不穏な手紙と真実 春編
僕は優夜。今日も朝からポストの中を見に行く。中には手紙が入っていた。
宛先は春君へだ。他にも夏君、秋君、千冬君宛のものもある。
不穏な気配を感じながらも四季兄弟に渡しに行く。渡し終わり帰る時に…
後悔した。あれが危険な物かもしれないのにと思ったのだ。
だが、今更どうする事もできない。彼らを見張るしかないのか…。
僕は不穏な空気に少しひるみながらも、彼らを信じる事にした。
だって、きっとこの手紙は、四季兄弟への試練なのだから。
僕は春。手紙を読んでみると真実を知りたければここに来いという文と、
自分のチーム(三人組)を作れ、ただし四季兄弟は入れてはいけない。
というものだった。夏達も同じような手紙が送られてきたようだ。
僕は思う。きっとこれは両親達についての真実を教えると言っているのだ。
でも…どうして三人組を作って行くのだろうか?何か他にもあるのだろうか。
というか三人組を作るからには僕の過去について言った方がいいよな…?
なら、まず言った事のある颯斗ともう一人は颯斗に決めてもらおう。
そう思い声をかけにいくと颯斗はすぐにOKしてくれた。
そしてもう一人は選んでほしいと言うとちょっと困った顔をして、
「ちょっと考えとく」と言った。まぁ確かに行くのは明後日だし問題ない。
きっと颯斗と居れば大丈夫だ。その時「あの、春君」と声をかけられる。
振り向くと優衣ちゃんが居た。「どうかした?」と聞くと「あたしもその三人組に
入れてくれない?」と言われる。颯斗は探すの困っていたみたいだしもう一度
呼んで優衣ちゃんでいいか聞いて優衣ちゃんが入る事に決まった。
そして、夏のチームは輝一と仁。秋のチームは心音と祐隆。千冬のチームは、
朱莉と恵人だ。優夜さんと凪さんは留守番なのだ。そして僕達は準備を始める。
荷物には非常用の物をたくさん入れて、置いた。それから大事なものは、
屋敷に置いて行く。そして、僕達は向かった。着くとそこは大きな一軒家だった。
中に入ると、不思議な部屋が広がっていた。そこに穏やかな人が現れた。
そして、「春君、よく来たね」と言った。茫然と立ち尽くす。
彼は、昔よく家に来ていた親戚だったのだから。えっ?と思っていると
「そんなに怖がるなよ。久しぶりに何か話そうよ」と言われる。
違う。どうしてこの人がしっているのだ?夜桜屋敷に僕が居る事を。
そこからがまず問題なのだ。あぁ僕はなんてバカなのだ。
優夜さんは気づいていたのだろうか?これが僕への挑戦状だって…。
黙る俺に彼は「そっか、春君は僕の事、嫌いなんだね」と言った。
とっさに「違います」と言えた。すると彼は「…相変わらずだね」と言い
「僕は、春君に家に来て欲しいと思っているんだ」と言い放った。
は?と思っているとふと夏が「あなた誰でしたっけ」と言う。
すると彼は「自己紹介がまだだったね。僕は君達の父親の弟の、四季 星二郎
(しき せいじろう)だよ」と言った。春チームは星二郎さんに着いて行く。
そして、ある部屋に招かれる。どんな試練だって乗り越えてみせるのだ。
そう決意して中に入ってみるとそこにはただの優しさに満ちた世界が、
広がっていた。これも作戦なのだろうかと考えてしまう。
僕はただ黙り続けてしまう。だって星二郎さんは親が変わってから来なくなった。
僕達を見捨てたじゃないか…!わかっている。彼に責任なんてない事くらい。
けれども宛先のみつからないこの怒りをどこにぶつけるというのだろう?
