第7話 道場での再会
アサカはサキとともに久しぶりに町の市場に来ていた。そこはいつものようににぎわい、人であふれていた。2人はそこで食料などを買い込んだ。
「これだけあれば当分は大丈夫でしょう。重いものは配達するように頼みましたし」
「はい。お嬢様。」
「いえ、ユリと呼んで。その呼び方はおかしいわ」
「はい。お嬢様、いえ、ユリさん。慣れないもので」
「すまないけど先に帰ってくれるかしら。ちょっと寄るところがあって・・・」
アサカはサキと別れてスザキ道場に向かった。久しぶりに見る道場の様子はかなり変わってしまっていた。そこは往時の面影もなく、ひっそりと静まり返っていた。門をくぐると、そこには木刀を振るウルとそれを見守るオジカの姿があった。
「お嬢様!」「姉上!」
アサカに気づいて2人が駆け寄ってきた。久しぶりに顔を合わせたアサカに2人は喜んでいた。
「すまなかったわね、急に姿を隠して・・・」
「心配しておりました。一体、今までどこに?」
「ダンロー様のところに」
「やはり・・・」
オジカにはうすうすわかっていた。こんなことになっては身を寄せるのはダンロー様のところしかないと・・・。
「しかしよかったです。ダンロー様が受け入れてくださって・・・」
「いえ、そうではないのです。ダンロー様には黙って、知られないように使用人として働いているのです。事情をお知りになって心配させないように」
「そんな・・・お嬢様が下働きなど・・・おいたわしや・・・」
嘆くオジカにアサカは笑顔を作っていった。
「毎日は楽しいのよ。でもダンロー様にはばれてしまいましたけど。それでも無理に居座っているのですよ」
「お嬢様・・・」
「それよりもウルの腕が上達したようですね」
アサカの言葉にウルはうれしそうに笑みを浮かべた。
「オジカが毎日鍛えてくれているのです」
「この調子で頑張りなさい。あなたにはこの道場の未来がかかっているのです」
「はいっ!」
アサカはウルの元気な様子に大きくうなずくと、オジカの方に顔を向けた。
「オジカもよくやってくれています。礼を言います」
「そんな・・・私など・・・」
「いいえ、オジカがいてくれたからこそこの道場はまだ看板を掲げていられるのです」
「お嬢様のことを思えば、私のことなど・・・」
「私はもう姿を隠すしかなかったのです。それよりどうなったかを知りたくて。私がいない間に」
「わかりました。中でお話ししましょう。ウル様はそのまま素振りをお続けください」
アサカとオジカは道場の奥の間に入って行った。
部屋に入ると2人は静かに向かい合って座った。部屋の中には重苦しい空気が漂っていた。
「ゲキ大臣からは何か言ってきましたか?」
「はい。お嬢様の返事はどうだとか・・・不在ということで引き延ばしておりますが」
「やはりゲキ大臣の要求は変わっていないのですね」
「はい。それを飲まぬ限り道場の存続はないと・・・」
それを聞いてアサカはため息をついて窓の外を見た。そこからは国境の山々が望めた。そこにはあのダンローの屋敷がある。
「私も覚悟を決めねばなりませんね」
「お嬢様・・・」
「いえ、いいのです。でもまだしばらくは・・・」
アサカは目を伏せてそう言った。その様子にオジカはかける言葉がなかった。