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レベル1の勇者は、かつて魔王だった  作者: 臥亜


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1/12

目覚めは、静かすぎるくらいがちょうどいい

「……気がつきましたか?」


 控えめな声だった。


 彼はすぐには目を開けられなかった。


 体が重い。息を吸うだけで、少しだけ痛む。


「……はい」


 そう答えてから、ようやく瞼を持ち上げる。


 古い木造の天井。


 見知らぬ部屋。


 そして、ベッドの横に立つ少女。


「無理に起きなくて大丈夫です」


 少女は、少し距離を保ったまま言った。


「森の近くで倒れていたので……村まで運びました」


「……ありがとうございます」


「いえ」


 一瞬、沈黙。


 少女は困ったように視線を泳がせてから、意を決したように口を開く。


「お名前、聞いてもいいですか?」


「……それが」


 彼は、言葉を探した。


「思い出せません」


 少女は驚いた顔をしたが、大声は出さなかった。


「……記憶喪失、ですか?」


「多分」


「多分……」


 小さく息を吸ってから、少女は頷いた。


「わかりました。今は、それでいいです」


 責めるでも、疑うでもない声音だった。


 少し水を飲み、体を起こす。


「体調は?」


「正直に言うと……弱いです」


「……正直ですね」


 くすり、と小さく笑った。


「無理はしないでください。ここは静かな村ですから」


 その言葉通り、外は穏やかだった。


 ――その時までは。


「魔物だ!」


 外から声が上がる。


 少女の表情が引き締まった。


「ここにいてください」


「俺も……」


「駄目です」


 きっぱり言われた。


「今のあなたじゃ、危ない」


 否定ではなく、事実を告げる口調だった。


 けれど彼は、立ち上がった。


「……小さい」


「え?」


「魔物。たぶん、強くない」


 少女は一瞬迷ったあと、彼を見る。


「……見えたんですか?」


「いや、感覚です」


「感覚……」


 信用していいのか迷っている顔だったが、最終的に頷いた。


「離れないでください」


「約束します」


 結果は、彼の予想通りだった。


 石を投げ、音を立て、魔物を追い払うだけ。


 戦いとは呼べない、短い出来事。


 静けさが戻る。


「……終わりましたね」


 少女が、ほっと息をついた。


「怖くなかったですか?」


「怖かったです」


「即答……」


 その言葉に、また小さく笑った。


 この時点では、まだ柔らかい笑い方だった。


 夜。


「王都へ行ってほしい」


 村長の言葉に、彼は戸惑った。


「勇者候補、だそうです」


 少女が静かに補足する。


「……俺が?」


「測定では、レベル1でした」


「正直ですね」


「事実ですから」


 でも、声は少しだけ優しかった。


「名前がないままでは困りますね」


「……そうですね」


「仮でも、いいと思います」


 彼は少し考えた。


「そのうち、思い出します」


「ええ。そのうち」


 少女はそう言って、微笑んだ。


 その夜、彼は夢を見た。


 膝をつく誰か。


 恐怖に満ちた視線。


 そして、自分の声。


『――跪け』


 目を覚ますと、胸がざわついていた。


 まだ、何者でもない。


 勇者でも、魔王でもない。


 けれど――


 何かが、確実に始まっていた。

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