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ヴァンタン・二十歳の誕生日  作者: 美紀美美
5/10

再会

パパの船が見つかります。

 チビ以外誰も居ないはずの甲板が、ふと頭の片隅を過る。



(怖い。怖過ぎる)


チビを置いてきぼりにしたことを後悔し、急いで戻ることにした。





 チビを起こそうと体を揺さぶった。

それでも起きないチビ。



(羨ましい……)

素直にそう思った。



(十年後には悩みだらけだよ)

私はチビを見つめた。



(きっとまだ夢の中なんだよね。この硬い甲板もベッドなんだ)



痛いと解っている。

それでも私はもう一度……

今度はもっと強くチビを揺さぶった。





 やっと起きたチビと下にある船長室に行った。



でも其処にも誰も居なかった。



「まるで幽霊船だね」

アクビをしながらチビが言う。



「そんな事言わないで、本当になったら怖いよ」

弱気な私。


それを聞いたチビは臆病な私を笑った。





 「見て、テーブルに名前がある。キャプテンバッドだって」


チビが言う。

私は早速駆け付ける。



キャプテンバット……

以前パパから聞いた名前だった。



「キャプテンバッドって、あのキャプテンバッド?」

私は震え上がった。



「おねえさんもパパから聞いたの? 格好いいよね、キャプテンバッド」

チビが意外な事を言った。



(キャプテンバッドが格好いい……? そんな事言ったかな?)


もう私は過去の記憶に自信を持てなくなっていた。





 キャプテンバッド……。

勿論通称だ。

本名は誰も知らない。

七つの海を暴虐武人に荒らし回る。

デンジャラス過ぎる海賊だった。



十七世紀に同じように七つの海を暴れ回った大海賊がいた。


スコットランド生まれの商人だった。


海賊退治の許可を貰って船長になって、自らも海賊になったと言う経歴の持ち主だった。





 キャプテンバッドは、自らその子孫だと名乗った。



『勿論嘘っぱちだ』

とパパは言った。



『でも本当かも知れない 』

後で確かにそう言っていたのを聞いた気がした。





 (この船はきっと海賊の帆船。何か格好いい)


でも本当は、その考えには批判的だった。



海賊でもパイレーツでも、やっていることは卑怯極まりないと思っていたから。



(海賊なんて、映画とマンガで充分だ)



娯楽の象徴としてなら受け入れられる。


でもそれすら、今は恐怖だった。



(ねえ誰か居ないの?)


私には暗闇の中に何かが居るように思えてならなかった。





 悪名高きキャプテンバッド。

それがこの船の最高実力者。



『神出鬼没。その言葉はこの海賊の為にある』


そうパパが言っていた。



世界一凶悪な海賊。

キャプテンバッド。



(きっとこの船の何処かに隠れていて、私達を見張っている)


私はそう思っていた。



でもキャプテンバッドは、二十世紀前半に死亡していた筈だった。



(って言う事は、チビの言う通り幽霊船なのか?)



死してなお、暗黒の海を漂い続けるキャプテンバット。



彼の愛船は幽霊船となり、彼の御霊と航海しているのだろう。


それがきっとこの船で、私な感じている恐怖の全てなのだろう。





 パパからキャプテンバッドの戦い方を聞いたことがあった。



(思い出した……。確か数を少なく見せかけて、油断した隙に一気に攻撃を仕掛ける。んだった。そうか!? だから隠れて私達を見張っているのか?)


私は一人で震え上がっていた。





 「もうこうなったら仕方ない!」

私は覚悟を決めた。



キャプテンバッドの遺体探しから始める事にして、船長室から捜索を開始した。



でも何処にもそんな物はなかった。



船内の奥の奥にも骸骨はなかった。


やはり幽霊船なのだろうか?



「やっぱり幽霊船かな?」


私はチビに声をかけた。


でも幾ら待っても返事が無かった。


私は心配になって、チビを見た。



でもチビはそんなことはお構いなしで又眠っていた。





 チビを抱いて船底をもう一度捜索する。


外では舵柄が不気味な音を出していた。



(みんな何処へ行ったのだろう?)



後甲板下のキャプテンバッドの寝室ももぬけの殻だった。


さっき見た武器弾薬庫にも誰もいなかった。



(武器も無いなんて海賊船らしくないな。みんな一緒に海に消えたとか? だったら嬉しい)


それでも私はキャプテンバッドの船長室を隈無く探していた。



その時、ベッドの下に唯一残された太刀を見つけ出した。


恐る恐る私は太刀を手にする。



この太刀は大勢の血を吸って来た筈だった。


だから自然に身構えた。



(凄い太刀!流石大海賊キャプテンバッド)



そう思いながらもその太刀を構えてみた。



(様になってる?)


