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かげふみごっこ

作者: ひよこ豆

ぺたり。


薄っぺらい影はいくら踏みにじっても姿を変えることはない。


どうして、僕は、ボクは、ぼくは。




夕焼けに照らされのびた影。

追いかける、一歩。


進んでも進んでも。苦しいことも悲しいことも無くならない、どこへいけばいいのかわからない。こんなに辛いなんて、全然辛くない。


不安が襲ってくるの、逃げて。

走っても走ってもついてくる。

憑いて、くる。









はあ、


はあ、はあ、はあ、


はあ。





おいおい、なんでそんなに走ってるんだ?


わからない。わからない。だけど、走らなきゃ。逃げなきゃいけないんだ。


じゃあ何から逃げてるんだ?


それもわからないよ。


これは呆れた、理由も無くそんなに必死に走ってるのかよ?


そうだよ。


うわあ、馬鹿みたいだな。お前。


―ねぇ、ちょっと黙っててくれないかな?


どうしてだよ?


気が散っていけないよ。追いつかれてしまう。


ははあ、それはそれは。でもな、俺は喋り続けなきゃいけないんだ。


それこそどうして?


さあな。


じゃああ、君は理由も無く僕を苦しめているのかい?


そうさ、おまえと一緒だな。


冗談じゃない、よしてくれよ。


くくっ、やーだね。


理解できない。おかしいよ、君。


俺からしてみれば、お前も変わらないぜ。


何?


お前も、俺も、イカれてるってことだよ。




僕は、まともだ、イカれてなんか、ないよ。


そうかな?まあ、そう思いたいんなら思ってればいいさ。







はあ、はあ、はあ、


はあ、


はぁっ、はあ、







ねえ、君はなんで僕についてくるんだ?


何だよ、今さら。いい加減消えろってか。


違うよ、そうなったら嬉しいけれど。どうせそんな気は無いんだろう?


―まあ、な。


だったら尚更、理由が聞きたい。


理由、ねぇ。


無い、なんて、嘘だろ?なあ。


うーん。そう言われてもなア…。


どうしたの?


だーから、カッコ悪いだろ。


は?


男は黙って背中で語るもんだぜ。


君、男なの?背中どころか、君の姿を見たことないんだけど。そういえば、君どこにいるの?


あーあー、お喋りな野郎だぜ。てめえは黙ってその棒っ切れみたいな足を動かしてればいいんだよ。


…えー。


おら、ちゃっちゃと走れ。







はあ、はあ、はあ、はあ、







ねえ。


あ?


何だ、まだいたの。静かだから、どっか行ってくれたのかと思った。


はん、残念だったな。


うん、残念だよ。


少なくとも、お前が死ぬか、走るのをやめるまでは離れねぇぜ。


そうか、それじゃまだまだだ。






はあ、はあ、


はあ、はあ、はあ、はあ、



はあ、




お前、いつまでそうしてるんだ?


うん?


ずーっと、この灯りの無い道を、走るつもりか。


そうだね、足が在る限りは。


ふぅん。


どうかした?


お前、俺がいないと寂しくなるぜ。


え?


こんな道走る物好きはお前くらいだからな。俺がいなきゃ、お前は一人ぼっちだぞ。


…そうかなぁ。


そうだ。


僕みたいな物好きは、他にいないかな?


いねぇよ。こんな薄気味悪いとこ走りやがって。


そっか、それじゃあ独りだなぁ。


つまり、お前には俺だけってことだ。


―それ、告白?君男じゃなかったっけ?随分情熱的だね。


ふざけてんのか。


冗談だよ。


…お前も成長したな。まさかジョークを言うようになるとはな。


まあ、こんだけ君と付き合ってればね。ねぇ、


昔はからかいがいのある馬鹿な少年だったのになあ…何だ?


つまり、僕たち二人ぼっちなんだね。


あー…だな。


こんなに世界は広いのに、二人きりなんだ…


まあ、それでも独りなのは変わんないけどな。


なんで?


質問ばっかしてねえで、少しはその足りない頭で考えろよ。


君はもう少し話し方を勉強しなよ。





はあ、はあ、はあ、




はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、



はあ、



はあっ、




はあ。







随分来たんじゃねえの?


そうかな、そうかも。


どこまでいくんだ?


どこまでだろう。


まだ、わかんねぇの?


うん、わからない。


そうか。


走ってるうちに、見つかると思ったんだけど。


そうか。


全然わかんないや。ここはどこだろう?


そうか。


暗いんだ。


そうか。


君はここにいるの?


さあな。


僕は、じゃあ、君のところへいくよ。いきかたを教えてくれないか?


秘密、だ。


なんで?いいじゃないか。どうせアテなんてないんだよ。


うるせえ。


もういやなんだ!僕はいつまで走ればいい?いつまでこの暗い道にいればいい?いつまで独りでいればいいんだよ!!!


―。


なに?聞こえないよ。どこにいるんだ?


…、……。


おい、どこだ?またお得意のジョークかよ、なあ。


待って、置いていかないでくれ。


なあ、"僕"―。










暗い


暗い、ここは真っ暗なんだ。


寒くて、灯りなんて無い。


独りは厭だ。


ねぇ、待って。


足が疲れた、もう走れないよ。


焚き付けて、追いたててくれなきゃ、もう進めないんだ。


ねえ、寂しい、よ








日が沈むと、追いかけてくる影は姿を無くして、一人、ほんとに独りになった。


暗い、暗い、ここに、僕は一人だ。

もう痛くない、いたくないんだ。

こんなに辛くて、全然無くならない。

泣いても無いのに、哀しんだ。




ねえ、行き方を教えて。

君がいる、苦しいところに。

僕はすごく痛いのだけど、君が苦しいのなら、僕も耐えられる気がするんだ。


ねえ、いきかたを教えて。

独りじゃないって思いたいんだ。あの暗い道を辿るのは、僕だけじゃないって。そう思いたんだ。


苦しいんだ。


逃げても、走っても、無くならなかった。


追い付く前に、捕まってたんだ。


追ってたのは僕だったんだ。


ねぇ、苦しいんだ、苦しいんだ、だから、


ぼくに、僕に、ボクに、


生き方を、教えて。











だって、わからないんだ。

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