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63 煮魚定食

 ジャックの領地に出発する前日。ルカの自宅では緊急異世界で和食を食べる(イワシ)会が開かれた。辺境伯領に行ったら醤油を使った料理が食べられないので、今のうちに食い溜めておくためだ。


 初めは炊き込みご飯やみたらし団子など、パパッと食べられる物をストックしておいて、隠れて食べようとの案で合意していたのたが。


「辺境伯家は奥方が獣人というのもあって、獣人の使用人が多いんです。彼らは鼻が利きます、隠れて食べていてもバレますよ」


 とのアランの指摘により廃案となった。例によってユウキが最後まで抵抗していたが、王妹殿下にまで醤油の存在が知られると、王族権限で根こそぎ奪われるかもしれない。そう半ば脅すように説得すると、泣く泣く折れてくれた。


 という訳で、今日の献立は煮魚定食である。白ごはんを主食に白身魚の煮付け、鶏つくねの醤油あんかけ、豆腐のすまし汁、青菜の胡麻和えという、和食尽くしの定食だ。ついでに醤油味の炊き込みご飯を炊いて、明日の朝ご飯用におにぎりにする予定だ。


 醤油を使った料理は下手におすそ分けが出来ないので、最近のイワシ会はルカの家が会場になるのがほとんどだ。勝手知ったる台所なので、皆テキパキと準備して作業に入っている。そして当然のように準会員のアランと、ハオランまでいる。辺境伯領に出発する前の、決起集会のようにも見える。


 品数は多いが手も多いので、料理は程なく出来上がりそうだ。皆何気に料理スキルが上がっている。特にルカは、この頃毎日アランに教えるための豆腐料理を作り、ダイエットのための低カロリー食を工夫しと、ひたすら料理をしていた。そのため自分で思っていたよりも、料理が得意になっていたらしい。それが今日、明確になった。


 ピコン!


 ルカがすまし汁に入れる豆腐を、手の上で切っていた時だった。突然の通知音と共に、視界に半透明なウインドウが現れた。


『新しい職業につきました』


「え、は?」


 ルカは力加減を誤って、手の平を切ってしまうところだった。


「ルカさん?」

「あ、いえ、ちょっと」

 

 大きさがまちまちになった豆腐をすまし汁に入れてから、急いで自分のステータスを確認するルカ。職業欄には『鑑定士』としか無かったはずが、『見習い料理人』が追加されていた。


「見習いかー」

「何なに、如何したのー?」

「なんか私、見習い料理人になったみたいで」

「職業が増えたアルか?」


 ハオランの問いにルカがコクンと頷くと、おおーと感嘆の声を上げながら拍手される。釣られて皆も拍手を始めたので、少々照れくさい。


「お赤飯炊かないと」

「小豆ももち米も無いだろ」

「両方魔王国にあればいいね」

「それより味噌!味噌が欲しいー!」


 赤飯を炊くほどの慶事ではない。アランとハオランがオセキハン?と目で問うてくるので、日本の御祝い料理だと教えておいた。豆類と短粒米もジャックに探してもらっているので、見つかったら作ってみよう。ゴマ塩掛けたお赤飯、美味しいよね。


「あ!あれが有るんだった!」


 ルカが出して来たのは、瓶に入れた昆布の佃煮だった。脳裏に思い描いた赤飯に、ちょこんと添えられていたのだ。赤飯には昆布の佃煮も合う。そして今日の白ごはんにも、断然合う。


「これって佃煮?」

「うん。出汁を取った昆布擬きを使って、作ってみた」

「さすが料理人!」

「見習いだってば」


 和風出汁を取った後の昆布を1cm角に切り、醤油と砂糖で甘辛く煮ただけの、簡単な佃煮だ。変わったことといえば、みりんの代わりに甘口の白ワインを入れてみたこと。料理用に買っていたワインがなかなか減らず、試しに使ったらいい感じになったのだ。

 そう話すと、皆にまた拍手された。讃えられるような事でもない。出汁に砂糖と醤油だけの煮物だと、コクが足りない気がして、本みりんと同じ酒類で見た目も似ている白ワインを入れてみただけなのだ。


「あ、煮魚にも使う?」

「残念、もう煮汁に魚入れちゃったよ」

「追加してみようよ!」


 煮魚は先に調味料を混ぜて煮立たせてから、魚を入れる。既に魚が入って味が染み込んでいるところに、更に白ワインを加えるのは……と渋るルカを拝み倒し、ユウキが追加してしまう。如何なることかと思っていたが、加えた量が僅かだったこともあり、調和してしまった。


「うん、美味しいじゃん!白ワイン入れて正解だよ!」

「ユウキって、調理工程とか無視だよね」


 料理は意外とアバウトでも何とかなる。レシピ本でさえ塩一摘みとか生姜一欠片とか書いてあり、結構適当だ。お菓子作りだと分量はきっちり計量、作業工程を無視すると悲惨なことになったりするが、料理は後からでも修正がきくことが多い。

 

 ルカは豆腐料理のレシピを書くに当たって、今までいかに目分量で調味料を使っていたか思い知った。カップ○杯とか計量スプーン○杯とか書こうとしても、はっきり分からないのだ。世のレシピ本製作者も、同じ悩みを抱えたのだろうか。だから塩一摘みなんて言葉が生まれたのだろうか。


 仲間達とワイワイ煮魚定食を食べながら、ルカは頭の隅で、そんな事を考えていた。

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