転入生は方向音痴
私は心音。今日から夜桜屋敷に住む事になったの。
兄と一緒に来たのだ。兄の名は凪。
この屋敷は少し変わった子達がいるらしい。まぁこの世は皆変わっているけどね。
私は屋敷の中に入る。これからどんな生活が待ち受けているのか?
上手くなじめるといいのだけれど…。そしてドアノブを回して開ける。
部屋に入ると十人くらいの子供達がいただけだった。ほっとした。
これならすぐ名前もすぐ覚えられるはずだから。そしてまず自分の紹介をする。
「心音です。今日から兄の凪と一緒にここに住む事になりました。歳は十三です。
早く皆さんと仲良くしたいと思っています。よろしくね!」と言った。
次に兄が「さっき心音が言っていた様に凪っていいます。歳は十五です。
急な事ですが皆で仲良く暮らしていきたいなって思っています!」と言った。
皆「転校生だ!やったー!」とはしゃいでいる。先生みたいな人がやって来る。
「僕はこの屋敷の管理者の優夜だよ。これからよろしくね」と言う。
優しい微笑みが素敵な男性だ。でも…何かが引っかかる。優夜って…。
「あっ!」と思わず叫んでしまう。優夜さんが「どうかした?」と聞く。
私は口をパクパクしながら「つ、月の国の王様になったんですよね?」と言う。
彼はにこやかに頷く。間違いない。これは有名な十六歳の王様だ!
まさかこんな間近で会う事ができるなんて。優夜さんのお父さんは亡くなった。
この前の戦いで。その戦いでなんとか勝ったのが優夜さん達だ。
確か五人の少年少女だったかな。とにかく超有名人。なのにどうして…。
この屋敷に住んでいるの⁉ただで親のいない子供を預かる場所!
しかも創立者って…。噂では聞いていたけれど本当にお人好しなのね。
彼のお人好しはあの戦いで凄く何度も不利な事になっていたと聞いたっけ…。
っていうかまだ十六歳なのにどうしてこんな事しているのかしら?
優夜さんは相変わらず穏やかに微笑したまま「それじゃあ皆も自己紹介して」と
子供達に向かって言う。彼らは「はーい」と言って話し出す。
優夜さんが「それじゃあ最初は四季兄弟達から言ってもらおうか」と言った。
すると穏やかで優しい瞳と微笑みを浮かべた青年が口を開いた。
「僕は長男の春だよ。歳は十五。優夜さんの一個下だよ」と言う。
次に爽快な太陽の様な笑顔を持つ青年が「俺は次男の夏だぜ!
よく子供っぽいって言われるけどもう十四だっつーの!よろしく」と言った。
次に涼しい顔をして微笑む青年が口を開いた。
「僕は三男の秋。好きに呼んでくれたらいいから。
年齢は十三。ちなみに僕は千冬とは双子だ」と言った。
最後に無表情で鋭い瞳を持つ、多分千冬君が口を開く。「千冬」と一言。
その場が今は春なのに冬の様に冷えたような気がするのは気のせい?
そして四人の兄弟の自己紹介が終わり、優夜さんが「それじゃあ次は、
そこの仲良し三人組で」と言った。すると明るそうな少女が口を開く。
「私の名前は朱莉。趣味は写真を撮る事でーす。よろしくね」と言う。
次にクールそうな背の高い青年が口を開いた。
「俺は恵人だ。趣味はサッカーで年齢は十三だ」と言った。
最後に背の低い根暗そうな女子が口を開いた。
「優衣です。本を読むのが好きです。後ネットも。朱莉ちゃんと恵人君と
同じで十三歳です。これからよろしくお願いします」と言った。
優夜さんが「それじゃあ次はそこの二兄弟どうぞ」と言った。
またクールな男子が居て「仁だ。十五歳だ」と言った。
次に背の低い子供が「僕は仁の弟の輝一だ。よろしくな」と言った。
優夜さんが「最後はそこの美少年!」と言って隅に座っている人を指名した。
彼は否定も肯定もせずスラっと立つ。背も高い。黒髪美少年だった。
っていうか少年じゃなくて青年って言う方がしっくりくるくらい大人びている。
彼が口を開く「僕は祐隆です。基本一人でいますが気にしないで
ください。趣味は読書やランニングです。よろしくお願いします」と言った。
皆の自己紹介が終わると優夜さんは「それじゃあ自由にどうぞ」と言った。
私は祐隆君に近づく。そして「こんにちは。祐隆君」と言うと
「こんにちは心音さん」と返してくれた。彼は「どうかした?」と聞いて来る。
私は笑って「建物の事とか全然分からないから教えてほしくて」と言う。
祐隆君は「分かった。行きたい所とかある?」と聞かれる。
私は「使って良いならキッチンとか」と言う。彼は微笑み「いいよ」と言った。
優しい人だなと思った。キッチンに行くと優夜さんが居た。
びっくりして固まっていると「あっ心音ちゃん。キッチン使うの?」と聞かれる。
頷くと「そうなの!頑張って」と言って去って行った。
料理は趣味だから頑張ってと言われるほどではないのだが…。
私が料理を作る前に「祐隆君は何が好き?」と聞く。
彼は相変わらず微笑んだまま「実は甘いものが好きなんだよね」と言う。
私は「じゃあホットケーキ好き?」と聞くと頷いてくれた。
だから私はすぐに出来るホットケーキを作る事にした。
彼はずっと横に居てくれている。ちょっとドキドキするけど…。
言っとくけど恋愛感情なんてちっともないのだからね!
