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ヴァンタン・二十歳の誕生日  作者: 美紀美美
8/10

乙女の鮮血

母の待つ家に帰るために戦う。

 「パパ、もしかしたらエイミー姉さんは伝説の聖女かも知れない」



「いや、間違いなく伝説の聖女生まれ変わりだろう。そうかだからエイミーは……」


パパはエイミー姉さんのために泣いていた。



「フランス語で二十歳をヴァンタンと言うんだ。でも伝説の聖女は二十歳を待たずに死んだ。だからお前は二十歳にならなきゃいけない。その聖女のためにもエイミーのためにも」


私を励ますパパ。

私もそれに応えようとしている。



(えっ!? どうして私が明日二十歳になるって知っているの?)


やはりこの冒険は仕組まれていたのだろうか?



(そうか。二十歳はヴァンタンって言うのか。きっとパパにも私が伝説の聖女に見えているんだ! よし! 明日二十歳になってやる。何が何でもなってやる!)


私は大きな勇気に包まれていた。



二十歳を前にして火炙りの刑になった、伝説の聖女のような統率力や甲冑の類いはない。

それでも心はヒロインになっていた。



それと同時に、私は忘れていたことを思い出していた。



私がフェンシングを習い始めた頃、父の傍らにもう一人いたことを。


それが雅の双子のお兄さんだったのだ。



そして今、又パパの傍らにその人がいる。

その事実を今ハッキリと感じていた。





 (あの人が今此処で私を励ましてくれている。パパと、チビと一緒にフェンシングで戦ってくれている。でもどうして此処に居るの?)


それが不思議でならなかった。



(一体何時乗り込んで来たの? もしかしたら、あのイルカの中にいたの? あの時、現実だと認識していないせいか何でも出来た。ウンテイや棒登りはは苦手だった。それでも必死に上を目指したんだ。もしかしたらあの時、陰から私達を手助けしてくれていたのかな?)


私は改めてあの人を見た。


あの人はパパと一緒に……

骸骨達と戦っていた。





 (雅ごめんね。貴女の双子のお兄さんを見つけたに、今メールが出来ないの。そうよね雅? 今此処に居るのが雅のお兄さんよね?)



私は未だに信じられずにその人を見つめていた。





 (好きだった。大好きだった。でも……、この時のために言えなかったの。そう……

全てはこの時のために。パパを魔法の鏡の中から開放するために……私は乙女のままで……。その鮮血を守る為に恋心を封印してきたのだった)





 私の血が……、割れた鏡を再生する?


私は知っていた。

本当に知っていたのか?


だから……

だから……


ヴァージンなのか?


だから……

だから……


女子会オンリーだったのか?


だから……

だから……


大人になりたくなかったのか?


だから……

だから……

恋しいあの人まで封印したのか?


思い出せないように、心に鍵を掛けて……



だから……

だから……

パパの記憶さえも置き去りにしていたのか?


だから……

だから……

子供のままでいなければならない。そう思い込んでいたのか?



(そうだ全てはこの時の為に! 雅……私、本当に貴女のお兄さんが好きだったのよ。だから……必ず一緒に戻るね。お兄さんを必ず雅の元へ連れて帰るからね)





 私は決意する。

だから此処に居る……



合わせ鏡とコラボして現れた魔法の鏡。



目の前の鏡に……

ひび割れた鏡に……

私の血を捧げる為に。





 (お願い甦って! お願い家に返して!)


私は自ら掌を切り、写し出された鏡に擦った。


そして一心不乱に鏡に祈りを捧げた。





 気付いたらパパが傍にいた。


あの人も……

チビも其処にいた。



パパは私の傷付いた掌にそっとハンカチを当ててくれた。

こんなにも優しいパパの記憶を無くしていた私。


もう我慢出来なかった。


私は暖かいパパの手を掴んで逃げ出した。



(この手の温もりは……そう、皆生きていると言う証拠だ)


だから、私の流した血は決して無駄ではない。


パパを助けることが出来るかも知れないから。





 もう一度サーベルを手にする。


行く手を遮るキャプテンバッドと戦う為に。



「マルシェ!」



「ロンペ!」


俄か戦士だと思う。

でも誰よりも熱いハートで溢れている。



(パパのために! チビのために! 母のために! パパを助けに来てくれたあの人のために! そして何より、エイミー姉さんのために!)





 迫り来る骸骨。

パパはサーベルを構えて私を守ろうとしている。



私は泣き虫だった……

私は弱虫だった……

パパは思い出に残る私しか、子供のままの私しか知らない。



果たして私は弱いままなのか?



私は自問自答を繰り返しながら又サーベルをフレンチに握った。





 私は、自分の血が鏡を再生すると信じて捧げた。


はずだった。



でも結局鏡は再生しなかった。



「所詮偽りの鏡なのか?」

パパが崩れ堕ちた。



「偽りの鏡?」



私は自分の血を捧げた鏡の前で立ちすくんでいた。



「乙女の鮮血って一体何なの!?」

私はパパに激しい感情をむき出しにしていた。



「パパを助けたいのに……私の血では駄目なの?」


パパは困り果てていた。



パパが悪い訳じゃない。



(解ってる!)


私は偽りの鏡の前に崩れ落ちた。



合わせ鏡から写し出された虚像の魔法の鏡の前で。



(虚像? つまり、実体が無いってこと?)





 「そうか?」

私は其処に写った魔法の鏡に何かを感じた。



「もしかしたら?」

私は私の血を捧げた鏡を触ってみた。



「パパ解ったわ。この鏡は映像だからよ。だから駄目だったのよ」



「そうか本物の鏡でなければ駄目だって言うことか」


私は頷いた。



「パパ家に帰ろう」

私は力強く言った。





 パパは操舵室へ急いでいた。

足かせが邪魔をして時々転びながらも、一生懸命パパの出来ることをやろうと。



私とチビはその盾になることを誓った。

パパを母の元へ帰すために、家族で帰るために。





 パパは操舵室で戦っていた。

船を港に戻すこと。

それだけを目標に。



私は骸骨と戦っていた。


パパの操縦の邪魔をさせないために。



チビも隣で戦っていた。

パパから教えて貰ったフェンシングの技で。


あの人もパパのために戦ってくれていた。



(私達はパパの弟子だった。だからあの人は強くなれたのだ。パパの言葉を信じて、努力に努力を積み重ねて……)


私は成長した青年を頼もしげに見入っていた。





 「いいか良く聞くんだ」

パパが叫んでいる。


私達はすぐ傍に駆けつけた。



「もし鏡が再生して脱出出来たら、すぐに鏡を覆い隠すんだ。パパは何とかなる。だから解ったな?」





 合わせ鏡によって、操舵室の前に映し出された魔法の鏡。



その映像が家に戻る手掛かりになると思われた。



満月の光に導かれ、大型客船は静かに港を目指し始めていた。

その先に、ボートを漕ぎ始めた港があると信じて……

更にその先に、我が家があると信じて……



「大丈夫だ。パパを信じて!!」


パパが力強く言い放った。






乙女の鮮血で鏡を再生することができる。

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