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列車の旅の行く末シリーズ

列車の旅の行く末(学生編)

作者: 樫原 せりな

旅行したい!!という思いから出来た作品です。

こちらは春休みだったので18きっぷ利用です。。

社会人編の時は時期的に販売されていません。


※実際に旅館ホテルともにこのような対応はしませんのであしからず


「予約が入っていないってどーゆーことですかっ!?」

部屋につくなり、露天風呂に入ろうと浴衣に着替えフロント前を通った時だった。

俺の耳に泣きそうな声で叫んでいる女の声が聞こえた。

「申し訳ございません。ご予約を依頼されていた旅行会社に連絡を取りましたところこちらに予約通知が流れていなかったようで・・・」


旅館の人も申し訳なさそうに対応していた。

なんだ、手配したお店がミスしたのか・・・

そう軽い気持ちで他人事のように聞き流していた。

次の瞬間、女を見るまでは・・・

「そんなことどうでもいいわ。とりあえず、今夜どうすれば良いわけ?」

さっきまで泣きそうな声を出していたが、今はもう落ち着いたのかさっきよりも少し冷静な声で正論を言い放った。


確かにそうだよな。

それよりも、俺のようにここはいつでも人が行き来する。

とりあえず、空いている部屋にでも通せば良いのに・・・

「あの・・・それが本日はこの近辺のお宿はどこもいっぱいでありまして・・・」

・・・うわぁ~最悪だなぁ~

あっ・・・あのヒト・・・


「一間なら空いているけど?」

ハッと我に返り顔を背けた。

が、視界にはばっちりと明らかにホッとした旅館の人と驚きつつも嬉しそうにしている彼女が見えた。

気が付いたらそう言っていた。

自分の言動に後悔しても後の祭りというものだ。

「俺はまどか、君は?」

部屋に入るなり使っていなかった部屋に彼女を通した。

「柚羽。・・・あの、本当にいいんですか?」

持っている荷物を肩に掛けたまま心配そうな趣で言った。

「やっぱりダメっていったらどうするの?この辺は満室なんでしょう?野宿する?」

俺の言葉に固まる彼女

まぁ、普通男と部屋を共有するなんて非常識だよね、しかも初対面の男

「仕方ないさ。俺は露天風呂に行ってくるよ。」

口を開き掛けた彼女の言い分を聞かないように俺は部屋を後にした。

ふぅ~

風呂にゆっくり浸かり今日の疲れを取る為に足をマッサージした。

さて、どうしたもんか・・・

普段の俺からは想像できないな。

まわりの人間がこのことを知ったら驚くだろうな。

というか、今回の行動だけでも十分だろう。

とにかく、あんまり意識しないようにしなきゃ。

・・・意味わかんねぇ~


部屋に入るなりその場で力が抜けたようにしゃがみ込んだ。

悩みの種である張本人・・・浴衣に着替えているのはいいのだが・・・なぜか、寝ている・・・

「それではこちらの方に用意しておきますね。」

クスクスと笑いながら仲居さんは端に寄せたテーブルに夕食をセッティングしていた。

「もし、お時間お有りでしたら裏庭を覗いてみてください。少し早いですが、良いものが見られますよ。」

寝ている彼女を起こさないようにし、仲居さんがそう言葉を残していった。


「・・・・んっ」

ブラブラと売店等をして部屋に戻るとちょうど、ガバッと起き目を擦る柚羽

「起きたか?」

まだ覚醒していない彼女に声を掛け座った。

「・・・ごめんなさい。」

誰だろう・・・

彼女の顔はそう物語っていた。

そして、思い出したのか恥ずかしそうに頬を染め謝った。


「気にすんな。夕食出来ているけど、食べられるか?」

さっき仲居さんが用意した食事を顎で指し示した。

「・・・おいしいっ」

食事を二人で突き彼女の第一声

「だろ?これが、俺がこの宿を選んだ理由」

他にも理由はあるが・・・

