第九話・投票
次で最終回です。
沈黙が続いた。
まずはじめに立ったのは、級長だった。
サッと文字を書き、それを、投票箱に入れた。
みんな、続々と文字を書いていく。
誰を。
誰を書けばいいの。
わからない。
でも。
なぜか。
なぜか、みんなの筆が進んでいく。
なんで・・・。
・・・。
『おれ、合唱コン終わってからカナさんがルフと一緒にいたの、見たぞ。』
『おれは、付き合ってはいないが、カナと同棲している。』
『なあ、カナ。おれは、お前のことが、好きだ。』
そっか。
これなら。
私は気づかなかったけど。
エクルが。
私とルフくんと一緒にいたのが嫌で、それで。
エクルが、ルフくんが殺したって。
『おれ、合唱コン終わってからカナさんがルフと一緒にいたの、見たぞ。』
この発言がでてから。
『なあ、カナ。おれは、お前のことが、好きだ。』
この言い方をすれば。
クラスの全員。
エクルが、ルフくんを妬み、殺した。
そう、思い込む。
『エクル、私を、必ず護るって、言ったよね。』
『ああ。必ず、護る。』
それって・・・。
第九話・真相
エクルとクリスマスの話をしたあの日。
「ねえ、カナ。もうすぐ、クリスマスだね。」
二つ目。
・12月24日、クリスマスイブ、午後6時。その日に王様だった人は、特別に、何でも願いを叶えられる。
「ねえ、カナ。王様の君は、12月24日、何を願うの。」
「それは・・・。」
「元の星に帰るの?それとも・・・」
「ねえ。エクル。」
「どうしたの?」
「エクル、私を、必ず護るって、言ったよね。」
エクルは、私の目をじっと見て、言った。
「ああ。必ず、護る。」
あの日。
ルフくんと、帰っていた日。
合唱コンの、帰り道。
「なあ、カナさん。」
「なに、ルフくん。」
ルフくんに、見つめられている。
「おれさ、みんなに裏切られたりとか、ピアノ、弾けなくなったりとか、辛かったけど。でも、楽しかった。この合唱コンの練習とか本番とかね、すごい楽しかった!あの日。」
『私、元吹奏楽部で、指揮者やってたの!だから、わたしなら、できるよ。』
「おれのことを、助けてくれて。本当にありがとう。」
「そっか。」
私は、恥ずかしくて、少し、目を逸らした。
でも。
こういうのは、目を見て言わなきゃ。
「私も、ルフくんのおかげで、合唱コン、すっっっごく、楽しかったよ!」
私たちの周りには、誰もいない。
隣には線路がある。
木々に、花が咲いた。
鳥たちが飛んでいる。
馬車や、魔法の絨毯、箒に乗った魔法使いや、光る玉を持った鳥がバサバサと飛ぶ。
周りにある木々が、イルミネーションのように、光る。
まるで、私たちに。
私たちのために。
この世界が。
できているかのように。
まるで。
私が。
本当の、自由を。
私の、思い通りになる。
退屈じゃない。
本当の自由を。
最高の、幸せを。
その時。
手に入れた、気がした。
「それで、すごく、カナさんといる時間が、楽しくて。」
踏み切りに差し掛かった。
ルフくんは、踏み切りに背を向け、私の方を向いた。
そして、私とルフくんは、歩くのを、やめた。
ルフくんは、少し、震えた声で。
かっこいい、声で。
眼差しで。
私に。
こう、伝えた。
「おれ、カナさんのことが・・・。」
カンカンカンカン・・・
踏み切りが下がる。
「好きです。」
私は、これまでにない、幸福を感じた。
世界が、私を味方しているような。
そんな。
今までに感じたことのない。
幸せを。
あ。
なんか。
幸せで。
ゆらゆらする。
線路が。
ゆらゆら。
揺れてる。
ガタンゴトンガタンゴトン・・・
「僕と、付き合ってください。」
瞬間。
電車が。
ルフくんに、突っ込んだ。
私は。
これまでにない、悲しみに襲われた。
急に、雨が降ってきた。
やばい。
こんなところ、誰かに見られたら。
どうしよう。
私は、一目散に走って、その現場から逃げた。
その日の夜。
外は、変わらず雨が強く降っていた。
合唱コンが終わった後。
私は、家で。
久しぶりに、エクルが作ってくれた、オムライスを食べながら。
泣き崩れた。
エクルは、私の目を見て、尋ねた。
「ねえ。何が、あったの。」
「私ね・・・。ルフくんを、殺しちゃった。」
「え・・・。どういうこと?」
私の話を一部始終話すと。
エクルは、私よりも、たくさん、涙を流した。
2人で泣いた後、5分ほど、経った。
