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77 照り焼きチキン

 王都に戻って来たルカ達は、その足で冒険者ギルドに立ち寄った。ユウキ達が辺境伯領に行ったのはアランの指名依頼を受けてのことだったので、その達成報告のためだ。

 ルカは別に同行する必要は無かったが、何となく皆に付いて行った。そして、家に直行すれば良かったと後悔した。冒険者ギルドの建物に入った途端、ギルド職員だけでなく近くに居た冒険者達にまで囲まれたためである。


「ルカちゃん、婚約したって本当?」

「相手はアラン様だって聞いたけど、事実なの?」

「むしろ、まだ婚約してなかったのにビックリしたんだけど!」

「あれ?今回の旅行って新婚旅行だったんじゃ」

「結婚したら仕事は辞めちゃうの!?」


 さすが冒険者ギルド、情報が回るのが早過ぎる。ルカがアワアワしていると、アランがルカの肩を抱き寄せて、よく通る大きな声で宣言した。


「私とルカさんの婚約は事実です。ルカさんが成人するのを待って、結婚する予定でいます。その他の事はこれから2人で話し合って決めますので、そっとしておいて下さい」

「アラン様が、その……」

「私が竜人の血を引いているのも本当です。竜人の伴侶に何かあれば……冒険者の皆さんならご存知ですよね?」

 

 ルカとアランを囲んでいた輪がザッと広がった。祝いの言葉と共にぱらぱらと人垣が崩れてゆく。これでもう、アランとの婚約は確実なものになってしまった。着々と退路を断たれている気がするのは気のせいだろうか。


「ルカさん、私と一緒で良かったですね。ルカさんだけだと色々質問攻めになってましたよ」

「そうですね……?」

「これからの事を話し合いたいので、このままルカさんのお宅にお邪魔しても良いですか?」


 あれこれと口裏を合わせたいという事か。ルカはそう判断し、迷った末にコクリと頷いた。そこに依頼達成の届けを提出したユウキ達が合流する。


「ルカー、ルカん家で夕ごはん作っても良いー?」

「あ、ええと、私は良いけど」


 アランを見上げると、にっこりと笑い返された。アランと2人きりにならずに済んで、ルカは正直ホッとする。用事があるというハオランだけが抜けて、残りの全員でルカの家に向かうこととなった。


「久しぶりにお醤油使いたい!あとお肉!お肉食べたい!」


 道々の話題は夕食のメニューを何にするかだ。こういう時は何でも良いよが一番困るのだが、いつもユウキがハッキリ希望を言ってくれるので有り難い。


「お醤油と肉かー。肉じゃがは?」

「うーん、それも良いけど、もっとガッツリお肉!ってメニューが良いなー」

「照り焼きは如何ですか?」

「マリナ、それ最高!」


 特に異存は出なかったので、夕食のメニューは照り焼きに決定だ。家に着いて直ぐ、ルカ達は料理を開始した。


 照り焼きといえば、やっぱり照り焼きチキンでしょうという事で、鶏もも肉を用意。辺境伯家に持って行ったけど使わなかったので、たくさんあるのだ。皮にフォークでプスプス穴を開け、厚さが均等になるよう分厚い部分に切れ目を入れて開いておく。

 その間にケイが照り焼きのタレを作ってくれた。辺境伯家に滞在中も醤油パックを増やしていたようで、ボウルに醤油パックを次々と開けてゆく。そこに砂糖と和風だし、ワインビネガーを入れたのを見咎め、ルカは声を上げた。


「え?照り焼きのタレにワインビネガー入れるの?」

「ああ」

「ウチでは醤油と砂糖とみりんだったよ」

「そう」


 ケイは昨日から口数が少ない。ルカが首を傾げていると、向かいで汁物を作っていたソウマが、取りなすように会話に加わった。


「ウチも照り焼きのタレに穀物酢を入れてたよ。さっぱりして美味しいんだ」

「そうなんだ。知らなかった」


 鶏もも肉に薄力粉を薄くまぶし、フライパンに油を多めに入れて、鶏もも肉を皮目から焼く。油を多めにしたのは皮をパリッと揚げ焼きにするためだ。皮にこんがり焼き色がついたらひっくり返し、中まで火を通す。鶏もも肉から出た余分な油を取り除き、照り焼きのタレをフライパンに投入する。ジュッという音と共に、甘辛い匂いが立ち昇る。

 

 食欲を刺激する匂いに直撃され、ルカのお腹がクゥと小さく鳴った。辺境伯家では醤油を封印していたし、食事は王妹殿下へのメニューの試食が主で、肉類はほとんど食べていなかった。久しぶりのガッツリ肉食メニューだ。ユウキでは無いが、体が肉を求めているのだ。


「良い匂いー!出来た?ご飯はもう炊けるよ!」

「もうちょいかな」


 照り焼きは、タレを絡めてしっかり味をつけたい。タレから水分が飛び、薄力粉が混ざってとろみがつき、いい感じにツヤが出て来たところで火を止める。付け合わせの生野菜が既にお皿にスタンバイしていた。そこに、食べやすいよう削ぎ切りにした照り焼きチキンを乗せたら完成だ。


「おーいーしー!」

「うん、お酢入れるのも美味しいね」

「ちょっとだけマヨネーズ付けて良い?照りマヨ丼にしたい!」

「良いね。僕も丼ぶりにしようかな。ルカ、生食出来る卵ある?」


 めいめいが好きにカスタマイズして、照り焼きチキンを堪能する。ルカはご飯を少なめにしたので、そのままを味わった。最近忘れかけていたが、ダイエットはまだ継続中なのだ。


「アラン先生、如何ですか?」

「とても美味しいです。これはご飯が進みますね!」

「あ、お代わり要ります?ケイも、ご飯無くなってるけどお代わりする?」

「要らない」


 ケイは言葉少なに答えると、ふいとそっぽを向いた。ルカと目も合わせようとしない。


「ルカさん、私もソウマ君を真似てみたいので、生卵を貰えますか?」

「あ、はい」


 アランに卵を渡しながら、ルカはケイを盗み見る。不機嫌そうなケイが気になったが、それ以上話し掛けられる雰囲気ではなかった。

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