神殿は、思ったより現実的だった
神殿は、思ったより現実的だった
神殿の中は、静かだった。
「……もっと荘厳な感じを想像してました」
彼が小声で言うと、
「期待しすぎです」
セラが即答した。
「え、今のツッコミ?」
「事実です」
でも、口元は少し緩んでいる。
「名前を」
司祭が言った。
「ありません」
「……はい?」
「記憶喪失で」
「便利な言葉ですね」
横でセラが小さく頷く。
「事実です」
「はい……では、勇者候補」
「候補、なんですね」
「測定前ですから」
「ですよね」
話が淡々と進んでいく。
水晶の前に立たされる。
「緊張してます?」
セラが小声で聞いた。
「今さら」
「顔、こわいです」
「自覚はある」
「ありますね」
光が走る。
「……レベル1」
一瞬、空気が止まった。
「……ですよね」
セラがぽつりと言った。
「納得しちゃだめじゃない?」
「だって……」
視線が痛い。
「魔力反応、異常値」
別の司祭が声を上げた。
「異常?」
「強いんですか?」
「……深すぎて、測れません」
「測れない?」
セラが彼を見る。
「なにか、覚えてます?」
「……威圧する方法なら」
「聞かなかったことにします」
即答だった。
そこへ、一人の青年が割って入った。
「騒がしいですね」
軽い声。
「新しい勇者?」
「候補です」
「レベル1の?」
「聞こえてます」
青年は笑った。
「俺はフィン。剣士」
「よろしく……?」
「疑問形なんだ」
セラが口を挟む。
「彼、変なんです」
「失礼じゃない?」
「事実です」
フィンは面白そうに笑った。
「いいね。退屈しなさそう」
「褒められてる?」
「たぶん」
セラが頷いた。
「仲間を集めろ、だってさ」
フィンが言う。
「急ですね」
「いつもこんな感じ」
「慣れてるんだ」
「諦めてるとも言う」
セラがため息をついた。
「……大丈夫ですか?」
「何が?」
「その、勇者で」
彼は少し考えた。
「大丈夫じゃない」
「正直ですね」
「でも、やる」
セラは一瞬、黙ったあと――
「……それで、十分です」
声はまだ優しかった。




