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85 海中ダンジョン探索依頼

 仕事が終わったルカを待っていたのは、アランと仲間達だった。アランは、まあ──予想通りというか、昼食時に迎えに来ると予告されていたのだが、ユウキ達が一緒なのは何故だろう。


「その、申し訳無いんだけど、またキッチンを貸して欲しいんだ」


 尋ねる前にソウマが答えをくれた。またしても指名依頼が入ったそうで、前回と同じく弁当のストックを作りたいのだとか。


「良いけど続くね」

「うん。暫く王都でのんびりする予定だったんだけどね」


 今回は隣国で新しく発見された海中ダンジョンの調査依頼なのだそうだ。依頼主は隣国と冒険者ギルド。新発見のダンジョン調査は、大抵この2つが合同で調査依頼を出す。しかし慣例としては、もっとベテランの冒険者に依頼するものなのだが。


「どうせアラン様が俺達を推薦したんだろ」

「ご明察です、ケイ君!」

「え、何でまた」

「俺達をルカから引き離したいからに決まってんだろうが。だからってこんな高ランクの依頼、よく冒険者ギルドが許可したよな」


 そう、発見されたばかりで手付かずのダンジョンに潜るには、ユウキ達では経験が足りない。内部の環境も出現モンスターも危険度も、何も分からない新ダンジョンなのだ。

 

「マリナさんほどの結界を長時間張れる人は、なかなか居ませんので。今回の依頼は、マリナさん個人への指名依頼のような物なのです」


 そのダンジョンが発見されたのは偶然ではなく、ユウキ達が以前遭遇した突発的魔物大量発生(スタンピート)の発生元を特定するための探索で見つかったらしい。しかもかなり深い海底にある。到達するだけでも結界が必要なうえ、何かの拍子に海中に放り出されでもしたら、水圧でペシャンコだ。それを防ぐためにも、高度な結界が必須のダンジョン探索なんだとか。


「マリナ、きみの負担がかなり重そうだ。嫌なら断るけど、どうする?」


 アランの話を聞くうちに心配になったのだろう、ソウマがマリナに確認をとる。マリナは穏やかな笑顔で言い切った。


「大丈夫です、やりましょう」

「良いの?」

「はい。この依頼を受ければ、昆布をまた確保出来そうですから」

「昆布……もしかして残り少ない?」

「まだ数はありますけど、手に入れた時と比べると半減しています。今のペースで使い続けるには心許ないです」

「あー、ユウキが出汁茶漬けに嵌ってるもんなー」

「自分だって食べてるじゃん!」


 話を聞きながら、ルカは手持ちの和風出汁用昆布の在庫をざっと数えてみた。ルカの分もかなり減っていた。何だかんだ和風出汁は出番が多いし、醤油パックと比べるとお気楽に使ってしまっていた。


「じゃあ、このまま受注することにして。ルカ、やっぱりキッチン貸して」

「良いよー。いつ使う?」

「出来れば明日。出発まで日がなくて」

「ああ、厳しいようならヒューバートに伝えて予定をずらせますよ」


 何と今回、アランの仲間の大賢者ヒューバートも同行するらしい。海中ダンジョンは珍しく、海の魔物は陸より強いものが多いので、安全確保のための特別措置なのだそうだ。それにハオランも同行するのだとか。熟練レンジャーのハオランは、トラップや仕掛けの解除が得意だと聞く。鉄壁の布陣である。


 大賢者様の予定を変えさせるなんてとんでもない。ユウキ達が全力で日程はそのままでと懇願したので、予定変更とはならなかった。つまりは厳しい日程のままである。となると、やはり明日1日を弁当作りに費やしたいとのことで、ルカは快く了承した。


「あ、でも私、明日も仕事だから手伝えないよ」

「そんなの気にしないで。キッチン貸してもらうだけで助かってるんだから。ああ、預かってる合鍵で勝手に入って良い?」

「おや?ソウマ君は、ルカさんのお家の鍵を預かってるのですか?」


 話がまとまりかけたのに、このタイミングで余計な事を知られてしまった。アランが胡乱な目でソウマを見ている。単に何かあった時のために預かってもらっているだけで、深い意味はないのだが。実際にルカの家の合鍵を保管しているのはマリナだし。


 しかしアランにそんな言い訳は通用しない。


「ルカさん、やはり家の鍵を付け替えなければいけません」

「それは駄目ですってば」

「では玄関扉に魔法を掛けます。ルカさんの許可なく家に侵入しようとした輩は黒焦げです」

「アラン先生、自分の今日の行動を振り返ってみてください」


 食材を買い出しに行く皆と別れ、アランとともに家路につく。これから色々と話し合いだ。今日一日だけで、アランと話さなければならない事が山積みだ。

 

「今日はルカさんが仕事だったので、ずっと一緒に居られなくて悲しかったです。冒険者ギルドに転職してきて良いですか」

「私はもっと別の部分を振り返って欲しかったんですが」

「でもルカさんの家の合鍵を手に入れたので、良い1日だったと言えます」

「守衛さんに返しに行きますよ!」


 寮の共同玄関脇にある管理人室で守衛に合鍵を返却しようとしたが、首が取れそうな勢いでブルブルと拒絶された。アランにめちゃくちゃ怯えている。何をしたんですか?


「特に何も。ちょっとお願いしただけですよ?」


 竜人のお願いという名の脅迫が、行われたようだ。守衛に平謝りしておいて、ルカはアランを部屋に引っ張り込んだ。色々色々話し合いをしなければ。

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