自画自賛だけど、私はしきりと関心していた。



(何故?)


ふと疑問に思った。





 その時ハーフパンツの中で携帯電話が鳴った。

と言うか……

振るえながら微かに唸っている。



(そうだマナーモードにしておいたんだ……。えっ嘘!? そんな馬鹿な……)


私はただ呆然としていた。


私何も考えられなくなっていた。



(此処は十年前じゃないの? 何故十年後のガラケーにかかってくるの?)


怖さが躊躇いを誘発する。それでも私は携帯のカバーをそっと開けた。





 それは雅からのメールだった。



『ウチの兄知らない?』



(何だ!? ウチの兄? ……って雅に兄弟が居たの? あっ確かフェンシングの会場で……)





 『此処には居ないよ』

とりあえずそう返した。



(雅にお兄さん!? 本当にそんな人居たかな?)


私は本当はまだ納得していなかったのだ。





 (フェンシング?)



私はさっきの太刀の構えを思い出していた。



(私フェンシングでもやっていたのかな?)


ふとそう思った。





 幽霊船が何かを曳航している……

それともその何かに曳航させられているのか……



でもそれは間違いなく、パパの乗っていた大型客船だった。



(パパー! 私は此処だよ。パパを助けに来たよ。パパー、何処にいるの?)


本当は大きな声で叫びたかった。



でももしキャプテンバッドに聞こえたら……



「パパ必ず助けにいくよ」

聞こえないないようにわざと小声で呟く。



まだ見つかっていないキャプテンバッド。


いつ遭遇するかも解らないから。





 もう一度船を隈無く探す。

でもキャプテンバッドに出会う為ではない。


パパの大型客船に乗り込む為の方法探しだった。



この船の何処かに身を潜めている骸骨達が羨ましそうに見ている。

そう思えてならない。



もし突然襲って来たらどうしよう。

そんなことばかりを考えていた。





 やはり甲板から行くしか方法はなさそうだった。


もう一度チビを起こす。



それでも起きないチビ。

仕方ないので、背中におぶった。





 その時だった。



「ボンナバン!」

背中でチビが寝言を言う。

それが余りにも的を得ていたので、私は思わず笑い出してしまった。


ボンナバンとはフェンシング用語で《前に飛ぶ》だった。



(あれっ!? 何で知っているんだ? 何時覚えたんだ?)


又頭がボーっとする。



(私って一体何者? それにあの太刀の構え……? 私はフェンシングでもやっていたのだろうか?)






 雅が最近フェンシングにハマって、応援に良く駆り出されていた。



(何処かで見た)


会場に向かう駅でも体育館でも、そう思った。



でも、それが何処なのかが思い出せなかった。



記憶の中に埋もれている何か……

それを今探し出そうとしている。


チビの言った『ボンナバン』が、何かの手掛かりになるるかも知れない。



でもチビは本当に言ったのか?

聞き間違いではない筈だと思った。



私の背中で眠るチビをそっと甲板に下ろす。


胸がキューンとした。



何も知らず、又知らされずに……


パパの存在したことさえ忘れていた日々をこれから生きるチビ。


その哀しみを心の奥にしまい、私は再び立ち上がろうとしていた。





 パパのフランス土産のリボンが、チビのポニーテールに揺れていた。


私はチビのリボンを外して自分のポニーテールに結んだ。





 チビは夢の中で戦っているのだろう。


私はチビに言われた通り試してみたくてもう一度チビを背中におぶった。



「ボンナバン!」

私は曳航された船に気合いを入れて飛び移った。



着地した時の足の痺れと痛み。それらが何故か気持ちいい。


だってパパに会えるかも知れないから。

やっと記憶の底に眠っていたパパに……たどり着くことが出来たから。

だから嬉しいんだ。



例え幽霊船の骸骨達に魂を乗っ取られていたとしても私は嬉しいのだ。


チビとの冒険に出発した事を誇りに出来るように……


チビに同じ体験をさせる為に……


パパを感じられる為のリボンに託す。



そして今改めてパパを探し出そうと誓った私だった。



大きめのTシャツ。

ハーフパンツ。


動き回るのには丁度良かった。

私はやはりこの為に、何時もこんな格好で眠っていたのだ。



そうパパを助け出す為に。





 大型客船の甲板はとてつもなく広かった。


きっと此処で甲羅干しなどして居たのだろう。



プールもあるのも存在するらしい。

パパは何時か、そんな船の船長になりたいと言っていた。



でも私はイヤだ。

もっとパパに会えなくなるから。


だって大好きなパパとこれ以上離れたくなかったから。



優雅にクルージングを楽しむための豪華客船。


その船長で充分だ。

私の誇りだったパパ。



(パパー。今まで忘れていてゴメンね)