エクルは、涙をハンカチで拭いて。
私の後ろに来て、抱きしめた。
「カナ。」
「・・・なに?」
「それでもおれは、お前を、護るから。」
私は、エクルの手を握った。
「・・・ありがとう。」
『エクル、私を、必ず護るって、言ったよね。』
『ああ。必ず、護る。』
教室は、氷のような雰囲気で包まれていた。
みんな、投票を済ませた。
あとは、私だけ。
あれ。
そっか。
12月の王様の願いは。
誰かを、殺すことだってできるんだ。
だから。
みんなは。
毎年、この時期。
王様のことが、怖い。
そして。
同じクラスで。
その現実を目の当たりにしたら。
当然、とても怖い。
そっか。
だから。
『王様を殺さなければ、他の誰かも、殺されるかもしれない。』
みんな、王様を、殺したい。
そういうことか。
それで。
もし。
ここで。
王様が殺されれば。
王様はいなくなったってことに、なる。
そして。
エクルは。
自分が王様だっていう演技をして。
投票で、みんなに自分を選ばせて。
そして。
ここから、飛び降りる。
そうすれば、クラスで殺し合いが起こることはなくて。
私が、24日に、エクルと、ルフくんを、生き返らせれば、全てが・・・。
・・・あれ?
四つ目。
・「人を生き返らせる」願いは、『1人にしか』使えない。
1人にしか、使えない。
まさか!!
多数決の結果。
王様として、殺されるのは。
エクルだった。
圧倒的多数の票が、エクルに集まった。
『一緒に帰ってきたの!?あいつ良い人だからね、すごい女子からも人気でね、よく告白されてたんだけど、なんでか、全部断ったんだよ!』
『それでもおれは、お前を、護るから。』
エクル、私が、ルフくんのこと、好きなこと、知ってて。
『おれ、合唱コン終わってからカナさんがルフと一緒にいたの、見たぞ。』
そのままだったら、私が王様として疑いをかけられて殺されることを知ってて。
『なあ、カナ。おれは、お前のことが、好きだ。』
自分が王様だと遠回しに伝え。得票数を獲得し。私の身代わりになって。
自分が、死ぬ。
12月24日。王様である私の願いは、ルフくんを復活させること。
ずっと、そうだった。
私は、ルフくんが好きだから。
それを、エクルは知ってて。
クラスのみんなに、自分に投票させて。
私を護るために。
死のうとした。
溺愛。
私は。
エクルに。
溺愛、されている。
私のことを、ここまで。
ここまで、愛してくれた人が、今まで、いただろうか。
「じゃあ、おれは、ここから飛び降り・・・」
「待って。」
私は、立ち上がった。
こんなに、愛してくれるし。
あと。
めっちゃ、かわいいし。
でも、ルフくんもかっこいいし、好きだし。
かっこいいし、好きだし・・・。
選べないよ。
どっちか、なんて。
選べないよ・・・。
「本当は、私が・・・」
「それを言わないで!!!」
エクルは叫んだ。
「いいの!!!」
私は、エクルくんから目を逸らした。
エクルくんは、駆け寄ってくる。
私は、エクルくんの方を向いた。
「私が、王様なの。」
クラスは、ざわつく。
「カナ!それを言ったら・・・。」
「私、合唱コンの後、ルフくんに、告白されたの。」
クラスがどよめく。
「それで、幸せで。私も、ルフくんのこと大好きだったから。線路が、揺れて。電車が、ルフくんに突っ込んで。」
「カナ・・・。カナ・・・。」
「でも。そんなに、私のこと、護ってくれたら。愛してくれたら。」
私は、泣いた。
エクルも、泣いている。
四つ目。
・「人を生き返らせる」願いは、『1人にしか』使えない。
「選べないよ。エクルか、ルフくんか、どちらを、生き返らせるかなんて・・・。」
エクルは、私を強く抱きしめた。
私も、エクルを強く抱きしめた。
「エクル。大好きだよ。」
二つ目。
・王様の影響で人が「死ぬ」、そのうえで、自分が王様だと「他人にばれる」。その1分後に、王様は、「消滅する」。
体が、どんどん、キラキラとした光と共に、消えていくのがわかる。
そして、意識が遠のいていく。
カナは、消滅した。
消えて、なくなった。
そして、エクルは、そのまま前に倒れた。
「うっ・・・」
そして。
立ち上がった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
エクルは、そのまま、4階から飛び降りた。