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ヴァンタン・二十歳の誕生日  作者: 美紀美美
4/10

幽霊船

港で見つけた物は?

 知っている道の反対を行く。それ以外方法はない。

解っているけど、頭がこんがらがる。



「えーと、お茶碗を持つ方が左」

そう言いながら、お箸で食べる真似をする。



「おねえさん。それは右手だよ」

チビが素早く突っ込みを入れる。



解っていながらやってしまう。

頭が悪いせいもあるけれど、鏡の中はやはり迷路だった。





 鏡の世界に手間取りながら、どうにかこうにかたどり着いた海。



出来の悪い頭で必死になって考えた末に、やっとここまで来られたのだ。



十年前にお・ね・え・さんと探検した鏡の中にいたパパ。


詳しい経緯良くは覚えていない……



それでも……やはりパパの手掛かりは海しかないのだ。


だってパパは外国航路の船長なのだから。



パパは客船が海賊らしき船に襲われた事で、行方不明になっていたのだから。



(此処しか……この海しかない)


マジでそう思っていた。





 まるで万歳のコントのような調子で、其処まで来た私達。


そんな二人を待っていた物は、小さな手漕ぎボートだった。


他には何もなかった。



「此処海だよね?」

私が言った。



「なんで海に船が無いの?」

私は震えていた。



「これで来いって言うことだねきっと」

珍しくチビが言う。



「そうみたいだね」



「パパ、きっと待っているね。早く行こうよ」


チビは積極的だった。



(チビ……アンタどうかしてる。だって泳げないんだろー)



そうなのだ。

私は泳ぎが超苦手だったのだ。



何時か行ったアトラクションだと思っていた。

そう遊園地の海エリアの……


だから楽しい思い出しか覚えていなかったのか?



(今日私達が助けに行くことをパパは知っているのだろうか? パパ解るかな私が……)



心配だった。



私がパパを忘れていたように、パパも私のことなど忘れてしまったのではないだろうかと。



いやパパは私のことなど知らないはずだ。

だってこの時代に私はまだ居ないのだから。



私ははしゃいでいるチビの目を避けるように、陰で泣いていた。



もっと心配なこと……



ボートが怖かった……





 手漕ぎボートで荒海に乗り出す。



(どうせ鏡の中だ)


私は高をくくった私。



(転覆なんてある筈もない)


そう思っていた。



その時にはもう相当の体力を使い果たしていたからだ。





 遠くに船らしき物が見える。

必死にオールを漕ぐ。

でも行く手を遮るかのように何かが近づいて来た。


その背鰭に私は腰を抜かした。



(サメだ!)


恐怖のあまり私はパニックになった。


でもそれは良く見ると、イルカだった。



私達の行動を邪魔でもするかのように、イルカ達が遊んでいた。





 「わぁーイルカだー!!」

思わず大きな声を出してはしゃいだ私。



(ヤバい! どうしょう、気付かれる)


そう思った。



(気付かれないようにこっそり行かなきゃ意味がない)



私は肝に命じた。



「シッ!」

私は人差し指を唇に近付け、イルカの群れを追い払おうとした。



その時だった。

イルカが一斉に暴れ出しボートはひっくり返り、船底を晒した。


私はチビを抱いたままで、それに這い上がった。


それを見つけたイルカが遊ぶ。


私は青白い顔を海に写していた。



バスルームでの水鏡が脳裏をよぎった。



(この暗示だったのか!? 引き込まれたら……。パパを助けに行けなくなる!?)


私は祈るような気持ちでイルカを見た。


イルカは図に乗ったらしく悪戯根性むき出しに近付いて来る。



 (あれっ……? 十年前……転覆したっけ?)


思い出せない……

私は腕に抱えていたチビに気付いた。


チビはまだ眠っていた。



(えっ!?)


私は呆然としたまま、暫くそのまま固まっていた。



(そうだよね。急に起こされて眠いよね)


私は本当のお姉さんになったような心持ちでチビを見つめていた。





 (もう駄目かも知れない)


そんな思いが脳裏をかすめる。


それでもヤケクソだった。


体当たりしてきたイルカの背鰭に手を伸ばした私。



でもそのお陰で、あの船の目の前に流されていた。



チビはまだ眠っていた。


でも本当は……

気を失っていたのかも知れない。


チビもやはりボートが怖かったのだろうか?





 楽しい思い出。

だった。



お・ね・え・さんとの出逢い。


冒険。



それは、きっと楽しいことしか記憶して居なかったからなのだろう。



十年後の冒険に、出発させるために……



神様がチビに魔法を掛けたのだ。


そう思った。



イヤ違う……



チビは眠たかっただけなのだろう。


何しろ、この私に突然起こされたのだから。





 「よしよしお休み」

私はこの時、母にも似た気持ちになった。



私のせいで気絶したように眠るチビ。


暫くそのままにして置こうと思った。



(でも何故私は全部忘れていたのだろう? 何故私は屋根裏部屋まで忘れていたのだろう?)


不思議だった。


楽しい思い出だったと、何故今言えるのかと……





 手を伸ばせばその船に乗れると思っていた。



ところが、甲板に上がれる物は何もなかった。



(もう助からない!)


そう思った瞬間。

船の側面にロープに繋がれたゴンドラのような物が揺れているのを見た。



両端をロープて括った、一言で言うと大きなブランコみたいな物だった。





 (助かった。これはきっと荷物の上げ下げに使うとね。でも良く考えてあるな)


私は関心しながら、まずチビをそのうえに乗せた。


現実だと認識していないせいか、何でも出来た。


ウンテイや棒登りはは苦手だった。


それでも必死に上を目指した。





 良くビル掃除の時に使われるゴンドラ。


チビと二人で上がって行く。


でもチビはまだ眠っていた。



知らなかった。

お・ね・え・さんがこんなに苦労をしていたなんて。

私はただお・ね・え・さんに守られて……

眠っていた。





 それは帆船だった。

マストはメインとフォアの三本。


帆布はしっかり巻き付けられている。



(初めて見た……わあ何て素晴らしいんだろう!)


