従兄様の危険な微笑み
従兄様の部屋まで戻ってくると陸斗くんはキッチリとドアを閉めてずるずるとその場にしゃがみこんでしまいました。
「はぁああああ、死ぬかと思った」
優雅にソファーに座っていらした従兄様は頬が色づいたままの私としゃがみこんでしまった陸斗くんを見て心底楽しそうに笑っていらっしゃいます。
私たちはちっとも笑えません。
「2人そろってジジイに啖呵でも切ってきたのか?」
「誰のせいだと思ってんだ!?」
「誰のせいだと思ってんの!?」
事の発端は従兄様です!
そもそもどうして私がおじい様に呼ばれたことを陸斗くんが知ってるんですか!!
乱入して来たんですか!!助かったけど!助かったけどなんか思いもよらぬ方向に事態が進んでいるような気がしてならないんですけど!!
「少しは賢くなったな。沙奈」
「どーゆー意味!?」
「……陸斗の見合いをお前が破談にしてジジイに呼び出されたお前のとこに陸斗がすっ飛んで行った。その上で2人そろってあのジジイに啖呵を切った。
それが答えだろ」
「意味わからない!!」
「意味分かんねぇよ!それとこれとは話が違うだろうが!!」
「……馬鹿は馬鹿のままか」
ギャンギャン吠える私と陸斗くんを心底馬鹿にしたような目で見つめながらこれ見よがしに溜息を吐く従兄様。
いい加減殴ってもいいですか?いいですよね?止めないでください陸斗くん。人間どんなに無謀でも、避けられると分かっていてもやらなきゃいけない時があるんです!!
「まぁいい。もうしばらく婚約者ごっこを楽しめよ」
「だ か ら !」
「誰のせいだと思ってんだ!!」
私たちの抗議をしれっと無視して、それどころかケーキとコーヒーで黙らせて従兄様はニヤリと嫌な笑みを浮かべました。
途端に私と陸斗くんはゾクリと肌を粟立てて引き攣った顔で大変ご機嫌な従兄様をおそるおそる見つめました。
「な、なんだよ。明」
「別に?」
「嘘だ!絶対また何かたくらんでるでしょ!?」
「何でもねぇよ。ククク」
「「……」」
不吉な従兄様の笑みに真っ青な顔を見合わせて荷物を引っ掴んだ私と陸斗くんは従兄様の口からトンデモナイ言葉(命令)が飛び出す前にそそくさと逃げ出しました。
こ、怖すぎる。