「散歩がてら裏庭に行ってみないか?」

俺の言葉に素直に頷き、すぐ席を立ち上着を部屋に取りに行った。


「わぁー、きれいな桜・・・」

風に揺られて花びらが舞う中を両手広げてはしゃいでいる柚羽

一通りはしゃぎ終わったのか携帯を取り出し桜を携帯に収めた。

「お姉ちゃんにね、この桜のこと教えるの。秋は紅葉が綺麗だったんだって。」

携帯を触りながら、俺の視線に気が付いた彼女がニッコリ微笑み言った。

くるくると変わる彼女の表情がとても可愛くて自然と俺の表情も綻んでいた。

「・・・足・・どうかしたの?」

ぼぉーと柚羽と桜を見ていた俺は不意をくらったようになぜか焦ってしまった。

そのことがばれないように視線を下に移すと風に揺られ足元のサポートがバッチリと見えていた。


「まどか、今のままだと焦るだけで辛いだろう?以前、俺がいった温泉宿があるんだ。料理もうまいし、景色も最高。この機会にゆっくり休んできたらどうだ?」


中学からやっていた陸上・・・

それなりの成績も収めた。

なのに、大学に入り初めての挫折・・・

練習中のことなら自分でも納得したかもしれない。

でも実際は、練習中ではあったものの酔っ払い運転のバイクが突っ込んできた交通事故だ。


全治3ヶ月・・・

もうすぐ後輩も入ってきて活気溢れる時期に自分は走ることが出来ない・・・

元々、周りとかかわらなかった俺は心配するような人たちも居ずただ悔しいそして焦りでイライラとしていた。

そんな俺に手を差し伸ばしたのは唯一、俺を可愛がってくれていた元OBである先輩だった。

その日のうちに駅に向かい18キップを買いそして、今ここにいる。


「まどか君?」

答えることなく黙っていた俺を心配してか覗き込んできた柚羽

「あっ、悪い・・・」

つい、自分の殻に閉じこもってしまった俺は柚羽なら話を聞いてくれるかもしれないと淡い期待を抱いた。

「気にしないで。それに、私も一緒だから」

そう言って隠れている右足をチラリッと見せた。

「靭帯痛めちゃった。」

エヘッとかわいく言っているようだが悲しそうな表情を見るとやるせなくなる。

「高校最後の試合中に・・私のこと気に入らない子がいたんだよね。遊び程度なら走ったりとかも出来るんだけど、正式な試合とかはもう・・・せっかくバスケをやっていたんだけど、スポーツ推薦もらってたのにダメになって・・・半年くらいメソメソしていたらお姉ちゃんにゆっくり休んだら?ってここを勧められたの。ここは奇跡が起こる旅館だからって・・・」

柚羽が離している間、俺はただ黙って聞いていた。


「奇跡か・・・どちらかと言えば災難な気がするが・・」

苦笑いを浮かべながら柚羽の足から視線を外せなかった。

「まどか君は迷惑かもしれないけど、私にとってはまどか君に会えた事が奇跡だよ。」

恥ずかしがらずにはっきりと言い切った柚羽。

ゆっくりと視線をあげると柚羽の表情から悲しそうな表情は消え優しい笑顔が浮かんでいた。

「・・俺も、柚羽に会えた事は奇跡だと思えるよ。」

知らず知らずの内に、足に対するイライラは消え今はゆっくり休もう。

そう思える自分がいつの間にかいて、その気持ちをすんなりと受け入れられる自分もいた。

それはきっと今、目の前にいる柚羽のおかげだと思う。


「それに、一日にこう何度も会ったらね。」

笑い掛けながら部屋に戻ろうと後向きのまま足を進める柚羽

「降りた駅には、どっちかが先にいんだよな。」

柚羽がこけないように目を離さずに俺は言った。

あの時、柚羽につい声を掛けてしまった最大の理由はこれだ。

「それ考えたら、偶然通り越して奇跡じゃない?・・・きゃっ」

案の定、何もないが足を絡ませつまずきそうになった柚羽

そのことを見越していつでも手を伸ばせる距離にいた俺は柚羽の右腕を引っ張った。

引っ張った拍子に俺の腕の中に綺麗に収まってしまった彼女

・・・抱き締めてどーすんだよ俺っ!

