58 豆腐スイーツ掛けるだけ
魔王国で使われている調味料を、可能な限り集めること。集まった調味料10種類につき1つ、豆腐料理のレシピを教える。ただし、ミックススパイスのように組み合わせによって際限無く種類が増える調味料は、組み合わせる前の調味料でカウントする。例えばオーロラソースなら、ケチャップとマヨネーズで数える。
それとは別に、魔王国で自生または栽培されている豆類と短粒米も集めること。こちらはルカが知らない品種があれば、豆腐を使ったスイーツのレシピを教える。
ルカが豆腐レシピと引き換えに出した条件だ。もちろん神殿の秘密保持契約付きだ。契約書の内容は抜けや漏れがないよう、アランが完璧に考えてくれた。これでもかと大量の付帯事項がついて、ルカには把握し切れないほどの複雑な契約が結ばれた。
ジャックは神殿契約を結んで直ぐに、領地に飛んで帰った。現地であれこれ指示をするためだ。やる気の漲るその後ろ姿を見送っていると、アランがルカに尋ねる。
「あれで良かったんですか?面倒事に関わるのは嫌でしょう?」
「極力関わらずに済むよう、アラン先生が契約書を整えてくれたじゃないですか。それに、ジャックさんには指名依頼を出そうと思ってたんです。高額な依頼料がレシピで支払えるなら、安いものです」
正確にはジャックに、というよりジャックの奥さんに力を借りて、魔王国に味噌や納豆が無いか調べてもらうつもりだった。魔王国は半分鎖国しているようなものらしく、伝手が無ければ入国も難しいのだ。そのため和食材料探索も手付かずだった。それを今回、一気にやってしまおうとの魂胆だ。
「アラン先生こそ良かったんですか?隠れ蓑になってもらって」
「私から言い出した事ですよ、良いに決まっています。私なら問い合わせが来ても、適当にあしらえますからね」
ジャックからの情報漏洩は神殿契約で防げるが、他から調べられて、レシピ元がルカだと辿るのも不可能ではない。既に冒険者ギルドの厨房で、ルカ達は豆腐も豆腐料理も作ってしまっている。職員がチラホラ覗きに来ていたし、材料のひよこ豆をルカが大量購入したことや、アランを通じてジャックと繋がりが出来たことから、簡単に推測出来る。
だから、誰かに何か聞かれたら、アランがレシピの考案者だと名前を出して良いと言われた。責任者出てこい!なんて事になっても、アランが防波堤になってくれるとか。有り難いが申し訳無い。
「それより、先払い分のレシピを作ってみたいのですが。今からルカさんのお宅にお邪魔しても?」
「はい。あ、途中でお店に寄っても良いですか?買い足したい物があって」
手付けとして、ジャックには簡単な豆腐料理レシピを幾つか渡していた。豆腐サラダと洋風白和え、それとレシピと言うのも烏滸がましい、豆腐にはメープルシロップを掛けても美味しいよとの豆知識だ。
豆腐サラダは生野菜と豆腐を混ぜるだけだが、豆腐をひと工夫するレシピにした。水切りした豆腐をオリーブオイルに漬けて使うのだ。オリーブオイルにハーブやスパイスを加えると、味にバリエーションが生まれると補足しておいた。プロの料理人さん達に、あれこれ試して工夫してもらえば、王族のお口に合う物が出来ると信じている。
洋風白和えは、ブロッコリーやコーンを豆腐ペーストで和えたレシピだ。醤油は秘匿したいので、豆腐ペーストはマヨネーズや胡椒での味付けにしておいた。この世界の食文化は洋風寄りなので、慣れた味付けのほうが受け入れられやすいだろうとの計算もある。これも別の野菜を使ったり、ハムやベーコンを足したりすればアレンジが広がる。プロの皆さんに、是非頑張ってもらいたい。
「豆腐がデザートになると聞いて、ジャックが目を剥いていましたね」
食料品店でメープルシロップを買う時、ジャックの驚きようを思い出したのか、アランがククッと笑った。
「ジャムとかチョコレートシロップなんかも美味しいですよ。トッピングで華やかに出来ますし、女性受けも良いかと」
「試しましょう!」
ブルーベリージャムを追加で購入するアラン。チャレンジャーだ。ルカはきな粉と黒蜜を掛けた豆腐が好きで、日本ではよく食べていた。ひよこ豆できな粉も作れないだろうか。
「アラン先生、実験してみて良いですか?」
「さすがルカさん、飽くなき探究心ですねぇ」
「いえ、単なる食い意地です」
自宅に戻ると早速、ルカはひよこ豆できな粉を作ってみた。ひよこ豆をフライパンで乾煎りし、すり鉢で粉にする。この頃すり鉢が大活躍だ。和風出汁の粉末を作ろうと、苦労して探し出したかいがあった。
ひよこ豆豆腐にひよこ豆きな粉と、メープルシロップを掛ける。いけた。
「やった!きな粉ゲット!ひよこ豆様々!」
「ルカさんは美味しそうに食べますねー」
「あ、いまいちですか?」
「いえ、美味しいですよ。でもブルーベリージャムの方が好みです」
やっぱり提供する豆腐料理レシピは、洋風のものが無難なようだ。ジャックがどれだけ頑張ってくれるか分からないが、豆腐ハンバーグや豆腐グラタンのレシピを優先して渡そうと、ルカは決めたのだった。




