守りたいものがあるかぎり
俺は恵人だ。救われたとか救われないとかはどうでもよかった。
大切な幼馴染を守る為に俺は生きているのだから。
だから、もしもあいつを泣かせたらそいつを許さない。
それはあいつの両親でもあるし友達でもある。
俺達の住んでいる街はとても危ない場所だった。
治安は悪いし地震は起きるし大雨が降るし土砂崩れが起きるから。
あいつの唯一の友達が土砂崩れからあいつを助けて亡くなった。
あいつが土砂に飲まれそうな所に居るのに気づいて突き飛ばした。
小規模な土砂だったらしい。友達は土砂に飲まれながらこう言ったらしい。
「朱莉を助けられてよかった」
あいつは悲しみと突き飛ばされた痛みで動けなくなっていた。
そこに更なる災害が重なる。それは洪水だった。川が氾濫していた。
そこで母親と父親が力を合わせてあいつだけでもと朱莉だけ投げ飛ばした。
川の外へ。そこで力尽きてしまったらしい。その後朱莉は散々泣いたらしい。
俺はもともと父親と二人で暮らしていたが地震で一階が潰れて、失った。
俺と朱莉はあの時、十歳だった。颯斗は十一だった。たった一歳の差だった。
なのにどうして彼はあんなにも大人びていたのだろうか?
颯斗はとても不思議な奴だった。ずっと何かに怯えているように見えた。
誰も寄せ付けないような瞳をしていた。それはまるで全てを諦めた瞳だった。
何にも期待していないようだった。颯斗の過去に何があったのだろうか?
俺はそんな事を聞けるような奴じゃない。というか話が脱線している。
とにかく俺はあの日家族を失いただ一人幼馴染を探していた。
あいつは家で一人泣きわめいていたな。川でお父さんが、お母さんが、
友達のあいつがと泣いていた。見ているこっちまで苦しくなったけ。
そして、俺はあの日、自分は生涯この子を大切にすると誓った。
彼女が、あまりにも可哀そうだったからだ。
三人もの人に守られて、目の前で亡くなられて一人泣いていた朱莉が。
朱莉を守る為なら自分という存在が消えてもいいと思ったくらいだ。
だけど…それは絶対にしない。だってそれは朱莉を傷つける事だから。
彼女は最近明るい。昔はあんなにも気弱で暗かったのに…。
この屋敷に来て明るくなった。そして、あの一件があってからもっと。
この気持ちが何なのかくらい鈍い俺でも分かる。俺は朱莉が好きなのだ。
守りたいものがあるかぎり俺は生きようと思う。死ねないのだ。