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4 醤油と味噌さえあれば

「やっぱり醤油と味噌だよねー」


 冒険者ギルド併設の食事処に場所を移し、イワシ会は第2部に突入している。テーブルに並ぶ料理はカルパッチョにグラタン、コートレットと見事に洋風のものばかりだ。


「だな。何にでも醤油や味噌で味付けしておけば、取り敢えず和食っぽくはなるからな」


 コートレットを切り分けながらケイが言うことに、一同深く頷く。食べ物の魔改造が大好きな日本人にとって、何でも和風の味付けにするのは得意技だ。例えば今ケイがフォークで突き刺しているコートレットだって、醤油ベースのたれを掛ければ和風カツレツ、卵でとじてご飯に乗せたらカツ丼だ。立派に和食である。


「だけど、その醤油と味噌が見つからないから問題なのでしょう?」

「そうなんだよね。似たような物はちらほらあるのに」


 醤油と似た調味料としては、ユウキ達が魚醤を見つけてきたことがある。鑑定したルカは独特の香りが苦手だったが、日本でも、しょっつるのような魚醤は造られているので使ってみた。だがやっぱり、これじゃない感が拭えず、魚醤と醤油は別物だとの結論に至った。素材探索クエストの依頼票に、わざわざ『大豆を使った調味料』と明記したのはこれが原因だ。ちなみに既に別物だと鑑定された他の調味料たちも、依頼票に追加されていっている。そのため冒険者ギルドの掲示板に貼られた依頼票がかなり場所を取っていて、ルカは見るたびに邪魔になっていないか心配になっている。


「大豆さえ見つからないもんな」

「大豆が見つかっても、そこから醤油とか味噌とか造れるんですか?」

「日本でも手作り味噌キットとか売ってたじゃん。材料さえ揃えば、造れるんじゃない?」

「醤油の材料って確か、大豆と麹と……麹って、何処で売ってるんだろう」

「知らない。そもそも麹って何?」


 冒険者4人が首を傾げる中、ルカが記憶の片隅にあった雑学を引っ張り出す。


「麹菌ってカビの一種だったと思う。日本だと種麹屋さんっていう色んな麹造ってる会社があったけど、この世界にはあるのかな。私は聞いたことない」

「麹ってカビなの?それだと探すのも難しそう」

「そもそもコウジカビがこの世界に存在するかも分からないよね。地球でも、コウジカビがあるのは日本近辺だけだった気がする」

「そうなの?望み薄じゃん!」


 がっくりと項垂れるユウキ。そこにソウマが、申し訳無さそうに追撃ちを掛ける。


「味噌とか日本酒も、造るのに麹が必要じゃなかった?」

「ええっ、味噌も!?」


 ユウキの絶望が深くなる。彼女は味噌が大好きなのだ。日本にいた時は、たとえ遅刻しそうになっても毎日味噌汁を飲んで登校し、部活帰りのラーメンは味噌味と決めていた。

 だけど、コウジカビがこの世界に存在しない可能性は大いにあり得る。なにせ醤油も味噌も日本酒も、和食にはあまり関係ないがコチュジャンも発見出来ていない。コチュジャンも造るのに麹を使っていたはずだ。


 更にルカには、残念なお知らせがあった。


「思い出した。あのね、もしかしたら大豆もこの世界には無いのかも」

「えぇー、何でー!?」


 ルカは、素材探索クエストの依頼票に書いていた、大豆という単語が上手く自動翻訳されていなかった事を話した。


「なるほど、大豆がこの世界には存在しないから、大きな豆なんて曖昧な翻訳になった可能性があると」

「うん。単に存在を知られていないから、って可能性もあるとは思うけど」

「どっちも有りそうだよな。でもそうなると、大豆以外の豆で醤油や味噌が造れるのか……」

「コウジカビも無かったら無理だよね。というか、一から醤油や味噌を造れる気がしない」

「あーっ、大豆が無かったら豆腐も納豆も駄目じゃん!」


 ユウキが叫びながら立ち上がり、ガタンと木の椅子が倒れた。周りのテーブルの冒険者達が驚いてビクッとなったり、腰を浮かせて振り向いたりしている。それらに頭を下げながら、マリナが椅子を直してユウキを座らせた。


「そんなー、お豆腐の味噌汁も納豆巻きも食べられないのー?いーやーだー!」


 駄々をこねるユウキの背中をポンポン叩きながら、マリナが困ったようにもう片方の手を頬に当てる。お淑やかなマリナは見た目まで聖女様で、ファンも多い。今もチラチラとマリナを盗み見ている連中が、そこかしこで目を細めている。手を合わせて拝んでいる奴までいる。


 そのうちマリナ教とか出来るかもしれないな、と思いながら、ルカはマリナを崇める男からそっと目を逸らした。


「どうする?素材探索クエスト、まだ出しとく?」

「一応継続で良いんじゃないかな。まだ諦めるには早いよ」

「そうだね。希望は捨てずにおくよ」


 パーティーの常識人、リーダーを任せられているソウマの決定で、醤油と味噌の探索クエストは続行となった。だが、ルカは正直に言って半分諦めていた。初めのうちこそ続けざまに持ち込まれていた調味料たちも、最近は滅多に鑑定に回ってこないからだ。


 しかし数日後、もう見つからないかと思っていた醤油が、意外な場所から発見されたのである。


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