第3話 次席大臣ゲキ
その屋敷の主人、ダンローは森の中で人と会っていた。それは首席大臣であるビゼンからの使いの者だった。誰にも見つからないように人のいない場所で会う必要があったのだ。そこは木々が生い茂り、ひっそりと静まり返っていた。
使いの者はビゼン大臣からの密書をダンローに渡した。
「ダンロー様。これを」
「うむ。よく集めてくれた。これらを王様に見せればゲキも言い逃れできまい。ところでトージ。お城の様子はどうだ?」
「相変わらず、ゲキが我が物顔でふるまっております。ビゼン様でももう抑えられませぬ」
「そうか。なんとかせねばならんな」
「ダンロー様が一日も早く復帰され、政に参加されるのを待っております。そうならなければこの国はゲキの物になってしまいます」
「確かにそうだが・・・。私は罰を受けている身。王様に事の仔細を話してお許しいただくしかない。王様の帰国は近いと聞いているが」
「私もそれに期待しております。王様がおられれば・・・。しかし王様のご帰国の日時は不明です」
「そうか・・・」
王様がこの地に向かわれている情報は入ってきている。しかし首都ゼロクロスは遠い。帰国までに次席大臣のゲキが陰謀を巡らし、すべての反対派を排除して王様でもどうにもできない状態にしてしまうことが十分、考えられた。城下追放の身のダンローにはため息をつくしかなかった。
◇
王様不在の間、次席大臣のゲキがこの国で権勢をふるっていた。他国との貿易を取り仕切り、商人から賂を受け取って私服を肥やし、勝手に領民から高い税を取り立てて我がものとしていた。そんなことができたのも首席大臣のビゼンが病がちであり、その間に自分の一派を重要な役目につけることができたからだった。
そうなるとゲキ大臣の野望は大きくなった。彼の目指すのはこの国の乗っ取りだった。力づくでラゴン王を廃し、自らが王となろうというのだ。彼は以前の功で王家の一員に列せられており、それは可能だった。そのため密かに私兵を集めていた。
(事が成れば、後は何とでもなる。首都ゼロクロスから離れているこの地では連邦評議会の目も届くまい。いくら最高顧問のハークレイ法師であっても手が出せぬであろう。王がいない間に準備を進めるのだ)
ゲキ大臣はそう考えていた。だが彼にも目の上のたん瘤があった。それは王家に連なる血筋のダンローだった。正々堂々と正論を述べ、ゲキの専横を押しとどめようとした。しかもまずいことに人望もあり、他の家臣がダンローに同調する動きを見せた。自分の権力ですぐにでも政の場から除きたかったが、ダンローは王家の血につながる者でもあり、いくらゲキ大臣でも無理な動きができなかった。
(ならば策を用いて・・・)
その策は見事に当たりダンローに罪を着せることで、ようやく城下追放にすることができた。しかし王様が戻られて事情を知ればすぐに罪を許され戻ってくるであろう。そうなればこちらの身が危ない・・・ゲキ大臣はそう思っていた。
そんなところにビゼン大臣の周囲を探らせている配下のドランが報告に来た。
「ビゼン配下のトージがダンローと密かに接触しております」
人気のない山中でダンローがトージと会っていることは見られていたのだ。
「なに! ダンローが! 奴ら、何を企てているか・・・」
行動力のあるダンローのことだ。こちらの陰謀をつかんでいるのかもしれない。もし厄介なことにでもなったら・・・ゲキ大臣は考え込んだ。
「ゲキ様。こうなったら一思いに・・・」
「ふむ! それがよかろう。 奴は王様に直訴するかもしれぬ。そうなればこちらが危ない。奴を早々に始末するしかない。すぐに刺客を送れ。山の中では誰にやられたかは足がつくまい。だが奴は竜骨剣流の使い手。こちらもただではすまぬ。注意してかかれ」
「はっ。そこは抜かりなく。手練れの者を集めまする」
ドランはそう言って出て行った。
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