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第6話 スザキ道場

 サラク国で最も権威がある剣術道場と言えば、それはスザキ道場だった。しかしそこは今や、閑古鳥が鳴いていた。あれほど多くの門弟がいたはずだが、最近は誰も寄り付かなくなっていた。

 それは最近、道場主のイサカ公爵が亡くなり、その娘のアサカも姿をくらませたからだった。そこには古くから仕えるオジカとイサカ公爵の幼い嫡子のウルしかいなかった。

 だからといってこの歴史ある道場を畳むわけにはいかなかった。まだ空位の道場主の座に形だけでもウルが就き、周りの者が補佐すれば立ち直るとオジカは信じていた。だがそれには一つの問題があった。この国では道場主が代わるときに届けを出して了承されなければならないのだ。それがいまだに承認されないのだ。


(次席大臣のゲキ様が嫌がらせをしている・・・)


 オジカはそうにらんでいた。元々、亡くなったイサカ公爵は首席大臣のビゼンと仲が良く、さまざまな相談を受けていた。それを根に持っているのかもしれない。以前、アサカたち道場の者がゲキ大臣に陳情したがはねのけられてしまった。


「まだ幼いウルでは道場主として心もとない。その腕も確かではなかろう」


 ゲキにそう答えられるとどうもできなかった。だからオジカはウルを一人前の剣士とするために修業をさせるしかなかった。今日も朝からオジカはウルの相手をしていた。木刀で打ち込んでくるウルをいなしながら、打ち据えていた。ウルは木刀を落としてその場に転んでいた。


「ウル様! しっかりなされよ! これしきの事でどうします!」


 そのオジカの言葉にウルはまた立ち上がって木刀を打ち込んでくる。この幼いウルにゲキに認めさせるほどの腕を身につけさせることなど無理かもしれなかった。それならばアサカ様に・・・と思うも、女の道場主などゲキが認めるとは思えなかった。それよりもっと恐れるのはゲキが自分の息がかかった者をこの道場主に送り込み。乗っ取ってしまうことだった。それを思うと心を鬼にしてもウルを鍛えるしかない。


「ウル様! もっと強く! もっと力を籠めるのです!」


 オジカはウルを鍛え続けた。彼はいなくなったアサカのことを憂いことすれ、恨むことはなかった。あのような無理を強いられては・・・。


 ◇


 次の日の朝、老人はジンベの足の状態を診た。腫れはかなり引いているようだった。


「ずいぶんよくなられた」

「おかげ様です。少しずつ痛みも引いております」

「無理は禁物じゃ。よいかな」

「それはもうわかっております。ユリさんやサキに任せておりますから」


 ジンベはそう言ってうなずいた。話のついでに老人は昨夜から気になったことをジンベから聞き出そうと思った。幸い、アサカは買い出しでサキとともに町に出ていてこの家にいなかった。


「ジンベさん。申し訳ないが昨夜の話を聞いてしまった。ユリさんは偽名でアサカという名があるのですね」

「いや、それは・・・」


 ジンベはごまかそうとしたが、老人は微笑みながら言葉を続けた。


「いや、あの方はただの使用人ではないと思っておりました。ここに来たのが何かの縁。誰にも言わぬゆえ教えてくれぬか。いらぬことを言ってダンロー様のご不興を買ってはまずいからの」


 ジンベはそう言われて仕方なく話し出した。


「私から聞いたとは言わないでくださいよ。ユリさん、いやアサカ様はこの国で最も権威あるスザキ道場のご令嬢なのです。ダンロー様も幼き頃からその道場に通われ、剣の腕を磨かれました。それが縁でダンロー様とアサカ様はご婚約となったのです」

「ほう。しかしそれがどうして?」

「それがダンロー様は師範代のエザキ様といさかいになり、斬り倒しになったのです。それが申し開きの機会もなく、私闘ということで咎めを受けて、ダンロー様は次席大臣のゲキ様から城下追放を言い渡されました。道場の方も破門、アサカ様との縁談は破談となったのです」


 ジンベはそう話した。老人はさらに尋ねてみた。


「それなのにアサカ様はどうしてここに来られたのですかな。それも使用人として」

「それはよくわかりません。幼いころに知り合われて、心が通じ合われているのでございましょう。それがあのような形で・・・。アサカ様はご自分の立場上、軽はずみなことはできますまい。それで名を隠してダンロー様のそばに参られたのかもしれません。それを思うとおいたわしくて・・・・。アサカ様からこの家の使用人にと頼まれて断れなかったのでございます。もちろんダンロー様に知れればアサカ様は追い出されるでしょう。だからダンロー様にも黙って・・・。」


 ジンベは知っていることをすべて老人に話した。昨夜のダンローの様子を見ても、彼もまたアサカのことが忘れられないのに違いないと老人は思った。お互いを思い合う二人を引き離すことは残酷であった。


「そうでしたか。しかしなんとかお二人を一緒にさせることはできませんかな?」

「さあ、それは・・・。私にはわかりません」


 ジンベはため息をついてそう言った。


読んでいただきましてありがとうございます。

感想、評価、ブックマークなどいただきましたら、励みにさせていただきます。

今後ともよろしくお願いいたします。


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