旅は、だいたい思った通りに進まない
王都を出て三日目。
「……野宿、慣れました?」
セラが焚き火を見ながら言った。
「慣れたくはない」
「ですよね」
即答だった。
「でも、文句言いながらちゃんと準備しますよね」
「生きる気はある」
「大事です」
フィンが笑う。
「完全に保護者目線じゃん」
「違います」
「今の“違います”弱い」
「……気のせいです」
マレーネは地面に座り、魔導書をぱらぱらめくっていた。
「ねえ、勇者くん」
「候補な」
「もう省略でいいと思う」
「雑だな」
「今さら」
セラが口を挟む。
「それ、本人に確認取ってください」
「取ったよ?」
「取ってません」
「今取った」
「……ずるいですね」
少し呆れた声。
でも、完全に拒否はしていなかった。
夜中。
彼は、また目を覚ました。
「……起きてます?」
隣でセラが小声で言った。
「起きてた」
「……嫌な夢?」
「まあ」
「“まあ”って言い方、重いです」
「ごめん」
少し間が空く。
「……怖いですか?」
「怖い」
正直に言うと、セラは一瞬驚いた。
「強そうなのに」
「強くない」
「知ってます」
ぴしっと。
「でも」
少し声が柔らぐ。
「逃げないですよね」
「逃げたら、君たち困る」
「それだけ?」
「……それだけじゃない」
「なら、いいです」
セラはそう言って、焚き火に薪をくべた。
翌日。
小さな村で、魔物討伐の依頼を受ける。
「レベル1で?」
村人が不安そうに言う。
「レベルは低いです」
セラが言った。
「でも」
ちらりと彼を見る。
「無茶はしません」
「保証する?」
「私が見張ります」
「重くない?」
「重いです」
即答。
でも、冗談っぽかった。
戦闘は順調だった。
「右!」
「了解!」
「今!」
「ちょっと待って、今は無理!」
「……今じゃなかった」
「そこ反省する!?」
フィンが笑う。
「指示、厳しいなあ」
「正確です」
セラが言う。
「言い方きついけど」
「……今後、気をつけます」
「そこは即直すんだ」
「はい」
完全に打ち解けていた。
戦闘後。
「ねえ」
セラが彼の横に来る。
「あなた、前に立たないですよね」
「立たない」
「怖いから?」
「……壊しそうだから」
「何を?」
「全部」
セラは少し黙った。
「……冗談、ですよね?」
「半分」
「半分かあ……」
ため息をつく。
「ほんと、変な勇者」
「今さら?」
「今さらです」
でも、口元は笑っていた。
その夜。
彼は空を見上げた。
胸の奥で、何かがざわつく。
遠く――
まだ描かれない存在が、こちらを見ている気がして。
気のせいだと、言い聞かせた。




