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70 簡易天丼

「これまた美味しいですねぇ!」


 天ぷら初体験のアランが、海老天を頬張りながら笑顔で褒める。ルカも海老の天ぷらは大好きなので、ニコニコバクバク食べまくっていた。


 プリプリと歯応えの良い海老の身と、サクサクの衣の食感の違いが美味しい。海老の甘みを付け塩が引き立てる。付け塩も数種類を用意していたが、シンプルな岩塩が一番合う。噛むほどに海老の旨味が口に弾けて、衣の香ばしさと混じり更に美味しい。


「はー、美味しいー」

「あっ、天丼にしてる!アタシもやる!」


 半熟卵の天ぷらをご飯に乗せて食べるソウマを見て、ユウキが倣う。天丼と言っても天つゆを掛けず塩を振っているだけだが、流れ出た半熟の黄身が白いご飯に絡んで、それだけで十分に美味しそうだ。


「テンドンというのは、以前頂いた親子丼の仲間ですか?」

「はい。ご飯の上におかずになる物を乗せた料理を丼ぶりと言うんです。天ぷらを乗せたら天丼、卵を乗せたら玉子丼。親子丼は、鶏肉と卵の親子なので」

「なるほど。面白いネーミングですね」

「牛肉と卵で他人丼なんてのもありますよ」

 

 話しながら、ルカもソウマを真似て簡易天丼を作る。ご飯にキノコの天ぷらを乗せて塩をパラパラ、その上に置いた半熟卵の天ぷらを半分に割る。トロリと流れた黄身がキノコの天ぷらを伝ってご飯に落ちる。そこを天ぷらと一緒に掬って口へ運ぶ。美味しい、けど天つゆが欲しい!


 ふと見ると、全員がそれぞれの器で天丼を作っていた。マリナはソースを掛けている。その手があった。


「ほー、これも美味しい。揚げ物とご飯は合うんですねえ」

「天むす──天ぷらをおにぎりの具にしたりもしますよ」

「天ぷらが残ったら、作ってみてもらえませんか?」

「良いですよ。海老天たくさんあるし、明日の朝ご飯用にでも作りましょう」


 大皿に山盛りの海老の天ぷらは、1人あたり10匹分食べても残りそうだ。他の天ぷらも食べ切れそうにないので、必然的にストックに回ることになるだろう。


「ルカ、アタシも!アタシも天むす欲しい!」

「分かったから。全員分、2個ずつで良い?」

「悪いねルカ。片付けは引き受けるから」

「アタシのは甜麺醤付けたのも1つ作って!あと大きめにして!」

「ユウキ、そんなに注文つけるなら自分で作れ」


 ワイワイ言いながらもまったりとした夕食の時間。ジャックやウルシュラと一緒に食事を取ったのは最初の夕食だけ、それ以降はずっと別々なので、仲間内だけの気楽な場だ。

 実は何度かジャックから同席したいとの申し出があったが、アランがことごとく断っていた。シェフから料理の見学希望もあったらしいが、それも全て却下された。接近禁止令は継続中である。如何しても連絡調整が必要な場合のみ、ウルシュラが間に立って橋渡しをしてくれる。逆に言えば、ウルシュラにしかルカ達に接触する権利は与えられていない。


 そのため、厨房の扉をノックしたのはウルシュラだと思っていた。


 コンコン!


「ああ、私が出ます。皆さん、特にルカさんは扉に近付かないで下さいね」


 アランが厨房の扉を開けると、そこに立っていたのはジャック。アランは即座に扉を閉めた。


「おい、何で閉めるんだよ!アランだな?お前まだ怒ってんのかよー」


 ジャックは扉の外でガチャガチャやっている。各自にマリナの結界が張りっぱなしの上、厨房全体を覆う結界も張ってある。アランの姿はジャックには見えなかったはずだし、声も聞こえないはずだ。

 それでも扉を開けたのがアランだとの確信があるようで、ジャックは呼び掛ける。


「アラン、開けろよー!王妹殿下から連絡が来たんだよー!へそ曲げてないで協力しようぜー!」

「……マリナさん、今だけ私の声だけがジャックにも聞こえるようにして貰えますか?」

「はい──どうぞ」


 アランがもう一度扉を開けると、ジャックは嬉しげに笑おうとして、でも相変わらずアランの姿が見えないからか微妙な表情になった。抱き着こうとでもしたのだろう、広げた手が中途半端に空中で彷徨っている。


「えー、アラン?居るんだよな?」

「用件だけ簡潔に述べなさい」

「おお、居るんだな。隠れてないで顔見せろよ。親友だろ?」

「用件」

「うわ、なんも無いとこから殺気が漂って来る!怖いんだけど!分かった言うから!あのな、王妹殿下の食事、ウルシュラと全く同じにしてくれってさ!肉も魚も卵も使わないで旨い料理なんて作れんのか?時間も無いし、ここはウチのシェフにも手伝わせるから──」

「必要ありません。用件はそれだけですね?」


 バタン!


「え、おいちょっと!?」


 ガチャガチャドンドン扉を開けようとしているジャックを放置して、アランが席に戻ってくる。放っておいて良いのだろうか。


「良いんですよ。魔法で扉を封印しましたから、絶対に開きませんので安心して下さい。そのうち諦めるでしょう」 


 突然外の音が聞こえなくなる。マリナが結界を調整したらしい。


「ああ、マリナさん、ありがとうございます。それにしても何故今頃になって、王妹殿下の料理に変更があったのでしょう」

「体調が良くないんでしょうか」

「分かりませんねぇ。まあ、元々全員の料理を同じにする予定でしたから、問題ありませんね」


 ウルシュラに合わせてレシピを作って正解だった。王妹殿下の来訪まであと2日。急な料理の変更指示は気になるが、アランの言う通り特に問題は無い。

 それでもルカは一抹の不安を感じた。

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