従兄様とお出かけ
あの日の恐ろしい従兄様の笑みに私と陸斗くんは毛を逆立てた猫のように警戒しました。
けれど、何もない日が続いてついに考えすぎという結論を陸斗くんと出したところに従兄様からのお呼び出し。
嫌な予感しかしません。が、警戒心いっぱいの私を見た従兄様は少し傷ついた顔をして、申し訳なさそうに私の機嫌をとりはじめます。
ま、毎回ケーキで機嫌直したりしないんですからっ!し、しないもん。しない……嘘ですごめんなさい。おいしいものには勝てません。
従兄様自ら淹れてくれた紅茶もおいしいです。
「機嫌、直ったか?」
「こ、今回だけだからね!」
「あぁ」
嬉しそうに笑う従兄様にしょうがないなと言いながら口元が緩むのを止められません。
「それ食い終わったら出かけるぞ」
「どこ行くの?」
「ついてからのお楽しみだ」
ニッと悪戯っぽく笑う従兄様に嫌な予感がしなかったわけではありません。
小さなころから従兄様がこういう笑みを浮かべた時はかならず振り回されましたから。
でも、その分私もたくさん楽しませてもらうことが多かったので、正直、またか、今回は何かなくらいの気持ちでちょっと楽しみだったりしたんです。
ケーキなんかに夢中にならずに気づくべきでした。
従兄様がちょろいなとばかりに意地悪く口の端を釣り上げていることに。
そしてこっそりどこかに連絡を入れていたことに。
そんな従兄様の様子に気づけなかった私が連れて行かれたのは近々完成予定の結婚式場でした。
え?おかしくないですか?どうして結婚式場?しかもオープン前の!
まさか従兄様結婚の予定でもあるんですか!?そんな話きいてません!というか相手はどこの誰ですか!
……違いますよ。従兄様はシスコンでも私はブラコンじゃないです。
違うから。ほんとに。別に従兄様が誰と結婚しようと私には関係ないし。
「沙奈?」
「ハッ!な、なんでもない」
怪訝そうな従兄様に慌てて思考を引き寄せます。
「あなたが沙奈ちゃんね。はじめまして」
トリップした思考を連れ戻して顔を上げた先にはにっこりと微笑む綺麗な女の人。
年は従兄様と同じか少し上くらい。
え?まさか本当に従兄様結婚するの?この美女と?
「明君から話は聞いてるわ。本当に可愛い。こんな子が義妹になるなんて嬉しいわ」
え?えええええ?
訳が分からない私はただただにっこりと微笑む美人さんにひきつった笑みを返すことしかできませんでした。
イモウト?
イモウトッテナンデスカ…?