何時か、母と訪れた事のある船。その記憶にある船長室を探す。





 あれは何かのイベントだった。



小さかった私はパパの帽子を被らされて……


それでもご機嫌だった。



久しぶりパパに会えたからだった。

肩車をしてパパより大きくなったからだった。





 そんな思い出が蘇る。

それも急に……



私は何かによって記憶を封鎖されていたのか?



そっとドアを開けてみた。



でも其処にはパパ居なかった。



(そうだ。操舵室だ。だってパパは船長なんだから……)





 記憶を頼りに操舵室を探す。


でもそれは困難を窮めた。


大型客船の部屋数はとてつもなく多かったからだ。



それに此処へ招待されたのは確か十年以上も前の事。


何処に何があるかなんてとうに忘れてしまってる。


第一パパとの思い出さえ失ってもいたのだ。


自信などある筈もなかったのだ。





 それでも何とかなるものだ。

私は、此処が鏡の中だと言うことを忘れていただけだったのだ。



どうにか辿り着いた操舵室。


小さな覗き穴から見ると、其処には確かに誰かが居る気配がした。



(きっとパパだ!)


逸る気持ちを落ち着ける為に背中で眠っているチビを背負い直した。





 パパはやはり操舵室に閉じ込められていた。


驚いた事に傍にはキャプテンバッドと思われる骸骨があった。



(ん? と言う事はパパも……骸骨?)


私は自分の考えが怖くなり、恐る恐るパパに近付いた。



足カセをさせられたパパは、椅子に腰を降ろしたままで操縦させられていた。





 キャプテンバッドは動かなかった。



(―当たり前だよなー。骸骨が動いたら、怖すぎる)


それでも私はそっとパパに近付いた。





 そして遂にパパの足に取りすがった。



「パパ!」

小さな声で……


それでも精一杯の大きな声で……



「パパ!」

今度はもう少し大きな声を出した。



私が誰だか解らないといけないので、ポニーテールにさっき飾ったリボンを見せた。



振り向いたパパの顔が泣いていた……



「パパ!」

私はもう一度、今度は脇腹から抱き付いた。





 何時もチビのしていたリボンを見て、私だと気付いてくれて……



「やっぱり助けに来てくれたのか……」

感慨深気に言ったパパ。


私はただ頷いた。



(やっぱりと言った……。この冒険は仕組まれていたのか?)





 母から携帯を受け取って二階に行く途中 ……


思い出しかけた数々の出来事。



そしてベッドでポニーテールを見た時、このリボンで何かを感じた。



(全てはパパとの再会のためだった……)


私は改めて、パパを見つめた。





 「パパ、あれは本物の魔法の鏡だったようね」


私が言うとパパは頷いた。



「だから言ったろ」

パパは自慢気だった。



「でもだから、こんな目にあった」

パパは足かせをに目をやった。



「其処の骸骨誰だと思う。何とあの有名な大海賊キャプテンバッド様なんだ」


こんな目にあったと言いながらも、パパは自慢気だった。


私は思わず笑っていた。



パパは少しふてくされたように私を見た。



「だってパパ、なんだか嬉しそうなんだもん」


私はもう一度パパの腰にすがりついた。





 「実はお前にはお姉さんがいた」

パパが突拍子のない事を言い出した。



「お前の産まれる十年前。ママは一人の女の子を産んだ」



(十年前?)


私は身構えた。

これからパパの話すことがとても重大な意味を持つと直感したからだった。


私とチビが十歳違いだったからかも知れない。



「でもそれは死産で……ママは苦しんだ。パパは仕事で一緒にいてやれなかった」


パパの辛さが良く解る。


航海中の船からの帰国など許されるはずは無かっただろう。


パパもママも苦しんだのだと思った。



「ごめん。お前を見ていたら、生きていたらきっとと思えて」



(お姉さんが生きていたら……もしかしたらお・ね・え・さん?)


