表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王様の感情で動く星  作者: 佐和多 奏
7/10

第七話・本番

 私は、部屋の隅に、座った。

「何か、あったの?」

「何でもない。ちょっと、疲れただけ。気にしないで。」

「・・・」

 エクルは何も言わずに私の隣に来て、座った。

「隣にいるから。いつでも。」

 そう言って、そのまま、寝てしまった。


「っしゃーっ、金賞目指して頑張るぞー!」

パートに分かれて、歌練が始まった。


 首をわざと大きく動かして笑わせる男子とかいるし、メガネでちっちゃくて成績優秀な副委員長も、楽しそうにピョンピョンジャンプしながら歌ってた。


「よーしホームルーム始めるぞー。」

 隣の席の人が憂鬱な顔をしている。それをみたその隣の席の人がそれを見て憂鬱な顔になった。

 憂鬱って移るんだなー。まあ、朝だからなのかなぁ。

「どうしたーカナ、そんな憂鬱な顔してー」

 うっ・・・。

 私の憂鬱が・・・。

 バレてしまった。


 

「はーい、みんな机後ろにやってー」

 授業がすべて終わって解放感に満たされたみんなは、級長ジョセフくんの命令に素直に従った。

 ミアの指揮、ルフくんの伴奏のもと、曲を通す。去年やっていた先輩達のことを思い出して、みんな必死で歌うが、もちろんバラバラになる。

「最初はしっかり出来ていなくていいから。」

 よく聞く言葉だ。

 しかし、合唱コンまで時間が無いから、すぐにパート練習にうつった。

 ソプラノ、アルト、テノールに分かれて、声がどんどん揃っていく姿は、まるで奇跡のようだ。


 それから朝早く来て、帰りは遅くまで練習する練習が始まった。たまに体育館とか音楽室とかに移って練習するときは、青春を感じてすごく楽しい。

 土曜日練習は、朝から行ったらちょっとしか人いなかったけど、後からどんどんみんな来て、午後の体育館での練習は全員で出来た


 次の水曜日が本番だ。


 月曜日。授業が終わり、机を下げて練習を始めようとしたその時、

「ごめん、今日塾のテストがあるんだよじゃーね!!明日も来れないからーー!!」

 まさかの、ミアが帰った!

「おい、ミア!まて!それじゃ、みんなで練習出来ないじゃん!」

 アメリアが叫んだ時にはもうミアは教室をでていた。


「どうしよう・・・。」


「おれ、指揮者なしでも伴奏、なんとかできる。だから。やろう。」

 ルフくんは、それだけを言い、ピアノへと向かった。

 その、ルフくんの言葉に震撼されて、みんなで歌った。


 でも、いつもよりも声が小さかった。

 というか、歌ってなかった?

「おい。なんでこんな時に口パクするんだよ。」

 ルフくんは少し怒った。

「ごめん、俺歌下手だから、やっぱ無理だわ」

「私も、ちょっとムリ」

「今日はもうやめよ!無理だよ、ミアちゃんがいないんだもん!!」

 みんなが、もう辞めるムードになっている。

「じゃあ今日はもうやめよう。はい、かいさーーん!!」

 級長がそう叫んで、そのまま教室を走って出ていってしまった!

そのままみんな教室を出ていった。


 私は、みんなが出ていったあと、指揮の台の上で1人呆然としているルフくんに、勇気を出して話しかけてみた。

「ねえ」

「なんだよ!明日もミア、どうせ来ないんだよ!!もう、無理だよ!!」

「私、元吹奏楽部で、指揮者やってたの!だから、わたしなら、できるよ。」

 全てを吸い込むような、かっこいい、黒い瞳が、私を見つめた。

「え・・・ほんとうに・・・?」

 私はルフくんに抱きしめられた!!


「おれ、めっちゃピアノ、練習したんだよ!ありがとう!!そしたら、おれたちだって、優勝できるのかな!」


 こんなの反則!好きになっちゃうよ!!

「うん、私たちならできるよ!だって、ルフくんのピアノ、あんなに上手なんだし。」

「ねえ、カナさん。一緒に帰ろ?」

「いいの?」

「全然、1人じゃ寂しいし」


 夕日に照らされた教室に立つルフくんを、改めてかっこいいって思った。


「どこの中学校のひと?」

 興味津々にルフくんは聞いてきた。

「いや、それは、秘密だよ!!」

「秘密かー!おれはね、エナット中学だよ!」

「変わった名前だなー。え、一緒にこの高校に上がってきた人いたの?」

「えーっとね、エクルだよ!あんま一緒には喋らないけど。」

「あー、エクルか!優しいよね!」

「うん、優しい。仲良いの?」

「いや、えーっとねー、普通に」

「普通にね!おれも、普通に、仲良い。」

 一緒に歩いてると、交差点についた。ルフくんは左に曲がるらしい。わたしは真っ直ぐだから、お別れだ。

「カナ、また明日ね」

「じゃーね」

「うん!」


 帰る時に見せる反則の笑顔な!


