第二話・演奏
11月25日。
空が澄んでいる。
踊る草木が太陽に照らされて、まるでこの世界で新しい何かが始まるかのような感覚がして、楽しい気持ちで、私は家を出た。
エクルと一緒に、自転車を漕いだ。
ワクワクする。
今日から、この星の学校に転校する。
鼓動は次第に高まり、風は静かにそれを聴いていた。
「えー、今から、転校生を紹介する。」
「どんな女の子なんだろう」
「話しかけれるかなー。」
「やばい、超イケメンの男の子だったらどうする??」
「どうしよう〜!!」
クラスがざわつく。
ハードルが色々と。上がった。
聞かなかったことにしよう。
「こ、こんにちはー!・・・。」
勇気を出せ、私!
「カナっていいます、よろしくお願いします・・・。」
言えた!
教室中から、大きな拍手が起こる!
パチパチパチ!!!!
教室がピンク色になって、壁とか床とか天井から綺麗な花が光とともに音を立てて咲いた。
なんだこの達成感は!泣きそう・・・。
・王様の感情によって、世界の情景は変わる。王様に近ければ近いほど、その影響は大きい。
この中に、王様が、いるのかな・・・。
教室の中はとてもいい雰囲気になった。
「うえーーーい!!」
「転校生パネー!!」
ちょっと、恥ずかしい・・・。
「転校生可愛くない?ダレン」
「確かに!おれの右の席に来てほしいわ。」
「左じゃダメなん?」
「いや、利き手の方にいるのがよくて、おれ左利きだから教科書見せてもらう時に、右に来てくれれば、ノートとっている時に目が合って・・・」
「めちゃめちゃリアルに考えるやん」
「まあね、でも、隣の席になったら、毎日教科書忘れてきちゃうかも・・・。ああ、もう、なんで右の机も左の机も離れてるんよ?小学生みたいにさ、隣同士いつもくっつけりゃいいのにー。」
あの席の離れてる男子何話してるんだ?絶対愚痴・・・。
そう思いながらも、なんとか自己紹介は平和に終わった。
「じゃあ、ここを音読お願いね、ルフ。」
そうして、ルフくん?は、立ち上がる。
背がすらっとしてて、黒髪短髪で、顔ちっちゃくて、目かっこよくて・・・。
風に髪を少しなびかせながら、透き通るような声で音読をする。文字を追うその大きな目は、漏れる陽の光に照らされて輝いていた。
この人、めっちゃかっこいい・・・。
あー、でも、エクルも可愛いのにー!!
めっちゃ!
かっこいい!
ルフくん。
休み時間になると、転校生の私の方にはたくさんの人が集まってきた
「ねー、彼氏いるの?」
「彼氏いるのか、リア充滅ぶべし!」
「い、いや、いないよ・・・。」
「私もいねーんだよー」
オラオラちゃんの安心できる一言。
「私たち、仲間だね!」
茶髪、小顔くりくり目ちゃんの意外な一言。
私の心の不安要素が一瞬にして溶け去った。
「わたし、ミア!文芸部なんだ!」
「わたしは、アメリア。柔道部だ。」
この世界にも、部活とかやっぱりあるのか・・・。
エクルは、こっちを見てる。
私が見たのをわかった瞬間、ササっと、次の授業の準備をし始めた。
かわいい・・・。
「どこみてんの?お前。それより、早く移動しなきゃ。」
「そうだ、カナちゃん、移動しないと。」
そうだ!時間割!次音楽だった!ちゃんと、教科書も持ってきてるし・・・。
「とくに、今日はピアノのできる私、アメリアと、あの、ルフとのバイオリンの共演だぞ!」
「さっき音読してた?かっこいいよねー」
「うわー、緊張するー」
「何に対しての緊張?」
ミアが笑顔で、意外と煽る。
いいなあ。ルフくんとの共演。
「ピアノのだよ!よーし、ミア、いつもみたいに一緒に行くぞ」
「はーい!」
いいな、いいな。
「わ、私も、一緒に行っていいかな?」
アメリアは長めの茶髪を靡かせながら口をひらいた。
「おおー、カナ!当たり前じゃん!一緒に行こーぜー!」
「いこーいこー!」
このノリ、大好きかも!
友達、できてよかったー!
音楽の教科書は・・・エクルが私の鞄に・・あっこれだ!
「あーーっ」
ミアのが無かったらしい。一緒に探してみるけど、5分経っても見つからない
「あったぞ」
ナイスアメリア!!あと授業まで・・・2分!音楽室まで行かなきゃいけない!
「アメリアちゃん、走るの速いね!」
「えっへーんお前らと違ってなー」
「なんだとー!文芸部の力、見せてやるー!ね、カナちゃん!」
「うん!・・・本気で、走ろ!」
「「うん!!」」
紅葉、広葉樹の舞う開けっ放しの窓の隣を、3人で、本気で競走した。
スーッと、秋の風が入ってくる。
私も、アメリアも、ミアも、みんな笑顔で、走ってる!
楽しい!
青春って、こういうのをいうのかな。
世界が、私たちを味方しているような・・・。
「ついた!」
空いている広いドアに3人一緒に入った瞬間のチャイムは、私たちを祝福しているようだった。
みんな私たちの方を向いて笑っている。私たちも、顔を見合わせてから、笑った。
「今日のメニューはー!まず合唱してー、その後今まで練習してきたみんなの発表を聴くよー!ということでみんなたってー!」
知らない曲が流れ、みんなが歌うのを今、聴いてる。合唱祭が、近いらしい。
授業の終わり際。
「さて、今日のメニューのメイン!では、アメリアさん、ルフさん、お願いします」
教室は静まり返った。これから始まることに対する期待が心を支配し、気持ちだけが前進していく。
音のない、自分だけの独創世界に浸っていた。
実は、この瞬間が好きだ。始まる前に劇場が暗くなる瞬間とか、もう心に楽しみの気持ちしかないその瞬間が、至福だったりする。
アメリアは、さっきまでの彼女とは違い、集中し鍵盤と対峙している。
ルフくんは、バイオリンをゆっくりと当てた。
アメリアの細い指が動き出した。
短い節の、夜空を映すような優しい前奏が音楽室を包み込む。
そこへ、語りかけるようにバイオリンが入ってくる。
2人の世界に入っていった。観客はそれに飲み込まれるようにして聞いていた。
語りかけるようなバイオリンを、流星のように綺麗なピアノの音色は優しく包み込む。
幻想的だ。
音楽室は、スーッと、暗くなり、天井はプラネタリウムのように、星空の景色に包まれた。そして、私たちの前には、青色の小さな湖が澄み渡っていた。 寂しそうに浮かんでいる小さな島には一本のケヤキ、隣に大きなグランドピアノ。音符を空にプレゼントするように鍵盤を引くアメリアがいた。ルフくんはその世界に祈りを込めて奏で続ける。
素敵。
本当に、綺麗。
バイオリンを弾く仕草も。
その、眼差しも。
本当に・・・。
アメリアの最後のワンタッチで、拍手が巻き起こった。同時に今まで何も無かったように現実の、音楽室の世界に戻された。
大きな拍手が沸き起こった。
・王様の感情によって、世界の情景は変わる。王様に近ければ近いほど、その影響は大きい。
やっぱり。
王様は。
このクラスの、誰かだ。
「じゃあ、今日もメニューは終わりねー」
「きりつれーあしたー」
みんなは急ぎ足で音楽室から消えていった。