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91 欲しいのは普通の大豆

 聖なる大豆については秘密厳守とあっさり決まった。下手に世に出すと、製作者のマリナがケイの二の舞になる。美人聖女のマリナは今でさえ、王族貴族や神殿からのお誘いが絶えないのだ。更に価値が上がったら手段を選ばない輩が出てくると、究極の回復魔法についても箝口令が敷かれた。


 だけど普通の大豆は手に入れたい。ルカの部屋で、聖なる大豆をプランター栽培する案も出されたが、それは最終手段だ。ひとまずポーション系で、マリナと同じように煎り豆を癒せないか実験することになった。

 テーブルには、各種回復薬がズラリと並べられている。そして回復薬の前には、2粒ずつ煎り豆を入れた小皿が並んでいる。


「これ、掛けるだけで良いのかな」

「まずは掛けてみて、ルカが鑑定。何も反応が無かったら、今度は回復薬に漬けて様子を見れば良いんじゃないか?」

「色々試してみれば良いよ!」

 

 真っ先にエリクサーの瓶の栓を、キュポンと開けたユウキ。回復薬は開けると直ぐに使わなければ、少しずつ効力が失われてゆく。エリクサーを無駄にするのはもったいないと、ケイがユウキから瓶を取り上げて、慎重に煎り豆に振り掛けた。特に反応は無い。


「エリクサーが駄目だと、他も駄目そうだけど……」

「見た目に変化が無くても、何か変わってるかもしれないだろ。ほら鑑定!」


 エリクサーは煎り豆を癒やしてくれていなかった。煎り豆の鑑定結果に変わりはない。次々と別の回復薬を掛けたものも鑑定してみたが、同じ鑑定結果ばかりを見ることになった。


「駄目だね。どれも変化なし」

「何種類か回復薬を混ぜてみる?」

「全部混ぜよう。それでも変化が無かったら、回復薬掛けただけじゃ効果が無いって事だ」

「他の回復魔法は?マリナは規格外だから、ソウマが試してみて」

「やってみるけど、僕が使える回復魔法は多くないよ?」


 アランにも試してもらったが、回復魔法は全滅だった。全種類混ぜた回復薬も効果なし。実験は、今日のところは失敗に終わった。あとは各種回復薬に漬け込んだ煎り豆が変化するか、経過観察だ。


「ま、こんな日もあるさ。何もかも順調にいく方が珍しい」

「とりあえず1粒だけ、聖なる大豆を育ててみるよ。大豆って実が成るのに何ヶ月掛かるんだろ」

「ええと、春に蒔いて、枝豆は夏に採ってたから3ヶ月くらいかな?大豆として収穫するなら更に時間が掛かるよね」

「普通の大豆ならな。でもこれは普通じゃない大豆だから、育ててみないと分かんないだろ」

「だよねー。上手く育てられるか自信ないけど、頑張ってみる」

「お前、理科で育てた植物全部枯らせてたもんな」


 ユウキ達は近々、海中ダンジョン調査のために王都を離れる。聖なる大豆を育てるのはルカの仕事だ。だがルカは、小学校で育てていた朝顔もミニトマトもヘチマも枯らせてしまった経歴の持ち主だ。園芸書を隅々まで熟読し、書かれた通りに世話をしたのにだ。


「大丈夫、私も一緒に育てますよ、ルカさん」

「ありがとうございます、アラン先生」

「子育ての予行演習だと思って、大事に育てましょうね!」

「……」


 また反応に困ることを言う。


「……ええと、今日はこの位にして帰ろうか」

「待って!夕ご飯食べてって!あとユウキとマリナは置いてって!」

「お泊り?するする!また暫くルカとは会えなくなるし!女子会しよう!」


 ユウキ、ありがとう大好きだよ!意外と空気が読めるのに、敢えて読めない振りしてくれて感謝してる!


 ユウキへの感謝の意を表明するために、夕食はユウキの大好きな唐揚げと、甜麺醤のスープにした。揚げ物は面倒だけど、アランが手伝ってくれると苦にならない。手際が良い上に勘も良いので、調理がスムーズに進むのだ。


 唐揚げの衣は薄力粉と片栗粉を半々にした。この片栗粉、昨日偶然ソウマが見つけたものだとか。こちらでは見ないなと思っていたら、ポテトフラワーという名称で売られていたらしい。片栗粉は本来カタクリの地下茎から作ったデンプンだが、現代日本で売られていた物はジャガイモから取ったデンプンがほとんどだ。ポテト(ジャガイモ)のフラワー(小麦粉)で、片栗粉じゃないかと購入したそうだ。


「片栗粉、欲しかったんだよ。和菓子作るのに色々使えるからね」

「わらび餅食べたくなってきた」

「他にも──」


 唐揚げを揚げながら和菓子の話になり掛けたが、ソウマが急に口を噤んでしまった。二度揚げ中の唐揚げから目を離して横を見ると、アランが何事も無かったかのようにニコリと笑顔を見せる。その向こうでソウマも一応笑っている。


「揚げ物中によそ見をすると、危ないですよ?」

「あ、はい」


 ルカは唐揚げに目を戻した。


「普通の大豆が収穫出来たら、きな粉にしてわらび餅に掛けようね、ソウマ」

「うん……」

「もち米が見つかれば、きな粉餅も作れたのにねー」

「ソウデスネ……」


 ユウキを真似て、敢えて空気を読まずにソウマに話し掛けるルカ。ソウマの声が少しずつ遠くなった。1歩ずつ後退しているらしい。


 ごめんねソウマ、でも私、ソウマの作る和菓子を諦めるつもりは無いんだ。自分で作る和菓子より格段に美味しいから。ソウマの和菓子だけは規制なく食べて良いって約束だし。


 ルカは、甘味のためなら手段を選ばなかった。それだけソウマの作る、本職に劣らぬ和菓子は美味なのだ。

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