パパは私にお・ね・え・さんを感じている。

チビが産まれる十年前に亡くなったから……




(ってことは? えっ!? えっ、えー!?私がお・ね・え・さん!?)





 「実は屋根裏部屋にあったベッドはそのお姉さんの物だった」



(えっ! そうかだからあのベッドは彼処にあったのか)


私は泣いていた。

子供を亡くした母の悲しみが、私の心を埋め尽くした。





 ハイジやアンに憧れる少女は多い。

母もその一人だったのだ。


だから自宅に屋根裏部屋を作った。


母は亡くなった娘を永遠の世界で生かせたかったのだろう。



私はもう一度あの屋根裏部屋で寝たいと思った。

お・ね・え・さんを感じながら……





 「でもパパは思ったんだ。このベッドが亡くなった姉の供養になるのではないかと」


パパは私のポニーテールに手をやった。



「このリボンは二つ……一つは……」

パパは泣いていた。



「解るよパパ。お姉さんによね?」


パパは頷いた。



(あのガラスの小箱にあったリボンは、お姉さんの物だったのか……)


パパの心遣いが嬉しくて私は泣いていた。



「ママはお前が産まれる前に、何時までも引きずっていては駄目だと言ってベッドを移したんだ」


パパも泣いていた。


私はパパとママの子供に生まれて来たことを誇りに思った。





 「ママは子供部屋まで用意していた……」



「それが今の私の部屋?」


パパは頷いた。



「でもママはあのベッドに思い入れがあって……」



(そうかだから私が彼処で寝ると言い出した時、良い顔しなかったのか。それなのに私は……ママの反対を押し切って……。私ってなんて親不孝なんだろう)





 「ママをもっと苦しめたことがあったんだ。それは名前だった」



「名前? ねえパパどんな名前だったの?」



「聞きたいか?」


私は頷いた。



「だって私のお姉さんでしょう。本当の名前で呼んであげたいの」


私の言葉にパパは何度も頷いた。





 「若草物語って知ってるかい?」



(えっ!?)


パパの質問に私は思わず声を詰まらせた。



「ママの憧れだったんだ。パパの帰りを待つ四姉妹の気持ちが良く解るって言って泣いてた」



(そりゃそうだろう。私だってパパの帰りを待ちわびていた……)



「パパ達は学生結婚だったんだ。パパは商船大学だったから、その頃からあまり家に戻れなかったんだ。」



「ママ、寂しかったね」



「そうだね。だからお腹の中の赤ちゃんと良く話していたよ」



「ふーん。どんな話ししてたんだろ?」


私は何気無く言った。



「ママは『この子には甘えん坊になってもらいたい』そう言って末っ子のエイミーと名付けた」



(えっ!?)


私は又固まった。



言えなかった。

言える筈がなかった。



女子会で私がエイミーと呼ばれているなんて。


ジョーだけではなかった。

むしろ私だった。

母が名付けたいと思っていた名前を名乗っていたなんて……



(私ってなんて罪作りなんだろう。エイミー姉さん、私を許して)





 「エイミーはアルファベットではAMYと書くんだ。でもこれは悪魔学における悪魔の一柱だと言う人が居て……。ママは『自分がこの名前を選ばなければこの子は死産にならなかった』と攻め続けたんだ」



(えっ!? エイミーにそんな意味があったなんて……知らなかった)



「Amyだからあみにしようかなんて事も言っていたんだけど……結局死産だったから、それならエイミーのままでってことにした」





 難しい話は解らない。


私は改めて母に対する親不孝を心で詫びた。



母の気持ちも知らないでいい気になっていた。



もしかしたら私がエイミーと名乗りたくて、雅が髪を切ってきた時に言い出したのかも知れない。



「ホラーとかオカルトブームとかがその前にあって、まだ子供だったけど……。そう言うのが染み付いていたんだよね。だから、余計に自分を責めたんだと思うよ。ママってそう言う人だろう?」


私はパパの言葉を確かめるように頷いた。






 何時も母の傍にいた。

母一人子一人。

それが当たり前だった。

お互いの寂しさや苦しさを分かち合うために。



でも私は我が儘だった。


母の痛みにも気付いて遣れず……

なんて親不孝なん娘だったのだろう。



私は泣いていた。

自分が情けなかった。

母の傍に居ながら、何も気付かす笑っていた。

何時も母の傍にいながら……





 パパの記憶のない私は家族のことも知らず……

母に甘え続けた。



何も知らず、何も考えず、それが当たり前だと思っていた。



(ママー、ごめんなさい)


