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46 ヤケ食い卵かけご飯

 冒険者ギルドマスターに料理講習の報告を終え、ルカは独り家路についた。アランが食事に誘ってくれたが断り、寮まで送るという申し出も辞退してしまった。慣れない仕事でずっと気を張っていたので、早く一人になりたかった。アランと話すのすら億劫なほど疲れ切っていたのだ。


 こんな日は家まで歩いて5分の近距離通勤が有り難い。寮の自分の部屋に入り鍵を掛けると、そのまま浴室に直行した。本音はベッドに転がりたいところだが、今寝転ぶと動けなくなりそうだ。明日も仕事だ、お風呂にだけは入っておきたい。日中ほとんど外にいたので埃っぽいし、汗と一緒に色々流してしまいたかった。


 湯船にお湯を張りながら、今日一日を振り返る。如何してもあの女性冒険者のことを考えてしまう。自分がもっと上手く対応していれば、あんな結果にはならなかったのでは。そう思うと力不足を痛感する。


 女性冒険者はギルドの受付で、冒険者登録証を返却、と言うより投げ棄てていったらしい。登録証は冒険者なら必ず携行しなければならない身分証だ。本気で冒険者を辞めるという意思表示なのだろう。


 情報通の受付担当者が言う事には、彼女は豪商の末娘で、親が決めた貴族との結婚を嫌って冒険者になったらしい。アランに憧れていて、今日の料理講習を楽しみにしていたとか。

 それなのに、よりによってアランに貴族との結婚を勧められていた。彼女の行動は褒められたものでは無かったが、憧れの人に厳しいことを言われ、ショックでヤケになったのだと思うと少し可哀想だ。


「甘いわよ。あの女はアラン様とお近づきになって、上手いこと妻の座に収まりたかっただけ。冒険者になったのはその為の手段よ」

「そうそう、アラン様が全く脈無しだって分かったから、冒険者やる意味が無くなったんだよ」


 などと同僚達はルカを慰めてくれたが、かえって情けなくなってしまい、泣きそうになってしまった。それもあって心配顔のアランを振り切って、逃げるように帰宅した。


「あー、食べたい、何でも良いから食べまくりたい」


 ルカはストレスが掛かると食べて発散したくなる。全身ゴシゴシ洗いながら、こんな日にこそ取っておきの弁当を食べようと決めた。ユウキ達と一緒に作ったお弁当だ。


 風呂から上がり、マリナが綺麗に詰めてくれたお弁当を貪り食う。ひたすらに食う。デザート用に別の容器に入れてくれていた果物も、ガツガツ頬張った。一口サイズにカットしてあるリンゴや梨を、2つ3つとフォークに刺して一気に口に入れる。栗鼠のように頬を膨らませて食べ尽くした。


「……足りない」


 そんな筈はないのだが、まだ食べ足りない気がする。きんつばの残りがあるが、甘い物よりもご飯が食べたい。さらさらとお粥、いやお茶漬け、いや。


「……卵かけご飯」


 そう、卵かけご飯が良い。ルカは鍋ごと保存していた炊きたてご飯を取り出した。卵と醤油パックも並べ、食卓にガツン!と卵をぶつける。力が入り過ぎた。大きくヒビ割れ溢れそうな生卵を慎重に器の上に移動させ、何とか無事に卵を割る。そこに醤油を1パック分垂らす。


 ルカはご飯が少なめの、トロトロの卵かけご飯が好きだ。炊きたてご飯を入れて混ぜ、器を傾けると流れてくる卵かけご飯を、まずは一口啜る。記憶よりも塩味が強いのは、日本では麺つゆで卵かけご飯を作っていたからだろう。ああでも美味しい。ズルズルと行儀悪く音を立て、半分まではそのまま食べる。


 残った卵かけご飯には、まずバターをちょい足しした。溶けたバターで塩辛さがマイルドになった。バター醤油は鉄板だ。更に鰹節があれば完璧なのだが、無いので代わりにツナを添えてみた。なかなかイケる。


 2杯目の卵かけご飯は、醤油を使わずゴマ油と塩で味付けだ。これも半分ほどを一気に掻っ込んだ。これには味付け海苔が合いそうだ。味付け海苔で巻いて食べたい。海苔の佃煮でも良い。昆布の佃煮でも。どれも無い物ねだりなので、こちらにはチーズをちょい足しした。洋風になったが美味だ。


 昆布の佃煮なら、和風出汁をとった後の昆布擬きで作れないだろうか。チーズ乗せ卵かけご飯をモグモグしながら、ルカは今度佃煮を作ってみようと考えた。いい感じに気分が上向きになってきている。あと一押しだ。


 3杯目の卵かけご飯には、焼き魚用に作って放置していたポン酢を掛けてみる。さっぱりしていて重たくなってきたお腹にもスルスル入る。これは大根おろしをちょい足ししたい。代用でラディッシュをチーズ削り器で削ってみた。荒削りになったが味は合う。辛味の少ないラディッシュの方が、卵かけご飯の優しい味に馴染んでルカの好みだった。

 

 お弁当とデザートの果物を食べた後の、卵かけご飯3杯。いくら軽めにご飯を入れたにしても食べ過ぎだ。お腹はパンパンで苦しい。うつ伏せになっただけで吐きそうだ。

 だけど、落ち込んでいた気分はほぼ回復した。食べてストレス発散は体に良くないが、ついついやってしまう。何か他のストレス発散方法を考えなければ。


「とりあえず、しばらくトレーニングは2倍かな」


 ベッドに仰向けに寝転がり、窓の外の夜空を見上げる。この世界でも、星が激しく瞬くと翌日の天気が悪くなるのだろうか。だとしたら室内で出来る筋トレを頑張らないと。お腹が落ち着いたら今夜から腕立て伏せでもやっておこう。

 そう思っていたのに、満腹からの眠気には抗えなかった。そのまま眠ってしまったルカは、翌朝になって再度決意する。今度こそ、本腰を入れてダイエットしようと。

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