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夏のホラー2023『帰り道』

辻斬り

作者: 家紋 武範

 森但馬守(もりたじまのかみ)は規律に厳しい大名であった。その家臣である井村某が刀を買った。

 無銘ではあるものの、凡刀には見えずかなりの業物。十両と言われたが、なんとか八両まで値を下げてもらった。


 さて刀を買ったものの、平和の世である。これ程のものを使わないというのも宝の持ち腐れ。

 井村は腰に下げるだけに飽き足らず、うずうずと刀を試したいという欲に囚われ始め、その気持ちが最頂点に達したある日、辻斬りを敢行しようと思い立った。


 物陰に隠れ、裏通りを通る酔客に一撃を与えて切れ味を試す。

 外してはならない。声でも上げられたらすぐに後ろに手が回り、主君に知れたら河原に首を晒されるであろう。

 そう思っても井村は思い止まらず、柄に手を掛けて酔客を待った。


 しばらくすると、しゃっくりをしながら提灯片手に男がやって来る。手拭いを頭に巻いた町人だ。


 これはしめた! と思い、胸を高鳴らせて男を待つ。男はあっちにふらふら、こっちにふらふら。

 早く来い、と願うものの今度は少し手前で大堀に小便である。


 井村は呼吸を悟られまいと息を殺し、男の小便が切れるのを待った。

 やがて男は体を震わし、提灯を持ち直して井村のほうに来る。


 井村は、騒がれないように、男の首を切ろう、首を切ろうと心の中で復唱する。自身も大きな音を立ててはいけない。少しの間違いがあったら晒し首だ。


 武者震いが寄り掛かる材木を揺らす。井村はそっと材木から離れて、辻に向かって居合の構えである。


 ややもすると、男が体を揺すって井村の潜む道に差し掛かる。


「ーーーーーー!!!!」


 井村は思い切って、男に切りかかり、その首を全力の力で振り抜いて落とした。




 と思ったが、落ちていたのは井村の腕と刀である。続いて井村の首も──。


 酔客は小太刀をしまって、倒れている井村の懐を物色する。


「なるほど、財布に刀の大小か。ほう、こりゃ業物だ。売れば十両にはなるな。これだから辻斬りは止められん」


 そう言って森但馬守(・・・・)は荷物を持ち去ってしまった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初の一行と最後の一行が全てを持っていく爽快感、まさに切れ味バツグンです! [気になる点] 何もありません。 [一言] 時代物には私も興味を持っていまして、初期の必殺シリーズなんか大好物な…
[良い点] 一体何が起きた? と思ったら。 想像の上を行くオチ、面白かったです(*^_^*) 「厳格な」人ほど、その抑圧は怖いものかもしれません。 [一言] ちゃら~ん♪(またまた参上) 座布団…
[良い点] このあと、井村某家から当主の死亡届けがなされたとき死因を徹底的に調べさせて難癖をつけて家禄を削ると、藩の財政も少しだけ潤うのでしょうね。  
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