混ぜる時に疲れたなと少し思った時、彼が手伝ってくれた。
そういえば彼って何歳なのかな。感じ方からして十六歳くらい?
十七なのかな。聞いてみよっかな「あの、何歳なの?」と聞くと彼は
「十二歳だよ」と言った。ま、まさかの年下⁉と驚いていると
「心音さんって不思議だね」と言われる。えっなんで?と思っていると
「自己紹介の時あんな事、言ったのに平気で声かけて来るからさ」と言う。
…私は一人で居るから気にかけていたのじゃないのに。
ただ、彼がカッコ良かったから仲良くなりたいと思ったのにな。
今一緒に居るのも彼が優しいからなのに。どうしてそう思われてしまったのかな。
きっと彼は何かに傷ついている。私と同じように。祐隆君の力になりたい。
彼の心に居場所を作りたい。こんな事、思ったのは初めてだった。
そこに兄がやって来て「心音。もう友達出来たのかよー」と言われる。
私は「いいでしょ。別に」と言うと兄は「お兄ちゃん寂しいなー」と言う。
何よ。と思いながらも「ホットケーキ作れたら持っていくから」と言う。
すると兄は元気になりやったー!と言ってダイニングらしき場所に行った。
祐隆君が「面白いお兄さんだね」と言ってくれる。私は頷く。そして、
「凪兄には本当に感謝しているよ。親が居なくなってから行く当てを
探すまでの間の何週間本当に心細かった時凪兄がいてくれたから元気が出た。
昔からそうだった。熱が出た時とか傍に居てくれる。普段頼りないくせにさ。
そういう時だけ頑張る。根拠のない自信持っているのよ。あいつって」と言う。
祐隆君は「そっか。でも、僕は心音さんも素敵だと思うよ。
凪さんも心音さんが居るから生きられたって思っていると思うから。
だからきっと素敵な兄妹なのだよ。お互いで支え合っていけるなんて。
僕にはそれができないから。できなかったからさ」と言う。
もしかして彼も兄弟がいたのかな。そして、その人は…。
疑問はたくさんあったけど聞く勇気なんてなかった。
彼が傷つくのは嫌だから。本当はそんな言葉エゴで嫌われたくないだけなのだが。
ホットケーキが完成し兄と私と祐隆君で食べる。本当に我ながら美味しかった。
多分それは、凪兄や祐隆君がいるからだよね。私は笑う。今、幸せだから。
そして、食器を洗っていると優夜さんがやって来た。
「どう?」と聞かれて「とても幸せです」と言うと「なら良かった」と言った。
優夜さんは食器を洗うのを手伝ってくれた。呟くように「心音ちゃんは、きっと
モテると思うよ」と言った。へ?と思っていると「可愛いから」と言われる。
私は思いっきり赤面してその場を走り去った。優夜さんって三個年上の人だよね?
・・・めっちゃ離れているならまだしも歳が近い人に言われるなんて。
可愛いって何⁉優夜さんの事だからどうせ誰にでも言っているのでしょ⁉
あぁもう何なのよ!今まで兄にしか言われた事無いのに。可愛いって…。
頭がパンクしていたせいか私の不注意かでその時ぶつかってしまった。
・・・「ごめんなさい!」慌てて謝ると目の前に居たのは仁君だった。
彼はクールに「問題ない。次からは気を付けろよ」と言って去って行った。
そういえばこの屋敷って夜桜家のものだよね?じゃあなんで優夜さんがと
思っていた時だ。玄関のドアが開き一人の少年が帰って来たようだ。
声をかけると「あっえっと転入生さんですよね。僕は夜桜 颯斗(よざくら
はやと)です。この屋敷の所有者?です。優夜さんが夜桜家はもう僕が一人って
なった時に手伝ってくれたんだよ。僕、こんな大きな屋敷に独りぼっちは
嫌だったから本当に助かっているよ。だから今日から君もここを自分の家だと
思って使ってね。それじゃあ」と言って凄い速さで消えて行った。
十四歳くらいだろうか?颯斗さんって。そうか夜桜家は滅びかけていたのか。
彼が、最後の一人なのか。彼、凄くおびえていたな。私って怖いっけ?
