73 晩餐会後半戦
口直しのレモンのソルベの次は、メインディッシュの肉料理、ハンバーグだ。当初の予定では挽き肉と豆腐を半々で作ろうと思っていたが、肉が使えなくなったため、豆腐のみのハンバーグとなった。しかも、つなぎの卵も使えないため、豆腐ハンバーグ自体はかなり淡白な味になる。そのためチーズインにして、コクを出すことにした。
更にチーズイン豆腐ハンバーグを、ソースで煮込む。このソース作りが大変だった。赤ワインにケチャップとバターを加えてソースのベースにしたのだが、そこから各種ハーブや調味料を足したり引いたり、何度も試行錯誤を繰り返し、やっと完成したのが一昨日。しかも試作中に、作りたてよりも時間を置いた方がハンバーグ本体に味が馴染んで美味しいと判明した。そのためハンバーグは朝のうちに作っておき、晩餐会の進行に合わせて温め直すこととなった。
「ルカ、もう火を止めても良い?焦げそう」
「止めて、直ぐ止めて!」
弱火でクツクツ煮込んでいたハンバーグは、ユウキが時々かき混ぜながら見張ってくれていた。一応何かあった時のために予備を作っているが、それをまた温めるとなると時間が足りなくなる。ソルベなんて食べるのに5分も掛からない。ゆったり会話しながらの晩餐だとしても、間が持たなくなってしまう。
幸いソースが焦げたりはせず、煮込みハンバーグは無事だった。ホッとしていると、ケイとソウマがメインディッシュを運ぶために戻って来る。
「出来てる?」
「うん、直ぐお皿に盛るね」
赤茶色に色付いた豆腐ハンバーグを皿の中央に、煮崩れを防ぐために別にしていたブロッコリーや人参を周囲にバランス良く配置する。隠し味に甜麺醤を使っているからか、それとも単に煮詰まってしまったか、ソースがかなりトロリとしていた。個人的にはとろみのあるソースが大好きなルカだが、ちょっと不安になってアランを見上げる。アランは鍋のソースを素早く味見して、にっこり笑って頷いた。
「大丈夫、美味しいですよ」
「良かった……」
「ルカ、今まで出した料理も高評価だから安心して」
「そうそう、料理について俺達にまで質問されるくらいだからな。分かる範囲で答えてるけど、後で呼ばれるかもしれないぞ」
「胃が痛くなる情報ありがとう……」
ルカがお腹を押さえて呻いている間に、アランがサラダを仕上げてくれる。ジャックに渡した豆腐サラダの改良版だ。サラダの次はデザート、そして最後の飲み物。先が見えてきた。
デザートはプチデザートの盛り合わせにした。王妹殿下が甘い物好きだというので、ソウマが張り切って色々作ってくれたのだ。ケーキバイキングで出てくるような、小さくて可愛らしいデザートの数々を、ルカは異空間収納から取り出した。
まずはチョコレートケーキ。これは生クリームの代わりに豆腐を使ってある。それからルカが以前作った豆腐チーズケーキの亜種、オレンジをふんだんに使用したチーズケーキ。生地にオレンジピールを混ぜ、オレンジソースを掛けた品だ。お次は定番のショートケーキ。これには豆腐を使っていない。そして卵も使っていない。
ケーキだけで3種類あるが、デザートはまだ続く。酒器だという小さなグラスに入れたティラミスのほろ苦さで、甘くなり過ぎた口の中をリセット。同じく小さなグラスに入ったプディングも甘さ控えめだが、甘い生クリームで飾ってある。そして、ソウマが特に気合いを入れて作っていた、お団子。
ソウマが作ったお団子は、生地にクリームチーズを入れて洋風にしていた。それをミニグラスにフルーツと一緒に盛り付け、メープルシロップを掛けている。色の濃いメープルシロップはみたらし団子のタレに色味が似ていて、フルーツが添えられているのが不思議な感じだ。だけど試食してみて、その美味しさにびっくりした。さすが和菓子屋の息子、甘味に対するセンスが素晴らしい。
それらを、こちらも盛り付けのセンス抜群のマリナをお手本にしながら、平らなプレートに載せてゆく。隙間にミントの葉や花びらを散らし、見た目も華やか、味も抜群のデザートプレートが完成した。
「これはまた、素敵ですね!」
サラダを送り出したアランが、手放しで褒めてくれる。ルカとしても自信がある。何しろソウマ作のデザートを、マリナ監修で盛り合わせたのだ。自分の能力には懐疑的だが、ルカは仲間達の実力には絶対の自信がある。
「これなら王妹殿下も、お気に召しますよね!」
「ええ、満足して頂けるでしょう!」
最後の飲み物は王妹殿下のお好きな紅茶を、アランが晩餐の場に赴き手ずから淹れる予定だ。一緒に出すジンジャークッキーも既に作成済み、ルカの出番はこれで終了した。
「あー、疲れたー……」
「お疲れ!無事に終わりそうで良かったね!」
料理については戦力外なので、ひたすら片付けをしてくれていたユウキ。食器を洗う手を止めて、ココアを淹れて手渡してくれた。マシュマロ入りだ。
「ありがとー。ユウキもお疲れー、マリナもありがとー」
「ワタシは大した事はしてませんから。ココアありがとう、ユウキ」
「アラン様も飲みますー?」
「いえ、私はまだお仕事がありますからね」
「ごめんなさい!先に休憩しちゃって」
「良いんですよ。後は私に任せて、ゆっくりしていて下さい」
お言葉に甘えて、ユウキとマリナと並んでココアを飲むルカ。カップを包む手からも、飲み込んだココアからも温かさがジワリと広がり、緊張が解れる。溶けたマシュマロの甘さが、ルカの疲れた体に沁み渡った。




