表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

居場所はすぐそこに

あたしは優衣。いつも一人で孤独だった。


そんな自分を救ってくれたのは朱莉ちゃんだった。


自分が屋敷に来た時に居たのは恵人君と朱莉ちゃんだった。


それと当たり前だけど颯斗君と優夜さんだ。


あの太陽のような世界にいきなり入って正直馴染めないと思っていた。


だけど…それは全然違うかった。朱莉ちゃんは笑顔で話しかけてくれた。


その時彼女は十一歳だった。今と比べたらちょっと影が多かった。


月みたいな人だった。だからきっと朱莉ちゃんにも暗い過去があったのだろう。


自分は・・・あの日々を忘れるわけがない。


母親は事故に遭い亡くなってしまった。父親と暮らすようになるが暴力を振るわれ


逃げた。そんな時に助けてくれたのは颯斗君だった。


雨でずぶ濡れになりながら走っている自分に声をかけてくれた。


優しい声の裏に凄く陰のある人だった。何もかを諦めた人の目だった。


だけど…優しかった。今まで見てきた人の中で一番優しかったのだ。


きっと彼はとても繊細な心を持っていてだから優しくて、


でも…何か辛い経験をして塞ぎ込んでいるのだろうな。


あたしは実は颯斗君が好きなのだ。あの日、自分を救ってくれたからだ。


でも、自分は髪は短いし可愛くない。だからもうとっくに諦めている。


颯斗君が優しくしてくれたあの日がある限りもういいのだ。


それで十分なのだと自分に言い聞かせる。本当はもっと傍に居たいけど…。


颯斗君の部屋の前に気づくと今日も居た。バカみたい。ここで突っ立っていても、話せないの分かっているのに。その時だった。ドアが開く。


驚いて立ち止まっていると「優衣さん?」と颯斗君が話しかけてくれる。


だけど…きっと不審に思われているのだろう。


そう思うと悲しくなる。あたしは慌てて「えっと…ごめんなさい」と言って去る。


あたしの馬鹿。あれってチャンスだったのに無下にしてしまった。


こんなだから…颯斗君にも、誰にも振り向いてもらえないのだ。


気付くと涙が零れていた。別に悲しくなんてないのにな。


一人で歩いているとふと颯斗君が優夜さんと何か話していた。


聞き耳を立ててしまう。「颯斗君って好きな人とかいるの?」と優夜さんが聞く。


颯斗君は「いましたよ」と言った。過去形って事は…。と思っていると彼は淡々と話し始めた。「彼女の名は穂乃花ほのか本当に優しくて穏やかな子でした。


髪は栗色で短くて、とても可愛かった。危険だって言っても俺の屋敷にいた。


俺の傍に居たいと言ってくれた。その内に敵軍が現れて家族全員皆殺しにされた。


穂乃花も見つかり殺された。だから…俺は生き残れた。敵は家族の人数しか


知らなかった。だから俺の存在も忘れさられたまま帰って行った。


一人で居るうちに孤独も薄れていってもう全部どうでもよくなった。


その後しばらくして優夜君が来てくれましたよね。あなたも穏やかで優しかった。


そして栗色の髪だった瞳が緑なのもあいつと同じだった。だからあの時、


幻覚でも見ているのかもと思いましたよ」と言った。・・・好きな人の話から


こんな暗い雰囲気になるなんて。颯斗君はいったいどれだけ傷ついたのだろう。


っていうか颯斗君って短い髪が好きなのかな?あっでも、あたし栗毛じゃない。


亜麻色だ。瞳は青だし。全然違うよね。心音ちゃんは栗色の髪と瞳だ。


心音ちゃんは優しくて穏やかで髪もセミロングで可愛いよね。


浴衣姿はとても似合っていた。淡いピンクの桜模様に黄緑色の帯。


本当に素敵だった。朱莉ちゃん、だってそうだ。淡い黄色の向日葵柄に青色の帯。


それに比べたらあたしは全然ダメだと思う。淡い水色の紫陽花柄に紫色の帯。


地味だよね…。でも、颯斗君はあの日、初めてあの浴衣を着た時似合っていると


言ってくれた。本当に嬉しかったな。だから、この浴衣が正直好きなの。


でも…皆の方がカッコ良いし可愛い。颯斗君の浴衣なんて本当にカッコ良かった。


黒色に紺色の帯というシンプルなものだけど本当に似合っていた。


って何浴衣の話ばかりあたしったらしているのだろうか。


もう一度耳を澄ますと優夜さんは今度は自分の話を始める。


