第一話 一号は優しい
彼はひどく優しく、仲間想いの兵士だったと誰かは言う。
灰歴一九五八年
ある大戦を終えた戦後、とある大国は他国との紛争・戦争時、宇宙からの侵略者への対抗手段として、軍部にて人体兵器・人外兵器の開発を行った。
そして、開発は成功した。現存は一号から一三号までが確認されていた。
陸軍中央支部情報管理部門第一資料保管室
「一号、二号管理官がお前のことを呼んでいる。二号の訓練に付き合ってほしいそうだ」
軍服を身に纏った三〇代の男性軍人は二〇代後半の男性に声を掛ける。
二〇代後半の男性は持っていた資料をパタンと静かに閉じる。資料を棚に戻すと声を掛けてきた三〇代の男性の方を向く。その顔は穏やかなものだった。
「中佐も一緒に行きますか」
彼の口から発された言葉はまるで散歩に誘うかのような言葉だった。上司に対しての言葉ではなかった。
「私は陸軍大将殿からお声が掛かったので先にそちらに行く。その後に合流する。一号だけでも問題はないだろう」
中佐と呼ばれた男性は自身が一号と呼んだ目の前の人物が顔を顰めたのを視認した。その理由も察した。だが、何も言わなかった。
「ええ、まあ、そうですが」
「なんだ、何かあるのか」
「問題はありませんが、大将に呼ばれたということは……」
一号の言葉に中佐は苦笑いを浮かべる。一号が部下だった時代から、彼は真意を、言葉の間を読み取ることが得意だった。それは今も変わらないなと、中佐は呆れた。
「お前の軍人としての立場について、だろうな」
「ですか」
「今はまだ、軍曹として軍人扱いされているが、いずれは軍人の身分を剥奪したいのだろうな。そうさせるつもりはないが」
人でありながら兵器、もしくは人ですらない兵器達が現場に出る場面は主に二種類。
他国との紛争・戦争時、宇宙(地球外)からの侵略への防衛・妨害の二種類だった。
だが、一号はその機会すら既に無かった。
「私が言うのもなんですが、中佐は強情ですね。九号の心の強さもあなた譲りだと分かります」
「あの愉快犯と似ているなんて言うな」
中佐の脳裏にニヤリと意地悪く笑う過去の部下の姿が浮かんだ。元部下であった人物だった。だが、中佐にとっては苦手な人種だった。そのため、彼は脳裏に浮かんだ人物の姿を、首を振って脳内から追い出した。
自分にその人物のことを思い出させた一号を軽く、睨み付ける。
一号が九号の後輩であり、彼に多大な影響を与えていることなど、分かっていた。だからこそ、余計に九号は中佐にとっては面倒な存在になっていた。
「分かりました。でも、本当にあなたは強情です。一号などと呼ばれている人間を兵器として扱わないのは」
「一応、扱っているつもりだが」
「表面上は、でしょう。一号などと私のことを呼んでいても、私に対しての話し方や接し方は以前とまったく変わっていませんよ」
一号の言葉に中佐は一つの溜息だけを吐く。だが、何も言葉を返さなかった。
しかし、一号はその沈黙が肯定の意であると察してた。だから、何も言わず、困ったように笑った。
二人はどうしようにもなく、似た者同士だった。
一号から三号までの人体・人外兵器は初期開発個体と呼ばれていた。現在、個体への負担・制御難易度の高さから現場での活動は非常に少ない状態となっている。
なお、三号については例外的に現場にて現役で活動を行っている。
「……中佐、ご無理はなさらないように」
「……お前にそれを言われる筋合いはないよ、軍曹」
自身の管理官である中佐から「軍曹」と呼ばれた一号は中佐の言葉に酷く顔を歪めた。
自分も中佐も手放せない、「軍曹」という階位に。
最初期個体、一号。もしくは陸一号。
それは陸軍にて人体兵器として登録された個体。素体は二〇代後半の軍人の男性。階級は軍曹。
彼は人体兵器化により、超人的な身体能力を手にした。容姿・言語能力・知能は素体元の人間のままとなっている。
一号素体の軍人は一号管理官の元部下で、九号素体の後輩にあたる。
一号素体は軍曹時代に軍部より人体兵器化を打診され、受任。彼が人体兵器化を受け入れたのは軍部の仲間を、国を守るためだった。
しかし、最初期個体であるが故に開発未発達段階での個体・慣れない状態維持・数多の現場への投入により身体への負担が甚大となった。そのため、これ以上の戦闘は不能と判断された。
一時は廃棄処分も検討されたが、一号管理官の要望等により廃棄処分は保留となった。
現在は軍曹時代の実績を活かすかたちで後方支援業務をメインとして行っている。
一号管理官は一号の元上司であり、現役軍人の三〇代の男性中佐が据えられている。一号管理官は一号の素体と九号の素体の元上司であり、優秀で人間性も優れた人物である。
彼は非常に優秀でありながら、後腐れを持ちやすい人間だったと誰かが言った。




