38 ポテトサラダに干しブドウ
時刻はちょうど午後のお茶の時間だ。大量のおにぎりは一旦異空間収納に避難させ、一息入れる。昼食が遅めだったので、おやつを食べるほどは空腹ではなく、ジュースを飲みながらの小休憩だ。ルカがドライフルーツやナッツを出してみたが、皆に要らないと言われた。明日から毎日食べるだろうから、今日は止めておくと。
その後はお弁当のおかず作りだ。マリナの希望のポテトサラダや、ポテサラから派生させてコロッケ、ハンバーグ等の手間の掛かる料理を作ってゆく。男子2人がハンバーグを引き受けてくれたので、ルカ達はポテトサラダ担当だ。小休憩前から魔導コンロで茹でていたジャガイモに、菜箸を突き刺してみた。まだ抵抗感がある。
「ジャガイモもうちょっとだ」
「ゆで卵はもう時間ですよ」
「ユウキお願い、火から下ろして水に漬けといてー」
先にゆで卵が出来たので、ユウキに殻剥きを頼んでおく。料理が苦手なユウキに難しい作業は任せられないので、ユウキにでも出来そうなことを割り振っておくのだ。基準は小学生が出来る作業かどうか。ルカは従弟の小学4年生を判断基準にした。
直ぐにジャガイモも茹で上がり、マリナと2人で熱々のジャガイモの皮を剥く。この作業が面倒な上に手を火傷しそうで、ルカは好きではなかったのだが。
「おおおー、簡単に剥ける!」
ソウマが茹でる前のジャガイモに包丁で、ぐるりと一周切り込みを入れると良いと教えてくれた。切り込みは浅く1mmくらいの深さで入れる。そして茹で上がったジャガイモをちょっとだけ水に潜らせて、表面だけが冷めたところで手早く皮を剥くと、ツルリと綺麗に簡単に出来たのだ。
「凄いよこれ!ソウマ何で知ってたの?」
「ジャガイモを使った和菓子を作ろうとした事があって、その時うちの店の人に聞いたんだ」
和菓子屋の息子としての修行の一環だろうか。ジャガイモって和菓子のイメージが無いなと思いながら、ルカは皮を剥いたジャガイモをフォークで潰してゆく。
「ルカー、卵の殻剥けたよー」
「ありがと、次はゆで卵切ってってー。マリナー」
マリナがきゅうりを輪切りにしているので、ユウキへの指示をバトンタッチする。ポテトサラダはマリナの好みの物を数種類作るので、ゆで卵の切り方にもこだわりがあるかもしれない。ルカの家では半月切りのゆで卵が入っていた。だがデパートの惣菜売り場で買った小洒落たポテトサラダには、櫛形切りのゆで卵だった。
マッシュポテトはボウルに2つ分になった。1つはコロッケ用なので避けておき、ルカは次に魔導コンロに向かう。ベーコンを炒めるためだ。ポテトサラダの1つはジャガイモ、ベーコン、ゆで卵に、マヨネーズと胡椒で味付けらしい。
マリナは2つめのポテトサラダの具を準備中だ。小さめのボウルに先程切っていたきゅうりを塩もみしたのと、ハム、コーンを入れている。そこにユウキが切ったゆで卵が加わった。こちらはマヨネーズとリンゴ酢で、さっぱりとした味に仕上げるらしい。
3つめは如何するのだろうと見ていると、マリナは台所をさっと見回し、ある物に目を留めた。ルカが休憩時間に出したナッツだ。
「これ、もらっても良いですか?」
「いいけど、え、ポテトサラダに使うの?」
「はい、あと蜂蜜があれば分けて欲しいです」
「え、蜂蜜も使うの?」
マリナが作った3つめのポテトサラダは、砕いたナッツとクリームチーズを入れ、マヨネーズと蜂蜜で味付けしたものだった。
「なんかお洒落!」
「サツマイモで作っても美味しいですよ」
「あ、これに干しブドウ入れちゃ駄目?」
ナッツと一緒に出していたドライフルーツの中に干しブドウを発見し、ユウキが尋ねる。と同時にケイが叫んだ。
「余計な物を入れるな!」
「え、合うと思うけど」
ルカがユウキの肩を持つと、ケイが顔を顰めてまた叫ぶ。
「ポテトサラダに干しブドウは認めん!」
「えー、何でー?」
「もしかしてケイ、酢豚にパイナップルも認めないタイプですか?」
「ああ、そうかも!前にポテサラのリンゴだけ選り分けてたよ!」
美味しいのにねー、と女子3人が頷き合っているところに、ソウマまで合流する。
「僕もこの組み合わせなら、干しブドウが入っても美味しいと思うよ」
「ソウマ、お前もか……!」
カエサルみたいな台詞を芝居がかった口調で吐いて、ケイがガックリと崩れ落ちる。そんなに嫌いならと、優しいマリナがケイ用に、干しブドウ無しのを別容器に入れていた。干しブドウ自体が嫌いなのではなく、料理に果物が入っているのが駄目なようだから、別で摂取すればいい。ドライフルーツは冒険者には欠かせない栄養源だ。
「前に食べたミカン入りのポテサラも美味しかったけどなー」
「そんな物が存在するのか……」
「さくらんぼ入りも有るよね!」
「お前ら、俺に対する嫌がらせか?」
「食べろとは言ってないじゃん。でも好き嫌いすると大きくなれないよー」
「甘い果物ばっか食べてると太るぞ」
「はいはい、そこまでにしようねー」
喧嘩になりそうな気配を感知して、ソウマが仲裁に入る。保父さんか。低レベルな争いを収める手際が良すぎるのは、いつもの事だからか。
ソウマに叱られるケイとユウキを横目に、ルカは3つめのポテトサラダを味見した。味までお洒落だ。今度サツマイモで作ってみよう。