私は一人で感激に浸っていた。




 (大丈夫。大丈夫。この携帯さえあればきっとうまく行く)


私は自分に言い聞かせていた。



取り出した携帯のカバーを開けライト代わりにする。

潜望鏡の正体を確かめるためだった。


甲板で眠っているチビに気遣いながら、私はそっとそれに近付いた。





 煙突の横に穴があり、階段で降りられるようになっていた。



早速一人で降りてみた。

煙突の正体は、調理室だった。



(ここで料理したのか?)



火を使うためだろう。

調理用ストーブの周りは防火対策でレンガ造りになっていた。



目を瞑る。


乗り組んだ船員の空腹を満たす為に奮闘するシェフの姿を思い浮かべてみる。



(材料は?)


私は辺りを見回した。


幾ら満月だと言っても船底まで明るい筈もなく、ただゴロゴロした何かがある位しか解らなかった。





 月明かりに照らされて、もう一つの階段に気付かされた。


そっーと近付く。

長テーブルと長椅子があった。

きっと此処で食事をしたのだろう。



その上にはハンモックが垂れ下がっていた。

船員達はきっと此処で食べて寝ていたのだろう。


奥の奥に何かが見えた。

それは樽のようだった。


私はもう一度携帯を手に取った。





 この時代に携帯電話はあっても、私のはきっと使えない。

番号も機能も増えたからだ。



でもカメラや明かり取り位にはなるだろう。



母は私がお風呂に入っている間に充電しておいてくれたから、此処で使えるのだ。



(お母さんありがとう)


私は今は遠い母に感謝しながら、もう一度携帯のカバーを開けた。



その途端に開閉音。

しまったと思い慌ててカバーを閉じる。

でも暫くしてからソッと開けた。

マナーモードにするためだった。





 (こんな場面……何かに残したい)


素直にそう思った。



月明かりに照らされて、浮かび上がる帆船。


雄大な光景を、思いっきり満喫した私。



(チビも見れば良いのに……)



真っ暗な夜に満天な星。


おまけに満月。



(えっ、満月!?)


思い出したことがあった。



(パパが行方不明になったのも……確か満月の夜だった……)



ゾォーっとした。


(このまま私達も迷子になったりして……)


一瞬……頭を振った。



(違った。行方不明だった。そう、パパと同じように……)





 あの夜は確かに満月だった……。

パパが魔法の鏡をプレゼントしてくれた翌日。



パパは見回りの為船に戻った。

そしてそのまま船と一緒に行方不明になっちゃったんだ。



海賊船の襲来だと言われてきた。

パパが乗っ取ったとも言われてきた。



(そうか! だからお母さんはパパの話をしなくなったんだ。だから私はパパを忘れていたんだ。もしパパが犯罪を犯していたら……? 母はそう考えていたのだろうか?)



それは万が一にも考えられないことだったはずだけど……


パパはあの日から帰って来なくなったんだ。





 フォアマストの横に煙突があった。

一瞬潜望鏡かと思った。



(馬鹿が私は……。潜水艦でもないのに)


一人で笑いをこらえた。



(一体これは何なのだろうか?)


好奇心が揺すぶられる。

本当は怖いはずなのに……





 (そうだ。携帯電話があった)


船底を探検する為に、何か灯りがあればいいと思った時突然閃いた。


私は早速ポケットに手を入れた。



(あれっ!? 何時の間に?)


それはチビの枕元で見つけた手鏡だった。



(チビが持ち込んだ訳じゃなかったんだ。ま、勘違いって事もあるさ)


照れ笑いをしながら、取り出した携帯のカバーを開けた。





 (そうか。此処に来るために防水だったのか!? 雅との長電話のためじゃなかったんだ)


忘れていたはずだった。

でも本当は知っていて……



(全てがこのためだったのか?)





 まず、節約のために照らす時間を短く設定してから探索へと足を踏み出した。



船底には誰も居ないように思われた。



(おかしいな?)


何故かそう思った。


奥にある大きな玉のような物が、暗闇に馴れてきた私の目に写った。


そしてそのすぐ傍には長い筒。


早速カメラ機能で携帯の画面に映し出された映像を確認した。

それはパイレーツ映画で見た砲弾その物だった。



(此処は弾薬庫。間違いない! きっと海賊船だ!)


私は自分の想像に頭を抱えた。



(まだそうだと決まった訳でもないのに)


私はもう一度弾薬庫を見つめた。



「あれっ?」

私は何故か首を傾げた。


何かが足りなかった。

海賊なら太刀とか、刀系の武器があるはずなのに……


何も無かったのだった。



私は取り越し苦労だったと思っていた。





 誰も居ない船。

そして弾薬。



(もしかしたら本当に海賊船?)


もう一度そんな考えが脳裏に浮かんだ。

そしてある事を思い出す。



(そうだ……パパが襲われたのも海賊船だった……でも……誰も居ないなんて……嵐でも来て逃げだのかな? パパも一緒に? この船にパパが居ると思ったのに……だからあんなに頑張ったのに……)



私は呆然としていた。





 ゆっくり進む海賊船?


でも帆は畳まれたままだった。



(あれっ、この船に乗組員は居ない筈。帆もこんな状態じゃ。そうだ、この船は一体何で動いているんだ?)


私は耳をすませた。


何か音がしないかと思って……


動力は帆か?

それとも……?



私はそれを確かめようとして慌てて甲板に戻った。






其処にパパはいなかった。

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