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39 お弁当文化

「和食とはちょっと違うけど、お弁当も日本の文化だよね」


 弁当作りも終盤に差し掛かり、ランチボックスに各自好きな物を詰めていると、ソウマがこんな事を言い出した。


「こんな風にご飯とおかずをバランス良く、しかも見た目にも綺麗に詰めて学校に持っていくの、日本くらいだったなーって」

BENTO(べんとー)が海外でも通じるらしいしな。ハオランさんが学生の頃は、昼食にパンと果物だけビニール袋に入れて持って行ってたって言ってた」

「この世界もそんな感じだよね」


 皆それぞれ手を動かしながら、相槌を打つ。なるほど、この世界はその辺りも西洋風と言えるかもしれない。ルカが見掛けた同僚達のランチボックスも、中身はシンプルというか、ダイナミックというか、素材そのものを詰めただけのものばかりだった。そもそも家から持ってくる人が少ないし。


 しかし日本では、幼稚園では毎日お弁当が当たり前、学校に上がっても給食がなければ弁当持参だ。コンビニにもスーパーにもデパ地下にも弁当が並び、松花堂弁当とか幕の内弁当とか駅弁とか、豪華な弁当もたくさんあった。日常生活に弁当が溢れていた。


「この弁当、あまり人前で出さない方が良いかもな」

 

 ケイが手元のランチボックスを見ながら、ボソリと零す。ケイの詰めた弁当は、おにぎりもおかずも、定規で引いたように真っ直ぐ区切られていた。きっちり等分された区画に、おにぎりとおかずが半々で入れられている。


「何でー?人目なんて気にしないで、好きな時に食べようよー」


 ユウキの弁当はおかず多めだ。しかも肉類が多いガッツリ系の弁当だ。ユウキは最前線で戦うタイプの勇者なので、運動量が多くお腹が減るのだろう、ランチボックスも大きい。とりあえず詰められるだけ詰め込みました、といった弁当になっている。


「下手に見せびらかすと羨ましがられて欲しがられるよ。ユウキは強請られたら直ぐに人にあげちゃうだろう?あっという間に無くなっても良いの?」


 ソウマはおにぎり中心だ。おかずは野菜多めのヘルシーな弁当になっている。プチトマトやブロッコリーで隙間を埋めているので、彩りも鮮やかだ。


「ワタシはお弁当だけは、どんなに頼まれても誰にも渡しません。ユウキのお弁当が無くなっても、あげませんからね」


 ソウマの忠告を聞いてユウキが視線を向けた先、マリナが笑顔で先手を打った。自分の弁当が無くなってもマリナに分けてもらう気満々だったユウキは、ブーブー文句を垂れる。


「えー、駄目なのー?」

「駄目です。ルカに大事に食べると約束しましたから」

「ルカー」

「ノーコメント」


 巻き込まないで欲しい。ルカはそそくさと席を立ち、空いた食器を片付けることにした。冒険中のことはルカには分からない。ルカの言葉を免罪符に、貴重な食料をばら撒かれても困る。


「ユウキ、マリナやルカに甘えるな。ただでさえ俺達のパーティーはエンゲル係数が高いんだ、もう少し自重しろ」

「そうだよ。お願いされて断る自信がないなら、人前で食べない。僕もお弁当は分けないからね」


 ソウマにも重ねて釘を刺され、渋々頷いたユウキ。だけどユウキの事だ、うっかり人前で弁当を話題にしたり、パンの袋と間違えてランチボックスを出したり、何かしらやらかしそうだ。


 そんな失礼な予想をしていたルカの肩を、誰かがチョンチョンと突付いた。食器を洗う手を止めて見ると、マリナだった。


「ルカ、交代します。ルカも自分のお弁当を詰めてください」

「私は良いよ、全部マリナ達が持って行って」


 ルカは王都に残るのだから、食事には不自由しない。食事処でも屋台でも、好きな物を好きなだけ食べられるのだ。ここは1ヶ月という長丁場のクエストに赴くマリナ達に譲りたい。


 にっこり笑って食器洗いに戻ると、マリナはすんなり引き下がった。と思ったら、暫くしてまたトントン肩を叩かれる。


「これ、ルカのお弁当です。ユウキに狙われる前に仕舞ってくださいね」


 マリナは両手に1つずつ、ランチボックスを持っていた。正方形のランチボックスの対角線上に、種類の違う小さなおにぎりが3個並び、両脇におかずがバランス良く入れられている。ハンバーグメインの弁当と、コロッケメインの弁当、両方とも日本料理で言う五色、白、黒、赤、黄、緑が揃っている。

 お弁当詰めるのにもセンスがあるんだなと、ルカは実感した。何というか、他の皆の弁当と明らかに違う。同じ物を詰めているはずなのに、マリナの詰めた弁当だけレベルが違う。高級料理店の仕出し弁当に見える。


「ルカ?ウチが作ったお弁当、気に入らんの?」


 唐突に、マリナが広島弁になった。若干声が低くなり、笑顔が深くなる。迫力が……広島弁だと怒っていると思われる、と以前マリナは言っていたが、これ怒ってないの?


「ルーカー?」

「はいっ、いえ、気に入らないなんてとんでもない!ありがとうございますっ!」

「ルカ、如何かしたのか?」

「ううん、ナンデモナイヨー」


 ケイ達にはマリナの広島弁は聞こえていなかったようだ。ユウキはバッチリ聞こえたようだが、全力で聞こえない振りをしている。小麦色に日焼けしたユウキの顔色が白く見える。早く仕舞ってー!と唇が動き、目で訴えてくる。


 ユウキの涙目に急かされて、ルカは2つのお弁当をありがたく受け取り、異空間収納(アイテムボックス)の奥深くに丁寧に仕舞い込んだ。こうして丸一日を費やした弁当作りは、全員の協力のもと恙無く、無事終了したのだった。

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