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83 竜人の評判

 2週間振りになる冒険者ギルドへの出勤日。ルカは一応挨拶がてら色々報告しなければと、真っ先にギルドマスターの部屋へと足を運んだ。だがギルドマスターは朝から王宮に呼ばれたらしく、留守だった。


「勇者アランが竜人だって件で呼ばれたみたいだよ」


 留守を預かる副ギルドマスターが教えてくれて、ルカは午前中の業務をソワソワしながらやり過ごした。そして昼前にギルドマスターが帰って来たと聞き、ギルドマスターの部屋に突撃した。


「あの、アラン先生絡みで王宮に呼ばれたって聞きました!」


 挨拶もそこそこに詰め寄ったルカに、ギルドマスターが手で座るように示す。ルカが応接用のソファに腰掛けると、対面にギルドマスターがドッカリと座った。


「確かに王宮には呼ばれたが、心配するような事は無い。ギルドの職員に命を大事にするよう念押ししとけと言われただけだ」

「ええと、それがどうアラン先生と関係が?」

「あー、お前さん知らんのか。道理で落ち着いとると思ったら」


 何の話だろうと疑問符を浮かべたルカに、ギルドマスターは世間の常識を教えてくれる。


「あのな、竜人ってのは厄介な種族なんだ。番を見つけた竜人は特にな。竜人同士なら問題無いんだが、片方が他種族だとトラブルになる事が多々あってな」


 執着心と嫉妬心が強く、番以外には冷酷だといわれる竜人は、僅かでも番が傷付けられたり番と引き離されたと感じると、見境が無くなると恐れられているらしい。特に、初代魔王だった竜人の悪行が有名で、幼子が悪さをしていると『竜王が攫いに来るぞ』等と脅し文句に使われる程だとか。


「初代の魔王って、何やらかしたんですか?」

「他国の姫が番だと気付いて、勝手に攫って行ったのさ。それだけならまだしも、姫を取り返しに来た兵士達を皆殺しにし、姫との結婚を認めなかった姫の家族を城ごと焼き殺してな」

「それは酷いですね」

「いや、本当に酷いのはここからだ。自分のせいでと嘆いた姫が、身を投げて死んじまって。魔王は番を喪って狂い、暴れ回って姫の国と自分の国を焦土と化した。それが現在の魔王領だ」


 予想より酷い話だった。魔王領は草木もほとんど育たないと言うが、初代魔王が領土を焼き尽くしたからか。そりゃあ恐れられるわ。


「だけど、アラン先生はそんな酷い事しませんよ」

「ああ、ワシもそう思う。だが、竜人ってだけで必要以上に怖がる者も居るからな。アラン殿を刺激しないよう、お前さんにチョッカイ掛けるような者は排除しとけ、とも言っておった」

「その理屈だと、王侯貴族が真っ先に排除対象ですよ」


 自分達の事を棚に上げて、よく言う。冒険者ギルドの職員は、皆ルカに親切だ。たまに子ども扱いされて悔しい事もあるが、その程度なら許容範囲だ。ルカの料理を美味しいと食べてくれて、お返しにとお菓子をポケットに入れてくれて、同僚達は基本そんな善良な人達だ。アランを怒らせるような事をするはずが無い。

 ルカの言葉に、ギルドマスターも深く同意した。


「ははは、違いねえな。ウチの職員は人柄重視で選んでるからな。それよりも、お前さん自身は大丈夫か?竜人の番はストレス溜まりそうだからな。初めのうちは良いが、だんだん堪えられなくなって精神を病む番も多いし」

「そうなんですか?」

「四六時中ベッタリくっつかれて監視され、やれ彼奴とは話すなとか、目を合わせるなとか、いちいち口出しされてりゃな。仕事どころか人付き合いもままならないだろ。そういやあ、ここの仕事は続けてくれるのか?」

「はい、今のところ、仕事は続けるつもりでいます」

「ウチとしては有り難いが、アラン殿は納得してるのか?」

「……一応は」


 実はアランには仕事を辞めて欲しいとお願いされた。だが、ルカは冒険者ギルドの仕事が好きだし、ただでさえ世間知らずなのに仕事を辞めたら常識さえ分からなくなるからと、今後も仕事は続けたいとゴリ押しした。正直に言えば、仕事を辞めてしまうと監禁コース一直線な気がして、回避したかったのだ。インドア派のルカは少々家から出なくても苦にはならないが、出ないのと出られないのとではやはり違うので。


「なるべく長いこと仕事が続けられるよう、頑張ってくれ。出勤日を減らしたり、勤務時間を短縮したりも対応するからな」

「ありがとうございます」

「まあ、お前さんなら監禁されてものほほんとしてそうだが」

「……監禁は既定路線なんですか?」

「あー、アラン殿を不安にさせなきゃ、たぶん、きっと……おそらく監禁まではいかねー、と思いたい所だが」


 なんて心強い言葉だろうか。嘘でも監禁は無いと言って欲しかった。ここで正直さとか要らない。心の拠り所が欲しかった。


「ま、アラン殿は純血の竜人じゃないんだろ?だったらきっと大丈夫だ。ほれ、噂をすればアラン殿だ。ちょうど昼だし、一緒に飯でも食ってこい」


 いつの間にか、戸口にバスケットを提げたアランが立っていた。いつから居たのだろう。何か用事があるのでは?


「用事が無くても来るだろ、竜人なら」

「用事ならありますよ。婚約者にお昼ご飯を届けに来ました」


 アランが手にしたバスケットを指差して、ニコニコとルカを手招いた。

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