「僕は好きな人とかできた事ないのだよね。告白なら何回もされた事あるけど…。


でもほとんど同じ人なのだよ。その子、ちっとも諦めてくれないのだよ。後、


可愛いと思う子ならいるよ。心音ちゃん可愛いよね。見ていて飽きない」と言う。


ミテテアキナイその言葉はあたしの怒りに触れた。だってそれではものみたいだ。


心音ちゃんは確かに可愛くて羨ましいけれどそんなふうに言われるのはおかしい。


そして、何よりもそれを言ったのが優夜さんだった事がとても傷ついた。


彼は、皆のヒーローなのにどうしてという思いが溢れてしまうのだ。


あたしはその場を立ち去ろうと走り出す。その時、誰かにぶつかってしまう。


慌てて「ごめんなさい」と言うとぶつかった人は笑って「大丈夫だって。


そんなに怖がらなくても」と言ってくれる。驚き顔を上げると目の前に居たのは


夏君だった。四季兄弟の次男なくせに一番子供っぽくてうるさい人だ。


あたしが立ち去ろうとすると「ちょっと待って。せっかく会ったのだし何か


話そうぜ」と言われる。強引な人だなと思いつつ「いいけど」と答える。


あたしは「それじゃどこで話すの」と聞くと彼は「俺の部屋とか?」と言う。


会ったばかりなのにと驚いている間に彼は歩き出す。自由な奴だ…。


だけどそれはあたしにとって居心地の良い事だった。


気をつかわなくてもいいのだから。それはめったにない事だから正直嬉しかった。


なんだかんだで朱莉ちゃんの傍にいるのも彼女が自分勝手だからだ。


だから無理な事は無理と言って逃げられる。そういう関係が好きなのだ。


あたしはそういう距離感が心地いいのだ。無駄に気をつかいたくないからさ。


だけど…それが居場所なのかはいまだに分からない。


自分にとっての居場所ってなんなのだろうかという悩みに陥るが今は大丈夫。


だって夏君と話すのだから。彼があたしに声をかけてくれたのだ。


恋といえるかわからないような憧れから生まれた好きはもういい。


そんなもの捨ててしまおう。今ある幸せを大切にいきていけばいいではないか。


夏君が「優衣は好きな食べ物とかあるん?」と聞いてくる。


凄く単純な質問に笑ってしまいながら「あるよ。パスタ」と言った。


夏君は「へー!パスタってなんかおしゃれだな。俺はハンバーグ」と言った。


子供っぽい回答に笑ってしまう。そうしたら夏君も笑ってくれる。


〝居場所〟それは案外近くにあるのだろう。だって今、そこにあるのだから。


朱莉ちゃんや恵人君達だってあたしの大切な居場所の一つだ。


そして、きっと夏君もあたしの大切な居場所に気づけばなっているのだろう。


そもそもこの屋敷こそがあたしの居場所なのだ。颯斗君が見つけてくれたから


あたしはここにいる。それは奇跡といえば素敵な事だけどきっと偶然だ。


でも、その偶然こそがあたしのかけがえのない日々なのだろう。


そう考えると人生って本当に不思議だ。あれだけ傷ついたのにもう痛くない。


彼らの優しさで気づけば深い傷はほとんど癒えていた。心も体も。


颯斗君、あなたはあたしの初恋です。でも…叶わないと分かっている。


だから、封印します。この想いを思い出のまま綺麗にね。


颯斗君に出会えて幸せだよ。本当にありがとう。あたしを生かしてくれて。


これからはもうあなたの事は引きずらない。夏君が不思議そうな顔で見ている。


あたしは笑って「そういえば夏君っていつここに来たっけ」と言うと


「俺達四季兄弟は仁たちの後だぜ」と言った。そして、「そういえば優衣って


過去に何があったんだ?」と聞いてくる。無神経な奴。と思いつつ話す。


すると彼は「そっかー。俺も大変だったな。だけど俺は兄弟が居たから一人じゃ


なかったしいつも春が守ってくれていたぜ。両親が頭おかしくなってさ…。


春はずっと俺達を守ってくれていたのだ。それである日、両親が刃物を持っていてさすがに俺怖くて逃げようとした所が見つかって刺されそうになった時に…春がさ割り込んできて刺された。いつも春って穏やかなのだけどあの時は別人だった。


両親から凶器を奪い取って刺殺した。春は俺達の為に人殺しになった」と言う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