表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

3つ考えなさい。

作者: 紅の豚

男はごく普通の男だった。少なくとも自分ではそう思っていたし、普通の男であることに何ら疑問も抱いていなかった。

普通に学校へ行き、そこそこの会社に入り、それなりに良い嫁をもらい、可愛い2人の子供にも恵まれた。良い夫で、良い父親。それが世間から見た男だった。

不満もなかったし、かと言って幸せかと尋ねられたら、よくわからない。

しかし男はごく普通に生きていたし、それに対する不満は特になかった。



ある日気がつくと、男は違う世界に立っていた。さっきまで踏みしめていたコンクリートの道は消え、男は真っ白な部屋の中にいた。

壁が白いだとか、天井が白いだとか。そんなものじゃない。どこもかしこも真っ白で、どこまでが部屋なのかもわからないし、ましてや自分が部屋のどの辺りにいるのかさえ、皆目検討もつかない。

男はただ1人、棒のように立ち尽くしていた。


と、突然どこからか声が聞こえてきた。


「3つの質問に答えてください。正しい答えが出せたなら、外へ出してあげましょう。」


女のようでもあったし、男のようでもあった。子供の声にも、老人の声にも聞こえた。勝手に閉じ込めておいて、答えられたら出してやるというのも、どうにも身勝手な話だ。第一、怪しい香りしかしないではないか。

しかし閉じ込められているのは事実だったし、他にどうすることもできないので、男は従うことにした。


「3つ答えればいいんだな?」


クスッ。

声が少し笑った気がした。


そして目の前に3つのテーブルが現れた。

その上にはそれぞれ、船の模型、写真の入っていない写真立て、そして鏡が置いてあった。


「3つのうちどれかを右手のピストルで撃ってください。ただし、船の模型を撃てば船が沈んで乗っている人たちが、写真立てを撃てばこの世の誰かが、鏡を撃てばあなたが死にます。さぁ、どれを撃てばいいでしょうか?」


右手を見ると、いつの間にかピストルが握らされていた。

冗談じゃない、と思った。ただ質問に答えるだけじゃなかったのか?


男は焦った。

どれだ?どれが正解なんだ?俺が死んでしまったら意味がないだろう。残るは1人の命か、大勢の命か……。

男は迷わずに写真立てを撃った。


カシャン!


写真立てはあっけなく弾に当たり、落ちて、そしてあっけなく割れて粉々になった。

なんとも安っぽい写真立てだ、と男は思った。


「お見事。」


目の前にドアが現れた。

男はホッとしてドアを開けた。


次の部屋は灰色がかった部屋だった。真っ暗なわけではないが、薄暗く、何か不安な気持ちにさせられる。

そこには、すでにもう3つのテーブルがあり、上には海に浮かんだ島が描かれた絵、そして例のごとく写真立てと鏡が乗っていた。


声が言う。

「3つのうちどれかを右手のピストルで撃ちなさい。ただし、島を撃てば住んでいる人たちが、写真立てを撃てばあなたの近くの誰かが、鏡を撃てばあなたが死ぬ。さぁ、どれを撃ちますか?」


男は少し迷った末に、狙いを定めて引き金を引いた。弾は写真立てに当たり、またあっけなく粉々に割れた。何故だかピストルが重くなったように感じた。


ドアが現れた。男はドアを開け、中へ進んだ。


最後の部屋は真っ暗だった。自分の手や足さえわからない。

パッと小さなスポットライトがついた。また3つのテーブルが置いてあった。上にはそれぞれ、地球儀、そして例のごとく写真立てと鏡。


声が言う。

「3つのうちどれかを右手のピストルで撃て。ただし、地球儀を撃てば世界中の人類が、写真立てを撃てばお前の大切な誰かが、鏡を撃てばお前が死ぬ。さぁ、どれを撃つ?」


死にたくない。男はそう思った。これで最後だ。死にたくない。やっと帰れる。

男は迷わず写真立てを撃った。答が間違っている気は毛頭しなかった。


パリンッ!


またも写真立てはあっけなく粉々に散った。


「おめでとうございます!」


一瞬の間を置いて、やけに興奮した声が言う。

良かった。生きてる。男は安堵した。



気がつくと男はさっきまで歩いていたコンクリートの道の上に立っていた。

しばらくの間、今までのあれは何だったのだろうと考えたが、今日は息子の誕生日で早く帰って来いと妻に言われたのを思い出し、家路を急ぎ始めた。


「ただいまー。」

返事がない。静かだ。買い物だろうか、全く勝手な奴だ。そう思い、部屋へ入る。

新居を購入した際に2人で選んだ、妻お気に入りの真っ白な壁紙が迎え入れる。


と、机の上に何か乗っているのが見えた。近づいて見てみると、それは3つの写真立てだった。


安っぽくて、表面のガラスが粉々の。


男は全てを悟り、そして激しく泣いた。


写真に写っていたのは、男の妻と2人の子供だった。


男の手にはピストルが握らされていた。


男の答えは間違っていたのだろうか。

そもそもあの質問に答えなどあったのだろうか。



今になっては、もう、誰にもわからない。

この男は果たして、ピストルを使ったでしょうか…?読んでくださった人に考えていただきたいです。



初めて投稿した作品ですが、いかがでしたでしょうか?

至らない点、多々あると思います。感想や意見などありましたら、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうも、作品を読ませていただきました。 とても面白い作品でした。 生きてる時はそんなに深い思い入れなかったのに、失ってから初めて家族は失ってはならない大切な存在ということに気付くのは何と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