「・・ありがとう。」

見上げた顔は照れて真っ赤になっていた

ドキッとするような表情に、直視できずに柚羽を離し、2歩程前に行き手を差し出した。

「もうつまずかないもん」

頬を膨らませながらそういいながらも手を繋いできた柚羽

かわいいなぁ~内心思いながらも赤くなっているであろう顔を隠すように足を進めた。


「まどか君、まだ起きてる?」

あれから、部屋に戻りお互い露天風呂に行き、それぞれの部屋で布団に入った。

ただ布団に入り、天井を見つめていた・・・意味もなく。

その時、部屋と部屋を遮っていた襖の奥から彼女の声が聞こえた。

「どうした?」

彼女もまだ起きていたのか・・・

上半身を起こし、声を返した。

「また、走れるよね?」

彼女の言葉で自然とサポートがある足に手を伸ばしていた。

「あーぁ、・・・走るよ。」

まるで言うことを聞かない足に言い聞かせるように言った。

「・・よかった。」

聞こえてくる彼女の声がいままでと違うような気がした。


ガラッ

布団から立ち上がり、思いっきり力を込め襖を開けた。

「なんで柚羽が泣いてんだよ。」

襖を開けたそこには、何度もよかったと言いながら泣いていた。

その姿がなぜかとても愛しくそして儚く見えた。

恐る恐る、柚羽に腕を伸ばし壊れものを扱うかの如く優しく抱き締めた。

「・・ゆっくり・・・ゆっくりでいいからまどか君のペースで走ってね。」

小さい子を宥めるように頭を撫でていると顔をあげ、微笑んだ。

「ありがとう。」

彼女の涙を指で拭いそのまま頬に手を当てた。

「柚羽に会えて本当によかった。」

敵ばかり作っていた俺


先輩の言葉がなければ俺は自分を憎み、周りまで憎んでいただろう。

そんなふうにならなかったのは、ここを勧めてくれた先輩。

そして、この旅で出会った柚羽のおかげだ。

本当に、心からそう思える。


「それじゃー、私はこっちだから・・・」

朝、目が覚めると腕の中で柚羽がすやすやと眠っていた。

あのまま眠ってしまったのだろう。

ただ、抱き締めるだけでこんなにも心が穏やかになるなんて知らなかった。

「あーぁ、元気でな。」

また、会いたい。そう思っている気持ちを胸に秘め俺たちは駅で別れた。

「バイバイ」


お互いに連絡先なんて聞かなかった。

それがきっと一番なんだ。

そう自分に言い聞かせて・・・

「いい顔になったな。」

あの旅から戻ると俺は学校へは行かずリハビリに専念した。

医師が言うには来週には無理しない程度なら、復活していいと了承がでた。

「先輩・・先輩のおかげです。ありがとうございました。俺、あのままだとダメになってました。」

俺の言葉に満足したように頷く先輩

「お前のペースでいい。頑張れよ。」

格好よくスーツを着こなす先輩は軽く手を振り店から出ていった。

延岡先輩、本当にありがとうございました。

そんな先輩の後ろ姿を見て俺はもう一度心の中で言った。


「おい、キャプテン来てくれ」

4月から完全復活を果たした俺はキャプテンになっていた。

「はい。」

監督に呼ばれ、小走りで近づく。

「新入のマネージャーだ。」

ベンチを立ち上がり、後ろにいる女子を前に導いた。

「こんにちは。新しくマネージャーになりました川内柚羽です。」



俺の恋の旅はまだ始まったばかり・・・





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まどか君と会ってから約1ヶ月・・・


私は、推薦が取れていた大学へは行かずにスポーツトレーナーの資格が取れる大学に入学した。

入試の時は、特に希望もなくただここが家から近いからと意味もなく決めていた。

しかし、今となってはここに入学してよかったと思っている。

それも、旅でまどか君に会えたことがキッカケだ。

自分は無理でも、まどか君のように選手の辛い表情は見たくない。

それなら、私が手助け出来るようになればいい、そう思ったのだ。


「柚羽が、マネージャーねぇ~まぁ、いいんじゃないの?春休みの間に元気になったみたいだし、先輩達に紹介するよ。」

入学式後、高校の先輩が私を訪れ、意外に元気な私にびっくりしていた。

そして、自分がマネージャーとして支えたと話をしたのだ。


「まって・・・・先輩。あれって、陸上部?」

体育館に向かう途中に横切ったグランド・・・

そこでは陸上部らしき人たちが練習していた。

「そうよ、そういえば、陸上部でも怪我した人いたな・・・ほら、あそこの集団の中心にいる人!!確か、八代まど・・・ちょ、柚羽!!どこに行くの!!」

先輩に促された集団に目をやるなり私は一目散にグランドに向かった。


「先輩、ごめんなさい。私、バスケ部のマネージャー出来ない・・・」

そう言って、叫んでいる先輩を気にすることなく私はグランドへと向かった。


私の列車での恋はまだはじまったばかり・・・・


2007.9.4に自サイトにて掲載したものです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 旅先での出会いっていいですよね。そういう時って、下心ありつつも敢えてお互いの連絡先は聞かない…。 旅先だからできることで、それを後で悔やむこともない。 こんな風に再会出来たら、もう運命としか…
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