表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

チャレンジ

時計が司る 私の絶対時間

――みんなで、日の出を見に行こう。


中学時代の友人と、そう約束した。ただし、集合時間は、3時・・・。


うーん。午前3時かぁ。


寝過ごすわけにはいかないっ。目覚まし時計は、2時にセットした。


だけれども、その時間って、両親は、寝てるのよね。起こしたくないっ。


出来たら、目覚ましより先に起きたいって思う。私って、いい子だな。


そして、私の目が覚めたのは、1時58分。目覚ましより前に起きて、両親を起こさない。そんな固い意思がそうさせたと言えば、カッコいいけれど、実は、トイレに行きたくなっただけ。


寒いので、お布団の中から出るのが、ちょっとツラいけれど、それでも勢いをつけてベッドから飛び降りる。


――痛っ


何ということだろう。ベッドから飛び降りた瞬間、タンスの角に、右足の小指を打ち付けてしまった。


涙が出そうな痛みをこらえる。トイレに行きたいっ。痛いっ。


その瞬間である。


――カチリッ


時計の針が動く音が聞こえる。


私は、ゾーンに入った気がした。


何もかもを感じ取ることが出来るエンペラータイム…絶対時間っ。ゾーンだ。


ゾーンに入ると、集中力が非常に高まり、周りの景色や音などが意識の外に排除される。自分の感覚だけが研ぎ澄まされ、活動に没頭できる特殊な意識状態。例えば、テニスの大坂なおみ選手であれば、ゾーンに入った時、相手から打ち出される200キロを超えるスピードのボールであっても、印字されたメーカーの文字を読みとることが出来るという。


ゾーンに入った私は、小さな物音さえ逃しはしない。


チクタクとなる秒針の音。その音が、2時にセットされた目覚ましの時間が、近づいてきているのを感じさせる。


――急げっ。ジリリンという音が鳴る前に。


目覚まし時計の音で、両親を起こすわけにはいかない。


足の小指の痛みを押し殺し、目覚ましへと手を伸ばす。二度寝防止機能があるため、すぐには解除できない。時計の裏のつまみを回す必要があるのだ。


やっとのことで右手が目覚ましを掴んだ。裏返しつまみを回すっ!止まった…1時59分59秒。もう、目覚ましが鳴ることは無い。私は、ホッと安堵した。


その時である。


絶対時間が解けたことを、私は理解してしまった。目覚ましのつまみは、私が入っていたゾーンをも、解除したのだ。


ふとももの辺りに、生温かさを感じる。


――そうだ。私の絶対時間は解けてしまったのだ。


そして、大切な何かは決壊し、足元でチョロチョロという音が床に響いた。

文字数(空白・改行含まない):1000字

こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