過去を背負って生きていく
僕の名前は春。この世界は醜いと思う。僕だってそうさ。
僕は人殺しだ。あの日、両親をこの手で刺殺した。そうするしかなかった。
弟達を守る為に、僕は長男だから。あの時、夏が刺されそうになったのを見たら
勝手に手が動いていた。自分でもただの言い訳だって分かっている。
刺された時、痛かった。今でも傷跡が肩に残っている…。夏が無事でよかった。
秋も千冬も無傷で良かった。だがそう思えない。僕は、人の心が薄っすらわかる。
まだ、皆の心の傷が癒えていない。きっと一生癒えないのだ。
僕達四季兄弟は過去を背負って生きていくしかないのだろうな。
今日も穏やかに微笑んで生きていく。温かい人を演じて。
颯斗君にはとても感謝しているよ。こんな人殺しを素敵な屋敷にいれてくれて…。
僕は何も信じていない。皆の様に恋愛とか友情とかそんな青春はない。
僕の青春は醜くてどうしても消えない過去を背負っていくだけだ。
そして、大切な弟達を幸せにするのだ。そうしたら僕も楽になれるかな。
そんな事ばかり考えていたら颯斗君に声をかけられた。
「あの、春さん。よかったら俺の話、聞いてください」と言われる。
僕は笑って「いいよ」と言う。そして颯斗君は自分の過去について話してくれた。
どうして僕に言うのと聞くと「俺は、あなたと同じで人殺しだから」と言った。
えっ?と思っていると「今、話した事には続きがあるのです。
家族と穂乃花の仇を、復讐をしに敵の陣地にいきました。そこで俺は・・・
たくさんの兵を殺した。大将の首もとりました」と言った。あぁそうか。
いつも僕は思っていた。颯斗君は何故か親近感がわくなと…。
それにはこれがあったのか。僕は思い出す。颯斗君と出会った日の事を――
「あの、大丈夫ですか?」と聞かれ刺されていた僕は首を振った。
そうしたら彼は優しく止血してくれた。そして、「よかったら屋敷に来ませんか?」と聞いてくれた。それに対して僕は「弟達をお願いします」と言った。
それに対して颯斗君は「あなたは?」と聞いた。だから「僕は人殺しだから」と
言うと「なら、尚更来てください」と言ったけ。意味不明だったな。
でも、今なら分かる。彼は僕の気持ちがきっと痛いほどわかったのだ。
かつて自分がそうだったように。どうして気づかなかったのだろう。
心が薄っすら読めるくせに。これではただの宝の持ち腐れではないか。
いや、違う。僕はあの日からきっと正常じゃなかったから心が読めなかったのだ。
僕がどうやったら心を読めるのかなんて正直気づいている。
それは、相手の事を大切に思って初めて読めるものだった。
だから弟達の気持ちにはいつも敏感だったのではないか。
その時、颯斗君がそっと僕の手に触れて包み込んでくれる。
えっ?と思っていると「俺ってさ、口下手だし疑心暗鬼だから上手く言えないけど
大丈夫だよ。俺は春さんの事、好きだし信じている。無理に笑わなくてもいいよ。
無理に笑いたいなら笑っていいよ。強がりたい気持ちも分かるからさ。
自分勝手になるのってとても難しい事だと思うけど、俺の前では好き勝手して。
俺も、春さんの前では好き勝手してみるから!だから…一緒に過去も何もかも
背負って生きていきましょう!そして、いつか楽になれる日を待とう」と言った。
颯斗君は、なんて優しいのだろう。手に触れていると痛いほど彼の傷と心配と
優しさで溢れている。久しぶりだな。弟以外の人の心に触れたのは。
とても懐かしくて涙が零れていく。両親だって昔は良い人だったのだ。
優しさに溢れた人達だった。だけど変わってしまう。あの時、彼らの本心に
寄り添えない程弱かった自分を許してくれ。でも…今は大丈夫な気がする。
颯斗君が過去を一緒に背負って生きていこうと言ってくれたから。
きっと僕はずっと誰かにそう言ってほしかったのだ。
颯斗君、本当にありがとう。僕は君に体も、心も、助けてもらったよ。
あの日、血が苦手なのに必死に止血してくれたのも今更気づいた。
繊細な彼の心に触れているとちょっと不安だけど温かい気持ちになる。
まるで夜の桜に触れている様な気持ちだ。暗くて寂しいのに桜は綺麗に輝く。
静けさをもって。今、颯斗君の心は枯れているけれどいつかまた咲くはずだ。
その為の蕾を僕は作ってあげたい。彼を支える事が僕のできる事のはずだから。
それに…颯斗君は僕の話を聞いていた時本当に真剣に聞いてくれた。
変な愛想笑いなんてせずに真剣な眼差しを向けてくれていた。
それが、どれだけ嬉しかったのか説明できないけどさ。
それとさ、恋愛とか友情とかのない青春を僕は生きていくとか言ったけど
前言撤回だ。だって颯斗君がいるから、一緒に消えない暗くて時に温かい思い出をもった過去を背負っていける者がいるではないか。〝友〟なのか〝仲間〟なのか
〝家族〟なのかそんな事説明できないけれど〝特別な人〟だ。同じ境遇の人間だ。同じだからって分かり合えているわけではないが…。だっていくら同じ境遇でも、傷の深さも想いも違うから。人は自分とは違うのだ。そんなの当たり前の事と
思いつつ忘れている事が多い。分かって欲しくてなんで分かって貰えないのか
分からなくてすれ違う。それでいいのだ。そこから学んでいくのが人なのだから。
そろそろ僕もまた歩き始めなきゃいけないようだな。〝颯斗〟が背中を押してくれたから。こんな僕も幸せになりたいと思えた。やっとだよ。僕は十五歳になって
やっとスタートラインに立てたのだと思う。今からもう一度少しずつ歩いて行く。