従兄様はご機嫌です。
陸斗くんのお父様に婚約者宣言をしてから数日もしないうちにおじい様に呼び出されました。
イヤな予感しかしない私に従兄様はニヤリと意味深に笑っておじい様の待っている部屋に案内してくれます。
うわ、行きたくない。
ブツブツと駄々を捏ねる私にクツクツと笑いながら従兄様は容赦なくおじい様の待っている部屋の扉を開き私を放り込むとパタンと閉じてしまいました。
こうなっては腹を括るしかありません。
………前言撤回。
今すぐこの部屋から逃げ出したい、いや逃げ出すべきだと思います!
いつも古狸……ゴホン、喰えない笑み……じゃなくて、人のよさそうな笑みを浮かべているおじい様からものすごく禍々しいオーラが発生しています。
「沙奈」
「お、お久しぶりです、おじい様」
「あぁ、急に呼び出して悪かったね」
「いえ」
「実はとっても妙な噂を耳にしてね」
「はぁ、」
「沙奈が天城の三男と婚約したとかぬかす馬鹿がいるんだ」
もちろん嘘だろう?
そう笑うおじい様の目は据わっていて、それ以外の答えは許さないと言いたげです。
正直に言います。滅茶苦茶怖いです。陸斗くんのお父様も迫力満点でしたが、おじい様はその比じゃないです。
お母さんはよくこんなおじい様と渡りあってお父さんとの結婚の許可をもぎ取りましたね。マジで尊敬します。
「沙奈?」
「……事実です。おじい様。
私、陸斗くんの婚約者になりました」
「どういうことだい?」
「おじい様。私、陸斗くんと過ごす時間が好きです。
意地悪言う時もあるけど、優しいし、一緒にいて楽だし、楽しいし、安心します」
「……」
「おじい様に黙って婚約という形になってしまったことは謝ります。
でも、撤回するつもりはありません」
私と陸斗くんに好きな人ができない限り。
心の中でこっそりつけたしながらおじい様を真っ直ぐに見つめます。
おじい様も普段なら絶対に私に向けることのない鋭い目を私に向けています。
ピリピリした空気が漂う中、それを壊すように大きな音で閉まっていた扉が開きました。
「失礼します!
この件で沙奈、さんを責めないでください。全ては私の責任です!」
「りくと、くん」
息を切らせて焦った顔で入ってきた陸斗くんに目を私は目を見開いて驚いてしまいました。
ゆっくりと息を整えながら私の隣まで歩いてきた陸斗くんにそれまで心細かった思いや、おじい様に感じた怖さが吹き飛んで安心にかわってしまいました。
「はじめてお目にかかります。天城陸斗と申します。
この度はご許可を頂きに来る前にこのようなことになってしまい、まことに申し訳ありませんでした」
「……。沙奈、私は認めんぞ」
頭を下げる陸斗くんを無視しておじい様は私に声をかけてきます。そっちがその気ならこっちだって知りません!
「私はおじい様の孫娘ですけど、外孫です。
おじい様のお許しが頂けなくとも、お父さんとお母さんに許してもらえればそれで良いです」
「沙奈!!」
それを窘めたのは意外にも陸斗くんでした。
本当に馬鹿な人です。こんな時だって私の立場とかおじい様との仲とかを気にして。
しかたありません。アレを使いましょう。
「……おじい様。今すぐに認めてくれなくていいです。勝手をしたのは私たちですから。
でも、私、大好きなおじい様には大事な人との仲を祝福して頂きたいです」
しおらしく訴えかけるのがポイントです。これでも文句言うなら知りません。大体私はこの家を出たお母さんの娘、一般家庭の庶民です。お金持ちの仕来たりなんて知りません。
「今すぐに認めて頂けるとは思っていません。ですが、必ず認めて頂きます」
「……陸斗くんと言ったね。沙奈のどこを気にいった」
その質問にピシリと固まったのは陸斗くんではなく私です。
本人の前でなんて質問してるんですかおじい様!私たちは本物の婚約者じゃなくて、婚約者のフリしてるだけなんですから!
私はしばらく陸斗くんの女避けしてるだけです!!陸斗くんだって従兄様対策で私に次の婚約者が用意されるのを防いでくれてるだけなんです!
そんな、そんな質問、
「お、おじい様!本人の前でそういうの聞くのはよくないと思いますっ!!」
「笑った顔が好きです。気の抜けた飾らない笑顔に癒されます。
その笑顔を、守りたいと思います」
「な、ななななっ!!!」
「フン。もういい。ふたりとも下がりなさい」
「失礼します」
陸斗くんはおじい様に頭を下げると真っ赤になって口をパクパクさせる私の手を引いて歩きだしました。
顔が熱くてどうしようもないくらいに恥ずかしいのに、なんだかちょっと幸せで嬉しくて口元が緩むのを私は止められませんでした。
昨日、更新するの忘れてました!
申し訳ありません><(土下座)
今日は夕方にもう1回更新します!