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16話

 結論から言うと、アシュキュード学園定期ダンジョン講習会に置いて、ラトリオ率いるパーティーは転送したフロアから脱出。成績的には失格の運びとなった。

 収穫したものは、転送されたフロアが自分の身の丈にあっていない過酷さを誇る地だということ。

 そして。

 テーブルに乗るのは、恐ろしいほどに美しく輝く、三叉に分かれる刃の塊だった。


 六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)が生命活動を停止した瞬間、その体表に亀裂が入り、ポロポロと石壁が剥がれ落ちるように、それは風に乗り砕け散っていった。

 凶化による身体能力向上に自身が耐えきれなくなり、身体は崩壊の一途を辿る。それは六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)だけでなく、全ての凶化した幻想獣(ヴィスオディア)に見られる特性だ。

 ただし、肌を構成する組織以外はその場に残る。すなわち、全てを切り裂く頭部の金属質の角だけは。

「いいか。この六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)を狩ったのは俺達だ」

 金髪の青年剣士、ジュレアは地面に転がる幻想獣(ヴィスオディア)の置き土産を指差し、必死のアピール。

 確かに止めを刺したのは、ジュレアの仲間の大男だ。

 首の切断された頭部が、身体と別れを告げている。その光景にラトリオたちは顔を青くさせているものの、決して目を逸らそうとはしていなかった。

 大剣を携えた男、ザンダルの一撃が、地面に角を沈めて動けなくなった六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)の首を容赦なく寸断した。

「ごめんね。リーダー、以前ダンジョン内で拾ったアイテムを巡ってトラブったことがあるから、道具の所有権に関しては敏感なんだ」

 眼鏡の少年、パントが苦笑する。

 ダンジョン内に残る道具を以前回収し、帰還したところでその道具の持ち主だったであろう連中と、ちょっとしたいざこざがあったらしい。

 その話が本当ならば、全面的に正しいのはジュレアたちだ。

 冒険者が残して去った道具を回収し、己の物にするのは何らおかしくはない。野盗行為を除けば、許されている事案だ。

 最初に開戦したのはヴァリアたちでも、止めを刺したのは彼らだ。角の所有権を主張するのも当然と言える。

「醜いわよ、リーダー。分けてあげればいいじゃない」

 そうフォローしてくれたのは、深い赤い髪を腰元までに伸ばした魔道士の女性だ。その名をレネと言った。

 彼女には世話になった。彼女の博学とも言える魔導が、あの混戦を打開する一手となったからだ。

 何よりヴァリアの命を繋いでくれたのは、チップと名乗った神官の少女だ。今もまだ完治していない傷痕に回復魔法を掛け続けてもらっている。

 深く強い傷を治すには、それに応じた時間をゆっくりを掛けて癒やすのが一番だと彼女は言う。

 即座に回復させて動かせるようにするのは、逆に身体に負荷を掛けるらしい。それは治療ではなく一時凌ぎに過ぎないことも

「くっ・・・」

 その言葉に、ジュレアは悔しそうな表情を崩さない。

 六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)の角は、加工すればその強度と攻撃力をそのままとする強靭な武器が生み出せる。そんなものは、パーティーにはいくらあってもいいからだ。2個とも欲しいのは当然だ。

 角は丁度一房づつ。分け合ってもいいとはジュレア以外のメンバーの総意だった。

 冒険者はフロアを横断し、時には魔物と戦い、手に入れた道具や素材を回収し、帰還した際にそれらを換金。必要な素材で自らの装備を整え、またダンジョンに赴く。

 手に入れた道具、鉱石や宝石。手に乗る程度の物や数ならば、カバンの中に詰め込めば事足りる。

 だが、それが手に抱えきれないくらいの量だったら?さらに言えば六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)のような、巨大な抜き身の刃を絡めたような物を鞄の中に詰め込むわけにはいかない。