私は魔法の鏡の向こう側にいるはずのママに向って謝った。





 ふと目を外すとチビは其処でまだ寝ていた。

私は仕方なく、パパの元へ抱いて運んだ。



「頼もしいな」

パパは笑っていた。



「ん……? パパ?」


あれ程までに起きなかったチビがパパの笑い声で起きていた。



(えっ!? 流石パパだ。あの硬い甲板の上でどんなに揺さぶっても起きなかったチビが……)


私は苦笑しながらこの親子対面を喜んでいた。

これが私の望んでいた光景だったのだ。

そう。

だから危険を承知で此処に来たのだった。





 操舵室の窓に満月が見える。

その光が私のクロスペンダントに当たる。



「それはパパの……」

パパはそう言いながら、自分の首にあったお揃いのペンダントを外した。



「はい。これはキミの分だよ」

パパはクロスペンダントをチビの首に掛けた。



パパから貰ったお揃いのクロスペンダント。


今二人の胸に輝いた。



でもそれはパパとのお揃いでらなかった。


チビと私、二人だった。



(そうかだから何時も身に着けていたんだ。でも何故で貰ったかも忘れていた。そうか! 解った。此処で貰ったんだ!)





 私はハーフパンツのポケットに入れていた手鏡を思い出した。



私が魔法の鏡をねだった時にパパが買って来てくれた物だった。



でもパパは私の手鏡を見た時、同じように鏡を取り出した。


お揃いとでも言うのだろうか?


それは同じ図柄の合わせ鏡だった。



「パパ……パパが魔法の鏡だって言って渡してくれた手鏡。本当はあれで良かったの」


私は二つの鏡を合わせてみた。



「この鏡は何処に置いてあった?」



「チビ……ううん私の部屋だけど、」


妙なことをパパは聞くなと思いながらも私は素直に答えた。



タイムスリップした時、確かにチビの枕元に置いてあったからだ。





 「その前に屋根裏部屋に置いて無かった?」


それを聞いて、そんな事実を私は思い出した。



「パパが行方不明になった日、確かに屋根裏部屋にあったよ」

私の言葉を聞いてパパは思わず頷いた。



「そうか……あの日、その鏡から反射した満月の光がきっと魔法の鏡に入ったんだ。だからキャプテンバッドは此処に居るのか」



「キャプテンバッドと満月にどんな関係があるの? ねえパパ教えて。だって今日満月だよ」



「えっ!? 満月?」


パパは私の一言でかなり落ち込んでいた。



満月とキャプテンバッドの骸骨。


この似ても似つかない取り合わせが、これから私達を襲う事になろうとは……


予想だにしない展開が目の前に迫っていた。





 チビが合わせ鏡を手にしていた。

小さな手がその合わせ鏡を一つにしようとした時、鏡を介した満月の光がキャプテンバッドに当たった。



「満月の光が……」

パパが青ざめた。



「又キャプテンバッドが甦る!」


パパの悲鳴が船内にこだました。





 バスルームのコーナーラックの鏡に写ったクロスペンダント。


全ては其処から始まった。



それがコラボして、屋根裏部屋を開けさせたのだ。



(そうだきっとパパの存在に気付かせるために。私を鏡の世界へ引きずり込もうとするために)


全ては私をこの船に誘うためのものだった。


パパを助けるために、私が此処に戻ることを知っていたのだろう。



そして……

パパを鏡の世界に閉じ込めたように、私とチビを此処へ閉じ込めるようとしている。





 パパが見つけた魔法の鏡は、本物だった。


でもお伽話の物とは違っていた。


写し込んだ人物に執着し、鏡の中に取り込もうする邪悪な鏡だった。



その人物……


それは紛れもなくチビ……


いいえ、私だった!





 お伽話に出てくる魔法の鏡を見つけたパパ。


でもそれは月の光によって魔力化されていた。



パパが鏡を抱えて帰って来た日は満月だった。


その日。

港に客船を見回りに行ったパパは海賊に襲われた。



満月の力で、中に閉じ込められていた海賊船が港に現れたのだ。



「満月に……満月に又、あの骸骨が甦る!」



「満月!? パパ満月に何があるの?」

私はパパに迫っていた。



「お姉さん。パパを虐め無いで」

今度はチビが私に迫っていた。






やっと会えた時パパの側にいたのは……

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