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5 お醤油の発見

 その日ルカは、いつものように冒険者ギルドで仕事をしていた。ルカは鑑定士として雇われているので、普段は事務室で書類仕事をし、必要な時だけカウンターに呼ばれてアイテムの鑑定を行うのが基本だ。たまに高級品や危険物が持ち込まれると、応接室やギルドマスターの部屋に呼ばれることもある。新人と言っていいルカがそんな重要な鑑定に呼ばれるのは、異世界転移者ゆえのチート能力のせいだ。


 ルカ達5人がこの世界に転移してきた先は、この冒険者ギルドの訓練場だった。この世界に転移してくる者は、ほぼ例外なく各国の冒険者ギルドに現れるよう調整されているそうだ。異世界転移のような強力な魔力の揺らぎが観測されると、専門機関に知らされ、転移先を書き換える魔術が使われるらしい。

 この専門機関の創設者も異世界からの転移者だという。自分と同じ苦労を後輩達が味合わぬようにと、転移者の相互協力や情報共有、新人転移者育成のための専門機関を組織した。先人は偉大なり。おかげさまでルカ達は、モンスターに喰われかけたり野盗に襲われたりする事もなく、無事冒険者ギルドにて保護された。


 保護されたルカ達がまず最初にしたことは、転移者向けの講習会受講だった。どの転移者も、初っ端に同じ講習を受ける決まりなのだとか。この世界についてのあれこれ──簡単な地理歴史や魔法について、通貨や衣食住など生活に必要な知識その他──を教えられたその後で、本人の同意を得た上で、各人の職業が鑑定された。ユウキが勇者、ソウマが聖騎士、ケイが賢者、マリナが聖女だと判明し、ルカの順番が巡ってきた。


 ルカとしては、皆凄い職業ばかりなので、自分も魔術師とか召喚士とか、そんな職業だといいなと思っていた。平凡な自分には高望みだろうか、せめて少しは戦力になれる職業ならとつらつら考えているうちに鑑定が終わり、判明した『鑑定士』というどう考えても非戦闘員な職業に、泣きそうになっていたのだが。


 ルカが鑑定士だと分かった途端、周りにいた人々が何故か雄叫びを上げた。勇者とか賢者とか、聞いた瞬間チートだと分かるような職業にも反応しなかった人達がだ。訳も分からぬうちにルカが何処に所属するかで熾烈な勧誘合戦が始まり、怖くなったルカが真っ青な顔でユウキに泣きつき、怒ったユウキが初めての『勇者の雷(ライ○イン)』を周囲に食らわせる事態になったのだった。


 後から聞いた話によると、転移者がごろごろいるこの世界では、勇者や賢者はそう珍しくもない職業らしい。もちろん高位ジョブでチートと呼ぶに相応しい能力値だが、魔王が倒された平和なこの世界では、高過ぎる戦闘能力はむしろ敬遠されるのだそうだ。代わって歓迎されるのが生産系や創造系の、何かを生み出す職業と、それらが何かを見極める鑑定士。特に鑑定士は人数が少なくて、引く手数多なのだとか。


 という訳で、冒険者ギルドと商人ギルドと国まで出てきての三つ巴戦の結果、勝ち残った冒険者ギルドに拝み倒されて、ルカは冒険者ギルドで働くことになったのだった。


 閑話休題。

 さて、今日のルカはギルドマスターの部屋にいた。以前持ち込まれた『呪いの首飾り』の解呪が、きちんと成功しているかの確認に呼ばれたのだ。確認自体は直ぐに終わり、無害化されたとの証明書を、ギルドマスター指導の元で作成していた時だった。


「ルカ、勇者ちゃん達が呼んでるんだけど」


 開けっ放しの扉からヒョイと顔を出し、同僚の受付嬢が声を掛けてきた。


「仕事のことか?私用ならちょいと待って貰ってろ」


 証明書と格闘しているルカに代わり、ギルドマスターが返事をする。今ルカに教えているのはギルドの定形証明書ではなく、国に提出するややこしい証明書だ。間違いや抜けがあると後々嫌味を言われるやつなので、先に完成させたいのだ。

 ルカも必要事項を記入しながら、仕事だろうけどこれが終わってからじゃ駄目かなと思っていた。常識人のソウマがいるので、いつも私用の場合は昼休憩か仕事終わりの時間に訪ねてくるので。


「仕事じゃないみたいですけど……」

「なら待ってて貰え」

「でも、【ショーユ】が見つかったとか言ってまして」

「え!?お醤油見つかったの!?」


 思わず立ち上がり掛けたルカの頭を、ギルドマスターが杖で一撃。元冒険者のギルドマスターは片足が不自由で、歩くのに杖を頼りにしている。だが歩行補助のための杖のはずが、こうして武器として使われる頻度が高いのは如何してだ。


「先に証明書」

「はい……」


 しかしソワソワと気もそぞろのルカに、ギルドマスターは溜息をつくと、受付嬢に仕事を振る。


「おい、しょうがねーから勇者ユウキ達をここに連れて来い。あと待たせるだろうから、茶菓子でも出してやってくれ」


 こうして案内されて来たユウキ達御一行様。先頭きってやって来たユウキが、ついまた気を逸してギルドマスターの杖で小突かれているルカに、満面の笑顔で両手を差し出した。


「見て!1年ぶりのお醤油!」


 ユウキの両手で大事そうに包まれていたのは、醤油パック。よくお弁当に付いている、プラスチック製の密封された小袋に入ったお醤油だった。


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