「じゃ、そういうことでいいね。戦利品は二組で仲良く分け合うということで」

 そのほうが後腐れが無くていいと。

 パントは自分のカバンから何かを取り出す。紙を巻物のように丸めた物を手にし、それを広げる。

 六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)の角の片割れに紙を広げ近づけると。

 金属質の塊であるはずの角が、溶けるように形を歪ませ、広げた紙面へと吸い込まれる。

 その光景に驚いていたのは道具の効果を知らないラトリオたちだ。

紙箱(アルバム)』と呼ばれる道具だ。

 カバンに詰め込めない量の素材や、それこそ持ち帰るのに困難な物をその紙面の中に吸い込み、仕舞い留めておく道具だ。冒険者には必須と言えるマジックアイテムだ。

 ただし、仕舞うというよりも、紙の中に一時的に避難させている、という概念が正しい。

 回収できるのは無機物に限られ、食料、草、肉などは封じ込めた紙の中で腐る。そして、紙が燃える、破損すれば中身の道具や素材もダメになる。

「俺達も支給されているはずだぞ」

 ヴァリアの言葉にラトリオは自分のカバンから、小さく折りたたまれた紙片を見つけ、取り出す。

 それを広げたところで、ラトリオの動きが止まる。

「・・・いいのかな。俺達、何も出来ないでオロオロしていただけなのに」

 それなのに、ダンジョンでも栄誉とされる幻想獣(ヴィスオディア)の残した貴重な素材を手にすることをた躊躇っていた。

「この先冒険者を目指すなら、あって困ることはねえ。この俺がいいって言ってるんだから、黙って受け取っておけ」

 そんな言葉を掛けたのは、未練の残る口調のジュレアで。自分が仕留めたわけじゃないでしょ、とたしなめたのはレネだ。

「もらっておこう」

 ヴァリアに促され、ラトリオは広げた紙を角に近づけ。

 先ほどと同じく、形を留めることを辞めた角が、紙の中に吸い込まれた。

 今回の冒険に置いて、ヴァリアは何もやっていない。むしろ彼らを危険にさらしただけの、自分が受けた教えを何ひとつ行使出来ていなかった愚者だ。

 これはせめてもの土産。彼らのダンジョンに勇敢にも挑んだという自信になれば、それでいい。


 ジュレアのパーティーはそのまま次階へ向けての旅に出た。

 また、どこかで会える時を願って。という言葉を残して彼らは去って行った。

 転送の間を経て、始まりの門へと戻って来たヴァリオ達を出迎えたのは、彼らたちの親。ヴァリアたちのクラスメイトだ。

 無事に帰還したことに安堵、感情を溢れさせ、再会を喜んだ。

 マーズを始めとする始まりの門の警備役の騎士は、ヴァリアを追うためにダンジョン内に向かい、入れ違いとなった。それに関しては心配ないだろう。手間を掛けてしまったことは済まないと思っているが。

 ヴァリアの目の前にいるのは、鋭い目つきのプロギア。そこには涙で腫らした跡が見える。

 ヴァリアたちが本来の講習用階層を大きく外れた位置に転送されたのは、ここから追えていた。それなのに、いつまで経っても帰還の手を使わないヴァリアに怒りを覚えるのは至極当然だ。

 大事な生徒を、子供を危険に晒した。その怒りたるや、計り知れない。

「ええと、あの」

 ヴァリアは継ぐ言葉が思い浮かばない。

 あまつさえ、ヴァリアの腹部は傷こそ塞がったが、鎧ごと服が貫かれた痕がある。それが、無事ではない事態が起きていた証拠だ。

 まるで親の敵のように、プロギアの眼鏡越しの目がヴァリアに容赦なく突きつけられる。

 どんな罵倒か、手が出ることも覚悟した瞬間。

 ヴァリアの胸の中に柔らかくも、優しい温もりが触れた。

 それが、プロギアの頭だと気付いたのは次の瞬間で。

 カウンターの向こうのソーラが「うわおっ!」と、何故か赤面し、両手で顔を隠しつつもその指の隙間からその光景を覗き込むことをやめようとしない。

 ヴァリアのクラスメイトも、その意外な行動に動揺し、目を逸らす者も。

「あの、先生?」

「・・・言いましたよね。貴方も私の生徒なんですよ」

 思わぬ行動と、香るいい匂いの所在に戸惑うヴァリア。

 だがその戸惑いは、すぐプロギアを心配させてしまった行動故だと悟る。

「うわー!ずっと見ていたい光景だけど、マーズが帰ってきちゃうよおおおーーー!?」

 そんな中、ひとりテンションがおかしいソーラが、カウンターの向こうで頭を抱えながらも髪の毛を乱舞させていた。


 先行して帰還したラトリオ班、昼間部のパーティーに続くように、昼間部の生徒も続々と戻ってくる。

 講習用最深層に辿り着いたもの、諦めて帰還する者。

 ラトリオが敵視していた昼間部のパーティーは見事最深層へと辿り着き、踏破の証であるメダルを手にし戻ってきた。

 いざこざを起こしたリーダー格が、見せびらかすように黄金色に輝く金貨を携えて近づく。が、その手がメダルを取りこぼす。

 テーブルの上に乗っている六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)の三叉の刀角を目の当たりにしたからだ。

 リーダー格の少年は、それをどこぞで拾った落とし物と否定する。明らかにラトリオのキャリア、例え元騎士が居るとは言え、手に入らない代物だろうからだ。

 ヴァリアの腹部の傷と、その階層に残った六刀の鹿麟(ヘクサ・ディラフ)の残骸を発見したマーズの証言により、その刀角が本物であると証明され、昼間部のパーティーは捨て台詞を吐くことも忘れ立ち去っていった。

 試合には負けたが、勝負には勝った、と言ったところだろうか。

 ヴァリアはひとまず安堵し、息を吐く。

 この冒険に携わり分かったことは、元騎士とは言え、その地位から引いたことにより、自身の力は容赦なく衰えたということ。

 そして。

 胸の中に沸き起こる、置いてきたはずの冒険心だった。


 夜間部がダンジョン講習に参加したことによる効果は思ったよりあったらしい。

 アシュキュードの理事部が重い腰を上げ、夜間部に昼間と同じ行事、イベント事に参加する権利を与えてはどうかというものだった。

 未来を担う人材を育成するという意味では、昼だろうが夜だろうが関係がないからだ。

 それによりとばっちりを受けているのはヴァリアだ。帰ってきた答案用紙をみて、ヴァリアはそんなことを思う。

 腹部の傷は完全に塞がり、勉学に勤しもうとしていた矢先だ。

 答案には丸の数より斜め十字の方が多い。そして、誤字脱字をこれみよがしに訂正した跡。プロギアの静かな怒りがまだ尾を引いているのか。

 ラトリオたちは味を占めて、次回のダンジョン講習に挑もうという気概が見えるのも機嫌を傾けるのに一役買っているのだろう。プロギアの辞めさせようとする、参加してほしくない意思に反し、さらにその闘志に火を付ける事態になったからだ。

 今度は真っ当に正面から。授業もそぞろで次の冒険を考える始末。

「今度は負けねえ」と、その言葉は既に次の冒険の算段を付けている。

 それの原因になったヴァリアへのプロギアの風当たりは、強い。

 ラトリオも、さも当たり前のようにヴァリアの帯同を希望しているのだが・・・。

 夜間部への参加が緩和されたのなら、本物の騎士に頼めばいい。それこそマーズ辺りなんかは安全安心だと思うが。

 そんなことを思いながら、ヴァリアは決していいとは言えない成績を補填するため、補習用プリントに拙い文字で埋めていくのであった。

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