 あー楽しかったなー。なんか変なこと言ってないかなー。

 好きな人と一緒に帰ってる時って、なんか別世界にいる感覚になる。

 自分が、自分じゃないみたいな。

 ドキドキする。

 フワフワする。

 私。

 今。


 恋してる。



第七話・本番

「ねー、ルフくんと同じ中学だったの?」

 私は、エクルが作ってくれた唐揚げを頬張る。

「あーそうだよー!え、ルフと話したの?」

 エクルは、自分の唐揚げに塩をかける。

 そして、口に含む。

 よく噛む。

 かわいい。

「え、うん、一緒に帰ってきた。」

「一緒に帰ってきたの!?」

 あ、言っちゃった。一緒に帰ってきたこと。

 エクルは、ムッとしてる。

 さっき食べた唐揚げの影響で。

 ほっぺたがぷくってなってる。

 かわいい。

 でも。

 私とエクルは、付き合ってないし・・・。

 エクルは、唐揚げをごくっと飲み込んだ。

「あいつ良い人だからね、すごい女子からも人気でね、よく告白されてたんだけど、なんでか、全部断ったんだよ!」

「そうなんだー。」

 そんなことが・・・。

「てか、エクル、帰ったでしょ!途中で!」

「あれはごめん、流れで・・・。」

 でも、そのおかげで、私は。

「・・・別に、いいけど。」


 火曜。今日は、前日だから、1日中合唱コンの練習の日。

 ミアは、来ていない。

 なぜ、来ていないんだろうか。

 指揮者としての、重圧が、すごかったのだろうか。

 それにしても、なんで、指揮者に立候補したんだろう。

 というか、指揮棒とか持ってたし、めっちゃ上手いし、本格的だし。

 指揮棒持ってる人、他のクラスの指揮者とか見ても、ミアしかいない。

 指揮棒、木で出来てて、それを持つ姿は、まるで・・・。

 魔法使いみたいに。

 みんなを、音楽で独裁するかのようにして。

 指揮をする。

 だから、みんなの歌もとても上手くなる。

 そして。

 ルフくんの伴奏も。

 指揮があるだけで。

 全然違う。

 ミアは、指揮棒が似合う。

 指揮が、とっても上手い。

「よし、ミアなしでも今日しっかり練習して、絶対に明日優勝するよ!みんな!!」

 アメリアが呼びかける。

「しゃあ!がんばるぜー!!!」

 みんな賛同して、練習に移る。

 午前中はパートごとに練習して、午後からは全体で練習した。


「あーもう3時かー」

「そうだなー疲れたなー」

みんなすっごい、やってやったなって言う、いい顔をしてる。


「ごめんごめん!遅くなったーーー」

「あ、ミアじゃん!!」

 ナナの声を聞いたみんなは扉の方を見る。

「あ、ほんとだ!!」

 みんな、少し、笑顔が戻る。

「おせーよ、みんな待ってたんだぞ!」

「本当にごめんね!私、本当は、みんなをまとめるような人じゃないから。私なんかに指揮ができるかなんて、心配で・・・。」

「ミアがいてのこのクラスなんだからね!」

 ミアは、やっぱり。

 指揮者の重圧に、耐えられなかったみたいだ。

「みんな本当にごめんね!!そして、ありがとう!!それじゃあ、通そ!!」

みんな並んだ。

 ミアの指揮は、立候補しただけあって、私なんかよりもとても上手で、みんなすごい笑顔で、ずっと歌ってる。



 順番に色々なクラスの人が歌っていく。

 

 午後1時。 次の次が、私たち、2年3組の番。

 みんなで最初から最後まで通しで練習をする。

「この調子で本番もね!ねえ、円陣を組も!」

 リハーサルで、アメリアがクラスをまとめる。

「絶対に優勝するぞー!」

「おーーっ!!」

 そうして舞台裏へと進んだ。


「あーーーーー緊張するーー!」

「それな!!」

「まじでーもうやばい!」

 みんななにか話そうとしても会話が続かないようだ。


「では、入場してください。」

 最後列から順に入場していく。


 ミアが右手をあげた。同時にみんなが足を開く。揃った。完璧だ。

 ルフくんのピアノが流れ始めた。

 前奏から、完璧の入り。

 サビは、全てのパートで、きっちりと揃った!

 リハーサル通り。

 完璧に。

 私たちのクラスは。

 歌い切った。



「はい、全クラス終わりました!!3時10分ですね、予定通りです。」

「結果発表。校長先生、お願いします。」

「優勝は・・・」


「2年3組!!」


「よっしゃあああ!!!」

私たちは、立ち上がって、声を上げた。

 みんなでハイタッチしたり、抱き合ったりした。


 優勝かーー!!正直めっちゃ嬉しいな!

 ルフくんをチラッと見た。

 友達と、ハイタッチしてる。

 かっこいいなぁ。

「カナ。」

「へ?」

 振り向くと、ミアと、アメリアがいた。

「私たち、優勝だよ!」

 アメリアがそう言った。

「カナ、本当にありがとう!」

 ミアも、そう言ってくれた。

「うん!最高に嬉しい!」

 3人で、抱き合った。


 合唱コンが終わり、外へ出た。


「みんな並んでー、写真撮ろー!」

「イエーイ、はいチーズ!」

みんなのニッコリ顔は、一生の思い出になる。


「はい、かいさーん!」

「よっしゃー、かえろー!!」

 空を見上げると、一番星が見えた。


 

「ねえ、」

 後ろから話しかけてくる。

 振り返ると。

 ルフくんが、いた。

「一緒に帰ろ?」

 わあ。

「うん!」


「優勝、できてよかったよね。」

「そうだね、カナさん。」

 橙色に空がめく。ルフくんががよりいっそう綺麗に見える。

「夕焼けが綺麗だね。」

「あれじゃない?王様が合唱コンにいてさ、楽しかったから、綺麗な空になったんじゃない?」

 王様・・・。

「うーん、そうなのかな?でも、そうだとなんか、神秘的だよね!」

「何それ!でも、確かに、神秘的かも。」

2人で笑った。

 線路沿いを2人で歩く。この上ない幸せ、いまが最高の気分!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