第八話・秘密
12月15日、夜。
外は、雨が強く振っている。
合唱コンが終わった後。
私は、家で。
久しぶりに、エクルが作ってくれた、オムライスを食べながら。
泣き崩れた。
エクルは、私の目を見て、尋ねた。
「ねえ。何が、あったの。」
エクルは、表情を変えた。
「え・・・。どういうこと?」
ルフくんが。
電車に轢かれて、死んだ。
それを、伝えた。
エクルは、私よりも、たくさん、涙を流した。
2人で泣いた後、5分ほど、経った。
エクルは、涙をハンカチで拭いて。
私の後ろに来て、抱きしめた。
「カナ。」
「・・・なに?」
「それでもおれは、お前を、護るから。」
私は、エクルの手を握った。
「・・・ありがとう。」
次の日の朝。教室に着いた。
その事件は、ニュースで、クラスラインで、広まった。
もう、みんな知っていた。
ルフくんが、死んだこと。
雰囲気は、静まり返っていた。
そしてもう1つ、みんな知っている。
この中に。
王様が、いる。
そして。
ルフくんを殺した犯人は。
王様だって。
みんな思ってる。
でも。
誰も。
口に出せない。
怖くて。
口に出せない。
三つ目。
・王様の影響で人が「死ぬ」、そのうえで、自分が王様だと「他人にばれる」。その瞬間、王様は、「消滅する。」ただし、「今までに王様になったことがある人にばれる」なら、何も起こらない。
バレた瞬間、王様は、消滅する。
今日も、土砂降り。
「もし、王様が殺したとしたら。」
級長が話し出す。
「そして、このクラスに王様が、いるんだとしたら。」
真っ直ぐに下ろされたボブのヘアスタイルの副級長が、メガネをクイっとして、口を開く。
「他にも、犠牲者が出るかもしれない。ルフくんは、王様に殺された。誰も、その現場は見ていない。だから、どうやって殺したか、真相はわからない。でも。ルフくんは確かに、電車に轢かれて死んだ。そんな都合のいいこと、あるわけがない。この中の、誰かが殺した。もし、そうだとしたら。」
もう一度、副級長はメガネをクイっとした。
「王様を殺さなければ、他の誰かも、殺されるかもしれない。」
クラスがざわっとした。
アメリアが足を組む。
「お前!私たちを疑ってるのかよ!!私たち、合唱コンでみんなで頑張った仲間じゃねーかよ・・・」
「もうやめよ!」
ミアが叫んだ。
「こんなこと話していても、仕方がないよ・・・。」
級長が、ハッとした顔で、私を見た。
「おれ、合唱コン終わってからカナさんがルフと一緒にいたの、見たぞ。」
「は!?」
「どういうこと!?」
「カナが一緒にいたって・・・。」
教室がざわつく。
「もうやめろよ!」
エクルが、立ち上がって叫んだ。
「ミアの言うとおり、こんなこと言ってても、仕方ねえだろ。」
クラスが、静まり返る。
先生が、入ってくる。
「はい、授業始めるぞー。」
その日の夜。
食卓で、エクルは口を開いた。
「ねえ、カナ。もうすぐ、クリスマスだね。」
二つ目。
・12月24日、クリスマスイブ、午後6時。その日に王様だった人は、特別に、何でも願いを叶えられる。
翌朝。
私が登校すると、みんな、私を白い目で見てきた。
1番最後に登校してきたのは、エクルだった。
「はーい、朝の会はじめ・・・」
「先生。」
エクルは、先生に告げた。
「僕たちの友達が死んでいるんです。今から1時間、その話に、使わせてくれませんか。」
「あ・・・ああ。1時間目はおれの授業だったな。そしたらおれも休めるし、好きに使ってくれー。はー、カフェでも行こ。」
先生は外に出て行った。
エクルは、机に鞄を置き、前に出て行った。
チャイムが鳴った。
「いいか、おれの話をよく聞け。」
みんな、席に座り、エクルの話に耳を傾けた。
外は、相変わらず土砂降りだ。
「おれは、付き合ってはいないが、カナと同棲している。」
え?
それ、言っちゃうの・・・?
クラスが、ざわつく。
エクルは、空のティッシュペーパーの箱を教壇に置いた。
そして、私たち全員に、紙を配った。
「ここに、誰か1人の名前。自分が、ルフを殺した犯人だと思う者、つまり。」
エクルは、前を向いた。
「王様と思う者の、名前を書く。そして。」
エクルは、窓の外を指差す。
ここは、4階。
まさか・・・!
「得票数が1番多かった物を、王とみなし、ここから落とし、殺す。そうすれば、みんなのモヤモヤも晴れるはずだ。」
「待って!」
副級長が、話を止める。
「そんな残酷なこと。」
『王様を殺さなければ、他の誰かも、殺されるかもしれない。』
「お前が言い出したんだろ。」
副級長は、下を向いた。
みんなで、王様が誰かを投票して、多数決で1番票が多かった人を殺す。
そうすれば。
もう。
ルフくんと同じ目に合う人は、いなくなる。
もしその人が本当に王様だったら、の話だけど。
人狼ゲームと同じ論理。
エクル、可愛いのに、すごく、頭いい。
「いいか。これは、カナと相談して決めたことだ。」
みんなの目線が、私に行く。
「いや、でもそれいい案かもしれないーーー!!!!だってさー、誰も殺した現場見てないんだし、1番、公平な手段じゃーん!!」
級長がそう言うと、フッ、と、エクルが笑った。
私は、そんなこと、相談してない。
エクル。
普段、あんなに可愛いのに。
こう言う時。
なんか、少し。
かっこいいかもしれない。
「賛成」
アメリアは、手を挙げた。
「おれも。」
「私も。」
「僕も。」
みんなが、どんどんと手を上げていく。
エクルが、声を張り上げる。
「なあ、カナ。おれは、お前のことが、好きだ。」
「・・・へ?」
エクルが、少し、下を向いた。
そして、前を向いた。
「じゃあ、投票を始めよう。」
エクル、私のこと、好きって・・・。
エクルは、私の方を見て、そして。
笑顔で、涙を流した。