私は頭も冷えてきてゆっくりとリビングに帰る。そこには優夜さんが居た。
思わず立ち止まる。彼はすぐに私に気づいて微笑む。そして「君の部屋は
今日からここになるよ」と地図を見せて紹介してくれる。
?となっていると「ついて来て」と言われる。着くと和風な部屋が広がっている。
とてもおしゃれで旅館にいるみたいだ。温泉もあるらしいしまじで旅館じゃん。
優夜さんはクスっと笑って「やっぱり心音ちゃんは可愛いね」と言われる。
私はまた赤面して今度は彼を突き飛ばし部屋に飛び込んだ。
部屋に入りふと気づく荷物が置いてある事に。開くと衣類などがあった。
もしかして…優夜さんが用意してくれていたのかな。と思った時だった。
「心音ー!」と兄が入って来る。「ちょっと凪兄なに⁉」と言うと
「同じ部屋だってさ」と言った。思わず「はぁ⁉」と言うと
「そこまで露骨に嫌な顔しないでくれるかなー」と拗ねられる。
だから仕方なく「はいはい。凪兄と同じで嬉しいよー」と言う。
凪兄は「それにしても心音は今日何人に可愛いと思われたのでしょう」と言う。
私は「せいぜい一人くらいよ」と言うと兄は「一人は居るんだね?」と言う。
私は「とにかく!もうお風呂入って来るから」と言って部屋を出る。
だが…見事に道に迷ってしまった。なんて広い屋敷だ…。
途方にくれていた時だった。「心音ちゃん?」と声をかけられて振り向くと
朱莉ちゃんが居た。私はホッとして「実は温泉に行こうと思っていたのですが
道に迷ってしまって」と言うと「私もちょうど行こうと思っていた所!」と言って
「一緒に行こう」と言ってくれる。そして温泉に着く。女湯と男湯で別れていた。
当たり前か。そして二人で温泉に入る。女子って三人しかいないものね…。
ほんと、男女の比がおかしいよね。この屋敷。朱莉ちゃんはとても社交的だ。
すぐに仲良くなれた。そして、朱莉ちゃんが声を潜めて「恋バナとかしない?」と聞いてくる。驚いて固まっていると「心音ちゃんってほんと可愛いよね」と言う。
この屋敷の人ってどうして可愛いとすぐ言うのでしょうか?
朱莉ちゃんは「私ね。好きな人居るんだよー」と言う。
私は取り敢えず「えーそうなの!誰なの?」と聞いてみる。
すると、「実はね。祐隆君の事が気になっているの」と言われる。
私は茫然とした想いが心に広がっていくのを感じた。
なんで?祐隆君なの?私が仲良くしていたのを知っていたのかな…。
だから、こうやって私に警告しているとか?せっかく仲良くなれたと思ったのに
それは私だけだったって事…?そんな想いとは裏腹に私は笑って「頑張ってね」と
言ってしまう。祐隆君と関われば朱莉ちゃんはきっと私を見放す。
なら祐隆君とはあまり関わらないでおこう。気になっていたけれども…。
力になりたいと思ったけど。朱莉ちゃんは「心音ちゃんは気になる人とかいるの?
いるなら教えてよ。手伝うからさ」と言う。この子は悪魔だと直感的に思った。
強引で怖い。きっと策略家だと思う。それに美人だ。祐隆君はきっと…私みたいな
根暗よりも、朱莉ちゃんみたいな明るくて可愛い子が好みに決まっている。
だから、もうここに居たくない。早く切り上げてしまいたい。気づくと
「いないよ。恋愛とか興味ないし」と冷酷に言っていた。私じゃないみたい。
そして笑って「私、ちょっとクラクラしてきたからもう出るね」と言って去る。
お風呂を出て用意してあった浴衣に着替える。私の色は淡いピンクだった。
横に置いてあった朱莉ちゃんの浴衣は淡い黄色だ。可愛いな。
彼女にとても似合うのだろうなと思いながら髪を梳かしてからお風呂場を出る。
そしてある重大な事に気づく。私は超方向音痴だったのだ…。これでは部屋に
たどり着けない。泣きそうになりながら歩き回る。その時お風呂上がりの祐隆君に出会う。深緑色の浴衣姿がカッコ良かった。見つめていると彼が微笑みこちらに
来て「なに不安そうな顔してんだよ」と言う。だから「道に迷って…」と言うと
笑われた。そして彼は「送る」と言った。聞き間違いかと思い目を丸くすると
「どこだったけ」と言われる。笑ってしまう。すると「よかった」と言われる。
えっ?と思っている間に「行くぞ」と言われる。
祐隆君は本当に優しい。朱莉ちゃんが好きになって当然なのだ。
でも、だからってそれは私が諦める理由にならない。距離を置く必要なんてない。
祐隆君が迷っていた私に声をかけてくれたからだよ。ありがとう。彼の背中を
見ていると寂しくなって走って追いつき横に並んだ。これで私は十分なのだから。