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65 味噌発見?

「お帰りの際はご連絡ください。直ぐに飛んで参りますので」

「絶対に連絡くださいね!他の奴等に乗り換えたら泣きますよ、こいつが!」


 キュー、キュルルルルー!


 その通り、と相槌を打つようにドラゴンが鳴く。すっかりルカに懐いたドラゴンと兄弟は、しつこい位に念押しして帰っていった。ルカ達を下ろした平地の上空を、名残惜しそうに何度も旋回する彼らを見送っていると、騎馬の一団が丘を下ってきた。丘の上にある領主の館──ジャックの家からの迎えらしい。


 騎馬隊の長はアランと顔見知りらしく、簡単な挨拶の後、ルカ達を馬車に乗せて出発した。予定通り日暮れ前に領主館に到着した一行を、玄関前で待ち受けていたジャックが歓迎する。ジャックの奥方であるウルシュラを紹介され、館に入って夕食を一緒にと誘われた。そこまでは流されるようにスムーズに事が運んだのだが。


「先に、集めた調味料見せてもらったら駄目?」


 ユウキが駄々をこね始めた。パーティーの切込隊長というか本能担当というか、思った事がすぐ口に出る彼女の言葉は、ルカ達の本心を代弁してはいるのだが。


「おい、予定とか段取りとかあるんだから、我儘言うな」


 パーティーの理性担当、ケイが小声でユウキを窘める。しかしユウキは、ケイの配慮を台無しにする大きな声で反論する。


「だって気になるよ!気になって折角の美味しいご飯が味わえなかったら、もったいないじゃん!」

「だからってな」

「お味噌があるかだけでも確認したい!ルカに鑑定してもらえば直ぐ分かるんだから、やってもらおうよ!」


 そうだった。ユウキは味噌が大好きなのだ。豆腐があるんだから味噌もあるはずだと、気持ちは分かるが何の根拠も無い主張をずっと繰り返していたのだ。早く確かめたい──というより早く味噌を手にしたいとの思いが先走っているのだろう。ユウキの中では味噌が発見されるのは確定事項なのだ。


 頑として譲らないユウキに周囲が折れて、夕食前に調味料の確認が行われることになった。案内された別棟の一室には、王侯貴族が食事をするような長い長いテーブルの上に、瓶やら壺やらが所狭しとひしめいていた。一つ一つの鑑定は直ぐに終わるとしても、全部を確認するのは時間が掛かりそうだ。


「凄い……これ、全部魔王国で使われているんですか?」

「ああ、そうかな」


 ジャックの返事の微妙なニュアンスを聞き分け、アランがにっこりとジャックを威圧する。


「ジャック。本当に、これらは全部、魔王国で使われている調味料ですか?神殿契約に違反したら如何なるか、理解していますよね?」

「あー、この辺は違ったかもしれん」


 一瞬で前言撤回したジャック。この人はなかなか油断ならない。調味料の種類を水増しして、豆腐料理のレシピを多くせしめようという魂胆か。

 ルカはアランを真似て、にっこりと笑ってみせた。


「魔王国で使われているか、きっちり鑑定しますから大丈夫ですよ」

「えっ、嬢ちゃんそんな細かい事まで鑑定出来るのか?」

「はい、やろうと思えば」

「うわー、マジかー」


 両手で顔を覆って嘆きのポーズをとるジャック。やはり魔王国では使われていない調味料も並べているのか。辺境伯ともなれば自領の利益のために、多少灰色の手段も必要なのかもしれないが、正直気分は良くない。

 ルカは指の隙間からチラチラ見てくるジャックを無視して、鑑定に取り掛かった。さっさと済ませてしまおう。手近な壺を手に取って、心の中で『鑑定』と唱える。


「シェリービネガー。魔王国では使われてません」

「岩塩。使われてるので数に入れます」

「フェヌグリーク。数えます」

「マジョラム、これも数えます」

「ギー。魔王国でなく帝国の調味料ですね。数えません」


 ルカが流れ作業で鑑定した調味料に、アランがメモを付けて仕分けてゆく。魔王国では使われていない、水増し分の調味料がちらほら出てくる。その度にアランが冷ややかな目をジャックに向け、小細工を見破られたジャックが苦笑いしている。


 そんな気まずい空気を物ともしないユウキが、小さな壺を抱えてやって来た。ユウキはルカとは反対の端から、手当り次第に瓶や壺の蓋を開けては中身を覗いていたのだ。


「ルカ、これ鑑定して!これ色とか匂いとか味噌っぽい!」

「貸して。えーと……」


甜麺醤(てんめんじゃん)

 小麦粉と塩から作られた調味料。魔王国のごく一部で生産、使用されている』


「甜麺醤だって!」

「えー、お味噌じゃないのー?」

「味噌の仲間みたいなものだよ!中国の甘いお味噌!回鍋肉(ホイコーロー)に使うやつ!」

「そうなの!?」


 ルカの説明を聞いて、パアッと顔を輝かせるユウキ。甜麺醤が入った壺を抱えたまま、他にも味噌が無いかと未仕分けの調味料に突進する。他のメンバーも俄然やる気が出たようで、ユウキと同じように調味料を嗅いだり舐めたりと調べ始めた。


 やがてマリナがおずおずと差し出した壺の中身が豆板醤だと判明し、ハオランが嬉しげに八角を見つけてきた。見事に中華食材が並んでいる。魔王国には中国人の転移者が居たのかもしれない。


 結局、ルカ達が探している日本の味噌は、集められた調味料の中には無かった。だが収穫はあった。豆板醤に甜麺醤とくれば、豆腐を使ってあの料理を作らなければ。

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