というかなんで僕だけ家に行かなきゃならないのだよ。お前の子じゃないのに。
そう思った僕に星二郎さんは「いきなり無理難題言っているというのは、
重々承知だ。でも…僕は君に幸せになって欲しいのだ。もう辛い想いはさせない。
重荷も捨ててしまえばいい。だから、来ないか?僕の家に」と言う。
そりゃ…本当は行きたい。彼との思い出が蘇る。優しくいつも話しかけてくれた。
字が書けるようになって嬉しかった時も親は見向きもしずにたばこやお酒を
飲んだり吸ったりしていた。でも、星二郎さんは優しく笑いかけてくれて…
「よくがんばったね。春君の字はとても優しさに溢れている」と言ってくれた。
彼から溢れんばかりの優しさを感じたのを今もはっきりと覚えている。
公園に行きたいと弟が駄々をこねて僕が困っていた時も星二郎さんが、
「それじゃあ僕が連れて行ってあげるよ」と笑って引き受けてくれた。
それから、あの時もそうだった。あれは、僕の初めての運動会の事だ。
親が来てくれないと知って泣いた僕に星二郎さんが「僕が行くからさ。
泣かないでくれない?春君」と言ってくれたっけ。たくさんわがままも言った。
それなのに星二郎さんは嫌な顔一つせず優しく受け止めてくれた。
父よりも一回り年下でまだ二十代前半だったくせに…。大事な時期なのに。
僕達なんかの為に毎日仕事が終われば来てくれた。彼は本当に素敵だった。
僕が、初めて信じた人。心の底から尊敬した人。大好きな人。
そうだ…親はもともと優しくなくて星二郎さんは優しかったんだ。
だから…僕にとって星二郎さんは特別で大切で憧れの人だったのだ。
でも、ならどうして僕達を見捨てた?違う…!本当は分かっているのだ。
彼が見捨てる気がなかった事も。ただ出張で海外に行っていた事も。
本当はもうとっくに知っているのだ。親が変だって事も優しい時なんて、
なかった事も…違う。それは違う。あの日の父の笑顔を思い出す。
あれは、まだ秋や千冬が生まれたばかりの頃。「春は本当に優しいな。
星二郎にそっくりだよ」と言われたっけ…。母も笑って「将来きっと、
この子は強くなるわね。でも…その過程でたくさん傷つくのじゃない?
星二郎君だって引き籠っていた時代があるでしょ?」と言っていたっけ。
あの頃は毎日が本当に穏やかで素敵だったな。いつからだろう?
彼らが自分達の親じゃなくなってしまったように感じたのは…。
上手く思い出せない。僕が頭を抱え込んでいると「家に来なよ」とまた星二郎さんに言われる。でも…頷けない。星二郎さんの事は大好きだけどダメなのだ。
ここで逃げてはダメなのだ。親を、殺してまで守ろうとしたものから今更逃げる事なんてきっと許されないよ。僕が許さない。だから、僕やっぱり頑張って生きる事しか僕の幸せはきっと見いだせないのだ。星二郎さんの事は好きだけど、
僕には大切な弟が居るから。それを守り切った時きっと解放されるから。
弟達が幸せだよと心から笑いかけてくれるその日を待って生きるのだ。
それに、僕には颯斗君もいる。そっと隣を見ると笑いかけてくれた。
不器用だけど優しい笑みだった。優衣ちゃんを見るとはにかんだ笑顔を見せて
くれる。その顔から大丈夫ですよっていう言葉が伝わって来る。
僕が心を薄々読める事に気づいたのは星二郎さんが初めてだった。
今、彼らの気持ちが分かるのはきっと彼らの事を信じているから。
それならばきっともう大丈夫なのだ。星二郎さんがいなくても僕は生きられる。
「星二郎さんの事は尊敬しているし、大好きです。だけど、僕には守るべき者が、
居ます。支え合って生きていける弟達が居ます。だから、ごめんなさい。
星二郎さんの家には行けません。行きたいけれど行ってはならないんです」と言うと彼は優しく微笑み、僕の頭をそっと撫でてくれた。そして、「合格だよ」と言い
「春君はもう家を出なさい。君の選んだ友達と一緒に〝帰りなさい〟」と言った。
彼は行きなさいではなく〝帰りなさい〟と言った。それが、何を意味しているか
くらい分かる。もう僕にとって夜桜屋敷は、正式な帰る場所になったのだ。
颯斗と優衣は必要なかったではないかと思いかけふと気づいた。そうか、
もしも僕が迷った時の為に彼らが傍に居たのかと。ありがとう。星二郎さん。
僕の事を、僕ら四季兄弟の事をいつも心配してくれていたんだね。
きっと彼は最近出張から帰って来たのだろう。家の中を見れば一目瞭然だった。
きっと帰って来てすぐ僕らを探したのだろう。そして警察とかに行って、
夜桜屋敷の施設に預けられているって知ったんだろうな。そして、準備したのだ。
僕らに試練を与える。本当にお人好しだな、星二郎さんは昔と変わっていない。
変わらないで居てくれた。僕にはそれで十分だった。また、いつか行こう。
優しく、明るく、穏やかに迎え入れてくれる星二郎さんの家に。
今度は遊びに行こう。大好きな星二郎さんの家に。彼が伝えてくれた真実は――