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43 料理講習当日

 料理講習当日は、風もなく穏やかな晴天に恵まれた。予定通り冒険者ギルド訓練場での講習が可能となり、ルカの助手としての最初の仕事は調理器具や食材を運搬する事から始まった。と言っても、いつも異世界で和食を食べる(イワシ)会で使わせてもらっている厨房に置いていた荷物をルカの異空間収納(アイテムボックス)に入れ、訓練場で出すだけだ。


「助かりました、ルカさん。ありがとうございます」


 先に来て焚き火用の穴を掘っていたアランに礼を言われ、いえいえと謙遜する。異世界転移者特典アイテムボックスの収納力のお陰で、ルカの労力など微々たるものだ。しかもアイテムボックスに出し入れする時は、どんなに重くて嵩張る物でも片手で持ち上げられる不思議仕様だ。非力なルカでも楽々荷物運びが出来る。


 厨房から運んだ机を並べ、そこに調理器具や食材を出してゆく。今日の料理講習は人気で、定員15名は直ぐに埋まってしまった。アランやルカ達担当者も含めて20人分の昼食を作るので、なかなかの量の食材が並ぶ。メニューはスープパスタと野草のサラダだ。


 アイテムボックスの荷物を全て出し終わった頃には、受講生達がちらほら訓練場に現れ始めた。聞いていた通りルカと同い年くらいか、年下の子が多い。新人冒険者がほとんどなのだろう、装備品にはまだ傷もなく、ソワソワとこちらの様子を窺う仕草が初々しい。


 この世界の成人年齢は18歳だが、平民は15歳前後で見習いとして仕事を始めるらしい。冒険者としてギルドに登録出来るのも15歳からで、成人前だと後見人が必要になる。未成年だけではパーティーも組めない決まりだ。ユウキ達も、初めはハオランが後見人につき、一緒に冒険に出ていた。

 

「アラン殿、ルカ、一先ず挨拶を」


 集まった新人冒険者達に薫陶を垂れていた冒険者ギルドマスターが、アランとルカを呼ぶ。勇者アランの名前に、受講生達が一気に色めき立った。やはり皆アラン目当てで料理講習に申し込んだのだろう、準備の手を止めて近づいてゆくアランを、キラキラした目が出迎える。


「えー、私は午後からの講習を担当します。食事は冒険者にとっての命綱ですから、皆さん真剣に学んでいってくださいね」

「ハイッ!」

 

 おおお、そろった良いお返事だ。これなら素直に講習を受けてくれそうだ。ルカは簡単に、名前とアランの助手を務めることだけ言って終わりにした。勇者アランと出会えた感動に水を差したくなかったので、なるべく空気でいることにした。目立たず出しゃばらず、今日一日を乗り越えようと決めたルカだった。


 さて、受講生達が訓練場の反対側で解体作業を練習しているうちに、昼食作りだ。


 まずはスープパスタの具を準備する。冒険中の食事を想定しているので、シンプルにドライトマトとキノコ類、あとはサラミだ。調理方法も野外で作るのと同じようにする徹底振りだった。ルカがキノコ類を手で割いている隣、アランは小振りのナイフで器用にサラミを薄く削っている。ゴボウをささがきにする様な感じで、まな板も使わず空中での作業だ。終わるとドライトマトにもナイフで切り込みを入れ、一口サイズに切り裂いてゆく。


 具材が揃うと、掘っていた穴の上に木切れを積んで、アランが炎の魔法で火を付けた。一瞬で燃え上がり、ルカは思わず拍手をした。


「いやー、そう素直に感心されると照れますねぇ」


 アランが鍋にオリーブオイルを入れて火にかける。鍋の持ち手を通したのが槍の柄なのも芸が細かい。焚き火の両側の地面にY字型の木の枝を刺して槍を横たえ、鉄の鍋を支えている。


 熱したオリーブオイルにナイフで潰したガーリックを加え、香りを出してからキノコを炒める。キノコがしんなりした所に、今度は水魔法で水を入れたアラン。ルカはまた拍手しながら、さすが勇者様だと称賛した。炎と水、相反する属性の魔法を両方使える人は限られるのだ。例え同じ勇者でも、魔法が苦手らしいユウキはどちらも使えないので、さすが勇者アランと言うべきか。


 アランは鼻歌を歌いながら料理を続ける。沸騰したらサラミとドライトマトを入れ、煮込んでいる間に別の鍋でパスタを茹でる。スープに直接パスタを投入しても良いのだが、午前中の講習がいつ終わるか正確には分からないので今日は別々に茹でることになった。茹で上がったパスタは器に入れてオリーブオイルを絡めておく。食べる直前にスープを掛ければ完成だ。


 サラダの方は王都の近くの草原に自生する野草だけを使った。こちらも包丁は使わず、千切って混ぜただけだ。味付けにはハーブソルトをまぶし、パルミジャーノチーズを削り器で削って振り掛けてある。


「少し時間が余りましたね」

「デザートに果物でも付けましょうか」

 

 訓練場の向こうの解体講習は、まだ終わりそうにない。場所が離れていて良かったと、ルカは心底思った。近くで見たり、血の臭いを嗅いだりせずに済んで本当に良かった。新人冒険者達の悲鳴や呻き声が聞こえてくるが、彼らはこの後食事が出来るのか心配になる。


 まあ、余っても職員の誰かが食べてくれるよね。そう割り切ることにして、ルカはデザート用のリンゴの皮を剥いた。ウサギリンゴにしようとして、解体しているのが一角ウサギだった事を思い出し、慌てて耳を削ぎ落とした。

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