泣いていた。
虚しかった。
だってこの部屋にはチビと私だけ……
私は泣きながら屋根裏部屋から出て、チビと一緒にベッドに潜り込んだ。
(置いてきた手鏡を探しにチビも出発するのかな?)
本当はこれで終わりにしてほしかった。
あどけなく笑うチビに苦労だけはして貰いたくはなかった。
(あれっ!? 私がタイムスリップした時、合わせ鏡はチビの部屋にあった……えっ!? どうなってるの? )
私はあの時、チビの枕元にあるパパのお土産に気付いた。
そう……
お伽話に出てくる魔法の鏡をねだった時、パパが苦し紛れに置いていってくれた手鏡。
私は本当にあれで良かったのに……
パパのことを苦しめ、あの闇の世界に閉じ込めてしまったらしい。
私はその時にあの小さな手鏡を忘れたことに気付いたのだ。
あの時は確かに、魔法の鏡の中で遊んでいた時、落とした物だと思っていたのだ。
『この鏡は何処に置いてあった?』
『チビ……ううん私の部屋だけど……』
あの幽霊船の中で、妙な事をパパは聞くなと思いながらも私は素直に答えた。
タイムスリップした時、確かにチビの枕元に置いてあったからだ。
『その前に屋根裏部屋に置いて無かった?』
それを聞いて、そんな事実もあったことを思い出した。
『パパが行方不明になった日、確かに屋根裏部屋にあったよ』
私の言葉を聞いてパパは思わず頷いた。
『そうか……あの日、その鏡から反射した満月の光がきっと魔法の鏡に入ったんだ。だからキャプテンバッドは此処に居るのか』
パパは確かにそう言った。
(ねえ、パパ……どうして置いてきた合わせ鏡が屋根裏部屋にあったのかな?)
答など出る訳がない。
それでも私は思いを巡らせた。
(ねえパパ……その片割れを何でパパが持っていたの? ねえパパ……もしかしたら、三っつの鏡は繋がっているの? そうでなきゃ、パパのセリフは有り得ないよ。ねえパパ……今すぐ此処に来て答えを教えて!!)
頭の中は混乱してる。
無い知恵を絞って、それでも一生懸命に考えた。
(合わせ鏡のもう一方はパパが持っていて……イヤ二つ持って屋根裏部屋に行ったのか? 最初の手鏡も、本物の魔法の鏡だったのかも知れない)
そうでなきゃ、パパが持ち帰って来るはずがなかった……のかも知れない。
(だけど私はその鏡が不満で、放置してしまたのだ。だからパパは私を喜ばせようとして、今度は大きい魔法の鏡を探し当てたんだ。でも私はそれを怖かった。だってあの鏡は、私を写し出したままで動かないんだもん。だからパパは私を助けようとして、あの屋根裏部屋にやって来たんだ)
そして、満月とキャプテンバッドによって引き込まれたのかも知れない。
(きっと、満月とコラボして……合わせ鏡に映した私の顔と、魔法の鏡に絵のように写し出された魔法の鏡にインプットされたのではないのだろうか? キャプテンバッドはその時を待っていたのか?)
キャプテンバッドは、パパに探させた鏡の中にパパと私を閉じ込めるために……公海上に現れたのかも知れない。
(もしかしたら合わせ鏡の方にキャプテンバッドが取り憑いていて……あの幽霊船をパパに探させたのかも知れない。そして魔法の鏡を屋根裏部屋へと移動させたんだ)
きっとあの手鏡に写し出された私の中にエイミー姉さんを感じて、私が生まれ変わりだと信じなのかも知れない。
(チビの私では、まだ役不足だったのか? だから二十歳まで待っていたのかも知れない。でも私が此処に来た時、確かに二人を写し出していた……。そうだ。確かに魔法の鏡に入る前に二人が写し出されたいたんだ)
(反射した満月の光がきっと魔法の鏡に入ったんだ。だからキャプテンバッドは彼処に居たのか? でもそれならキャプテンバッドは元々家にいたの?)
そう考えつつ頭を振る。
(イヤ違う、もしかしたら元々合わせ鏡の中に居たのかも知れない。パパが見つけて開かせたことによって封印が解き放されたのかも知れない)
頭の中を混がらがせながらも私精一杯考えた。
(魔法の鏡は屋根裏にやはり置いてあったんだ。 母が移動させた後、私が又其処に置いた。だからずっと屋根裏部屋に置いてあったものだと思ったのだ。だから私はずっと屋根裏を探したんだ)
心を落ち着かせるために、蛍光灯を消してみた。
私はふと、屋根裏部屋が気になった。
私同様、アンやハイジに憧れたと言う母。
その思いを死産させられた娘に託した。
私はエイミー姉さんをもう一度肌で感じたかった。
戦いの最中。
私の見た伝説の聖女。
あれは確かにエイミー姉さんだった。
キャプテンバッドを操ったのは、エイミー姉さんを死産させた悪魔なのだろう。
伝説の聖女はキャプテンバッドの祖国の人の陰謀に負けて、異端人として処刑されたのだから。
自国が魔力で負けたと印象付ける。
たったそれだけの理由で……
火炙りの刑は、復活してほしくないと願うエゴから来たものだった。
その聖女が、遂に復活しようとしていた。
それを止めるために、母を死産に追い込んだのだった。
もう其処にガラスの小箱はなかった。
私は取り返しのつかないことをしたと思った。
(エイミー姉さん私を許して!)
私はエイミー姉さんの為のベッドの上で泣き崩れた。
その聖女は私と同じ十九歳だった。
だから私は選ばれたのか?
私を二十歳にさせないために。
イヤ私は二十歳になってやる。
絶対になってやる。
パパが言ってたヴァンタンと言う言葉に相応しいおしとやかな女性になるために。
(おしとやか? 私になれるだろうか?)
一瞬笑いたくなった。
屋根裏部屋のベッドは暖かだった。
肌の温もり……
それを感じた。
「エイミー姉さん……」
私はもう一度名前を呼んでみた。
その時トップライドから満月が見えた。
私は怖くなった。
もうスーパーヒロインではないようだった。
私はその名前をエイミー姉さんに預けて、子供部屋に戻った。
やっと家に辿り着いた。